感動の運動スキル!(その4)(第182週目)

目安時間:約 7分

感動の運動スキル!(その4)(第182週目)


 セラピストが、患者さんの「生活課題達成の運動スキル獲得」を手伝うためには、運動スキルとは何か、どのように獲得されるか、について学ぶ必要がある。 


 まず「運動スキルとは何か?」という問題だが、従来の医療的リハビリテーション分野での伝統的な考え方は、「運動スキルとは、課題達成の運動を正確に何度も繰り返して経験し、その感覚入力の繰り返しによって頭の中に確立される運動プログラムである」ということだろう。


 一度プログラムとしてできあがるとそれを基に課題達成のための運動が状況に応じて適正に修正されて繰り返されるという訳だ。いわゆる「運動コントロールのプログラム説」だ。


 これはなんとも妙なアイデアである。


 元々人は動物や人の体を観察・研究していろいろな機能を達成する機械を作ってきた。その結果、いろいろな機能を実現する機械が生まれてきた。コンピュータの様な記憶し、判断し、命令する機械も作られた。


 ところが今度は逆に、人の脳を理解するために、コンピュータをそのモデルとして考えるようになってしまった。運動学習とは、憶えるべき運動を何度も繰り返してその動きをプログラムとして脳に蓄え、体を動かすときの指令として使うのだ、と。


 元々人の動きをモデルに作ったロボットだが、今度はそれをモデルとして人の運動を理解しようとしている。これではまるで主客転倒ではないか?


 昔から運動学習分野では、一つの運動を憶え学習するためには何度も何度も莫大に繰り返すことが重要だということはよく知られてきた。しかしながら、もし人が一つの運動を憶えるために莫大な繰り返し練習が必要だとすると、人の脳はとんでもなく低性能のコンピュータということになる。そんなことでは運動学習のためだけに莫大な時間を過ごすことになってしまう。それでは生存競争を生き残れなかったのではないか?


 これに他の方向性を示したのがソ連の運動生理学者のベルンシュタインだ。


 彼は最初労働者の運動技能を研究していたのだが、妙なことに気がついた。熟練した鍛冶屋がハンマーで釘の頭を打つのを観察する。ハンマーは毎回間違いなく釘の頭をヒットする。熟練の技である。しかしその様子を運動分析機で観察してみると、肩の角度や腕、ハンマーの軌跡は毎回微妙にずれていることに気がつく。


 ロボットの腕ではもし肩の動きが1ミリずれると、1メートル先のハンマーは何センチ以上も大きくズレてしまう。


 でもロボットは正確に同じ運動を繰り返すことができるのだ。というのも、体は硬いフレームや腕や関節を持っていてそれぞれの部分の動きはブレや誤差が極端に少ない。一つ一つの部品を見ても、ロボットの部品は軸の回りを回ったり行ったりきたりする自由度1の動きしかしない。それががっちりと組み合わされて動きを生み出すので常に同じ運動を繰り返す訳だ。だからコンピュータのプログラムで毎回同じ運動を生み出しうる訳だ。だからロボットは同じ運動を正確に繰り返す、いや、むしろその一つの運動しかできないのである。


(しかし実際には環境の条件で同じ動きを繰り返さないことも多いとか(^^))


 一方人間の体は、柔軟な筋肉を収縮させて引っ張る力だけで動きをコントロールする。筋はゴムの様に粘性を持つので同じ運動を繰り返すのは難しいのだが、骨の何方向にもこの柔軟な筋肉が付着していてそれらでバランスをとりながら骨をコントロールしていることになる。関節も平面関節や球関節では無限の動き方を靱帯で制限している。しかしそれでも二軸・三軸の動きを生み出すので一つの往復運動しかしない機械とは比べものにならないくらい豊富で多様な動きとなる。


 極端に言えば、コントロールしにくいグニャグニャでルーズな体で、毎回微妙に違う運動を生み出し、それでもなお正確に同じ運動結果を生み出せるようになることが運動学習の本質なのである、とベルンシュタインは指摘したのだ。


 つまり機械と人の運動システムの根本的な作動の違いは、機械は同じ運動しか繰り返せないので同じ結果を生み出すのだが、人は毎回同じ運動は繰り返せないのだが、その毎回異なった運動で同じ結果を生み出していることになる。ここに難しさがあるというわけだ。


 ではどうやってその難しい課題をこなしているのだろうか・・・・? どうです?おもしろくないですか?次回はそれをどうやっているのか、そしてその運動学習がどのように行われているかをもう少し考察して、運動学習の本質に迫ってみましょう(^^) (その5に続く)


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