不自由な体で孫の仇討ち-新興犯罪組織首領殺人事件 その8 小説から学ぶCAMR

目安時間:約 6分

不自由な体で孫の仇討ち-新興犯罪組織首領殺人事件


 小説から学ぶCAMR その8


「まだよくわからんところもあるが・・・運動システムの問題解決で硬くなったのなら・・・・そうなると俺の場合は硬くなりすぎたんではないか?」


「そうですね。問題解決とは言っても、応急的にあり合わせのもので行う問題解決ですからね。基本的に動くために必要な筋力が麻痺によって低下したので、使えるものも限られています。単に硬くするだけで、硬さを調整するメカニズムではないのです。


 運動システムはともかく体を硬くすることに必死なので、繰り返し、繰り返し体を硬くして、暴走気味になったと考えられます。ともかく結果的に必要以上に体が硬くなってしまったのです。体がこわばって動きが悪くなるし、体を動かすにも大変な努力が必要になりますよね。


 だからこの上田法でまず硬くなりすぎた状態を少しでも柔らかい状態にするわけです。柔らかくなると、関節の可動域が広がって、運動の範囲が広がって動きやすくなるのです」


「昨日はその直後に体が頼りなくなったが・・」


「そうですね。元々弛緩した身体が基になっていて、それでは体重を支えたりできないので体を硬くしたのです。つまりその硬い状態を利用して歩かれてたのですが、硬くなりすぎて歩くのが却って難しくなってしまった。上田法でその硬い状態を低下させると、元々の弛緩した体の状態に近づいて支持性が頼りない状態になったのでしょう」


「前の施設でも理学療法士が、体を柔らかくすると言って、ストレッチだのリラクゼーションだのと言ってやっておったが、その上田法のようには柔らかくならなかった」


「そうですね。まだ十分に普及していない方法なのです。ともかく、それでこわばりはとれたのですが、元々弛緩状態があって支持ができないから硬くしているわけです。


 だから硬さが取れたからと言って筋力が回復してくるわけではありません。元の弛緩状態が露わになるだけです。


 痙性麻痺という言葉は『力が出なくなって、硬くなる』と説明されますが、その二つは元々別の現象だと考えた方が良いですね」


「ふうん、スジは通っているようだな・・・・となると、硬さは必要だから硬くなることは良いことだが、硬くなりすぎないようにする方法が見つかれば良いわけだ」


「そ、そうです。凄いですね、仰るとおりです。硬くなりすぎないように調整することと、できるだけ全身の力や柔軟性が改善した方が良いですね。この二つが運動の状態を良くするために必要です。麻痺そのものは治らないのですが、麻痺の程度によって、麻痺した筋肉でも筋トレすると多少は力が強くなるようです。


 麻痺のない方の体はできるだけ鍛えます。


 そのためにも、まず硬さを取るために上田法、そしてそのあとは昨日やったような色々な運動をするのです。色々な運動を繰り返して鍛えるのです。そうすると力がついてきます。そして色々な運動を十分にやると、今度は硬くなるのを抑えるようなのです。


 元々力が出ないから硬くしているわけで、力が少しでも出てくれば今度は外骨格系の問題解決に頼らなくても良いわけです。そして僕の経験では、全身で多様な運動をするのが、体が硬くなるのを防ぐ方法なのです。


 先ほど仰った『硬くなりすぎないように調整する方法』とは、どうもこの全身の多様な運動を継続し続けることです・・・おっと、もうおしゃべりはおしまいです。今度は昨日やった運動をしましょう。しばらく楽にできるまで繰り返しますので・・・・」


 藤田さんは「ふむ」と言って素直に従われた。ある程度満足されたのだろう。また運動する時間は貴重であると感じておられるのだろう。昨日の運動課題を一通りしてから10メートル歩行の計測をした。


「今日は54歩、30秒です。昨日の最初が94歩、47秒ですから、歩数は半分強、秒数は三分の二くらいになってますね」


「よし、わかった!あんた、海君だっけ、海君の実験はわかりやすい!結果が明白だな。明日からはよろしくお願いします!」と急に真顔で言われてびっくりしたが、嬉しかった(その9に続く)


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