体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その4

目安時間:約 7分

体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その4


 今回はこのシリーズ突然の終了のお知らせとお詫びです。


 実は今回の企画を始めようと思ったのは、僕のウォーキングの距離と時間、体重と体脂肪率を2年間にわたってiPhoneの日記系ソフトにその日の出来事とともに記録していたからである。


 記録したウォーキングのデータ数は2年間で300日程度あったはずだ。これをエクセルに入力して、一気に散布図を作ろうという算段であった。


 だがなかなか仕事に取りかからない僕の悪い癖が出てしまった。企画が始まって漸くiPhoneをみながら、少しずつエクセルに入力していたのである。


 本来このようなテーマで話を進める以上、まずはデータ整理からするべきだろう。


 言い訳になるが、日々データをとりながら、なんとなくデータの意味することがわかったような気がしていたのだ。


 というのもウォーキングを始めた最初の一年は体重も体脂肪率もほとんど変化しなかった。実際最初の1年はエクセルに入力したので、散布図は明確だ。体重は68-69㎏、体脂肪率は最初と変わらず25%辺りの非常に狭い領域に集中していた。


 開始時の体重は71-72㎏程度だったが、始めてすぐに体重は3キロ程度減って68-69㎏で安定したわけだ。運動だけをして、食事制限はしないという条件で始めたので、運動量や他の食事を含む生活習慣との相互作用の中で、これらの指標はこの辺りに自己組織化されたわけだ。


 CAMRでは変化を起こすときは多要素多部位同時治療方略を使うが、運動量だけの単要素の変化で体重を減らそうという効率の悪いアプローチである。運動量だけの単要素の変化による効果を知りたいと言えば聞こえが良いが、実際には食い意地が張っていたのである(^^;)


 変化が現れたのは一年半くらいの時から。運動が楽にできるようになったのでいつのまにか毎日のウォーキングだけでなく、近所のスーパーストアや銀行にも歩いて行くようになっていた。週に1回程度は近くの低山にも登る。単要素変化とは言え、量も質的多様性も次第に大きくなったのである。


 すると体重変化が大きくなる。特徴としては日を追う毎になだらかに低くなるような線形の変化ではない。上がったり下がったりをランダムに繰り返すのである。体脂肪率はそうでもない。


 そしてその時期は突然終わって、それまでとは明らかに低い体重と体脂肪率のエリアで安定するようになった。それぞれ64㎏、23%辺りで落ち着く。


 日々、値を記録しながら、これは最初、運動量増加と他の変化しない日常生活活動などとの相互作用により体重と体脂肪率は狭い範囲に引きつけられて安定した。が、最終的には運動の質的・量的増加により、より低い領域でのアトラクターに惹きつけられて安定する位相転移ではないか。またその時に一時的な「カオス」な状態が現れたのではないかと思っていたのである。


 だからデータ整理から入らず思い込みから始めてしまった。


 でも僕の悪い癖だ。単純な作業はすぐにしんどくなってしまう。さらに昨年末から色々な病気や入院が続いて、年末からずっと体調不良が続いていたのも影響した。正月からはずっと副鼻腔炎が続いていたが、コロナが流行っているので薬をもらいに病院にも行きにくい。鼻水の洪水に対処しながらの作業であった。


 そんな時、作業の合間にちょっとした気分転換を図った。最近iPhoneのバッテリーがすぐ切れる。そこで正月明けにインターネットでSE3を購入して、それが良いタイミングで届いた。で、我慢ができず、ニューiPhoneへの移行作業を行うことにした。もちろんデータが消えたら大変と思い、バックアップをとった。


 しかし、ともかく上手くいかない。実は新旧のSIMカードを間違えたのだ。理由はもはや言いたくない。次第に僕の身に小さな逆上の連鎖を生んで、最後は大きな逆上の雪崩となってしまった。つまり古いiPhoneの全データ消失である。何をしたかは書きたくない。最後は頭が回らなかったのだ。


 慌ててバックアップを戻したが、なんと基本データだけで、僕のウォーキング・データはまったく残っていなかったという次第(^^;)データがあれば、カオスな状態がどの程度続いたかとか、位相転移の様子がよくわかったかも知れない・・・ 約束を果たせないまま勝手に終了するのは断腸の思いだが、仕方ない。


 ここまで読んでくださった皆様、本当に申し訳なかったです!(終わり)


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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その3

目安時間:約 6分

体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その3


 前回までの原始歩行消失の説明を通して、システム論の基本的な視点は理解してもらえたのではないかと思う。古典的システム論であれ、動的システム論であれ、基本となる枠組みは、「世の中のさまざまな現象は、それに関係する様々な要素感の相互作用によって生まれ、変化したり、安定したりする」ということだった。


 では古典的システム論と動的システム論の違いは何かというと、動的システム論は説明する言語が数字であるということだ。つまり数学や物理学の世界である。これは困った。というのも僕は数学が苦手、というより大嫌いである。


 数学嫌いと言えば、かのゲーテも大の数学嫌いだったらしい。だからゲーテの色彩論は、ニュートン派の人達からエセ科学扱いされた。


 まあニュートンの色彩論は、プリズムを通した光を紙の上に落としてそれを観察した。そして光の色は波長の違いだと説明した。なるほどと思う。光を分解して色を数値化して見せたわけだ。しかしニュートンの説明に人は存在しない。人の存在はあやふやであり、客観的であるべき科学の枠組みでは人は排除されるべきなのだろう。


 一方同じプリズムを使ったゲーテの色彩論は、プリズムを直接覗いたのである。しかもかなり多彩に実験をしている。これを知って感動した。色を見て、感じるのは人そのものではないか。人にとっての色とは何か、という視点。人の存在を排除しない科学。「人の存在を中心にしてこその色であり、これこそ人のための科学ではないか!」と感動した。


 それで早速、ゲーテの本を何冊か買って読んだのだが、実に大仰な表現が多彩に使われたり、非常に緻密というか、まあ率直に言ってやたらとこだわった感じがあったりして読みにくかった・・・・だから途中で読むのを止めてしまった(^^;)という・・・・ごめんなさい、話が逸れました(^^;) 


 本論に戻るが、僕は数学が嫌いなので動的システム論と偉そうに言ってもそんなに理解しているわけではない(^^;)


 しかしテーレンらは、その動的システム論を僕のような数学嫌いの人間でも理解できるように、数字ではなく日常生活言語を使って説明してくれている。今回のエッセイの最後に紹介している。興味のある人は是非とも読まれることを勧める。


 さて、漸く本題に入る。


 今回はこの動的システム論の視点から僕のウォーキングによる体重などの様々な指標の変化を考察してみたいと思う。


 どういう手法を用いるかというと、位相空間図というものだ。2つの変数で作られる空間である。今回は横軸に体脂肪値、縦軸に体重をとっている。そこにある日の体脂肪値と体重の交叉する点を打つわけだ。そして時間の経過に従って点を打っていくのである。そうすると体重や体脂肪率の変化する様子が時間経過とともに視覚的に理解できるのである。(その4に続く)


お勧めの動的システム論の本


・発達へのダイナミックシステム・アプローチ 認知と行為の発生プロセスとメカニズム: エスター・テーレン、リンダ・スミス 新曜社


 後、日常生活言語で不確定性や非線形システムなどの紹介をしてくれている本があります。入門書に良いですよ。ゲーテの話も出てきます(^^)読み物としても楽しい。


・カオス-新しい科学を作る: J・グリック 新潮文庫



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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その2

目安時間:約 6分

体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その2


 前回、テーレンらは「脳の成熟に伴って原始歩行が消失する」という従来からの要素還元論あるいは単純な因果関係の説明には不満であったと述べた。そして動的システム論の視点からの説明を試みたのである。


 動的システム論にしろ、古典的なシステム論にしろ、その主張の最も基本の枠組みは「世の中のさまざまな現象は、それに関係する様々な要素感の相互作用によって生まれ、変化したり、安定したりする」ということである。


 つまり原始歩行と呼ばれる運動も様々な要素間の相互作用によって生まれて、その状態を変化させているのではないか、と考えるわけだ。


 たとえば原始歩行の消失した赤ちゃんをお湯につけると原始歩行が再び観察されることはよく知られていた。


 テーレンらはこれを基に、重力や下肢重量、筋力などのいくつかの要素が影響し合っているのではないかというシステム論の視点に沿って、以下のような検証を進める。


・原始歩行消失の時期には下肢の脂肪量が増加し、下肢全体の重量が増加している。これによって下肢筋力が相対的に弱ったことになり、重力に逆らって下肢を持ち上げられなくなり、消失するのではないか。だからお湯につけると浮力によって再び下肢運動が可能になるのではないか


・原始歩行がみられる新生児の時期からトレッドミル上で歩行運動を継続すると原始歩行は消失しない。つまり筋トレをして筋力を改善・維持すれば原始歩行は消失しないと考えられる


・左右のベルトの速度が異なるトレッドミル上に原始歩行のみられる新生児を乗せる。すると新生児といえども練習なくそれらの課題にうまく適応して柔軟に歩行の動きを生み出すことができた。たとえば早いベルトの上に置いた脚はゆっくり、遅いベルトの上に置いた脚は速く動かして、両方のベルトの中間速度で乱れることなく交互に脚を運ぶことができた。


 つまり新生児に対して「反射」と呼ぶのは失礼なくらい、周りの状況変化に対応して協調した動きを生み出すことができたのである。「原始歩行」という名前は「新生児はより原始的存在である」という誤解あるいは偏見によるものである。


 これらから示唆されることは、従来仮定されていたように、「原始歩行の消失は、脳の成熟(髄鞘化)によって抑制される」ではないということだ。


 そして原始歩行と呼ばれる歩行は、実は最初から協調され、状況に応じて適応的に変化する成人の歩行の特徴を備えているということ。まあ、簡単に言えば、新生児の原始歩行は、その後にみられる成人の歩行と同じ、連続しているものと言えるわけだ。


 まあ、これだけ見てもわかると思うが、要素還元論での因果関係の見方は単純で理解しやすい。しかし、まるで人の体をロボットの様に仮定しているので、とても単純な説明をしてしまう。実際、「お湯につけると再び出現する」といった現象をうまく説明できないし、偏見による誤解を生んでしまうのかもしれない。 


 一方、「様々な要素感の相互作用」というシステム論の視点から見直してみると、上述のように丸っきり異なった説明が生まれてくる。まあ、その分、説明にたくさんの手間がかかるのだが。


 さて、くどいようだがもう一度まとめておこう。


 新生児にみられる歩行はその後の歩行と連続していて、状況変化に応じて協調された動きを生み出せる。つまり新生時期からの歩行のパターンは重力や下肢重量、筋力、学習経験などの様々な要素間の相互作用によって、その現れる状態が様々に変化するのである・・・あっ、やややっ、またウォーキングや体重変化の話から逸れたままではないかっ!・・・申し訳ない、次回は戻りますから(^^;))(その3に続く)


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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その1

目安時間:約 6分

毎週火曜日の連続エッセイ、再開です!(^^)


体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その1


 以前、「俺のウォーキング」というシリーズで、退職後にウォーキングを始めたことを書いた。建前は健康のためであり、股関節・膝関節の痛みを軽くするためだ。でも実際には出っ張ったお腹を引っ込めたいという密かな願いもあった。 というのも開始当時の僕の出っ張り(腹囲)は平均98㎝程度。体重は71-72㎏位、体脂肪率は25-26%位、血圧は上が150位だった。結構なメタボだったのである(^^;)その他に股関節痛と膝関節痛がその頃の悩みであった。


 「俺のウォーキング」ではウォーキングを開始して2ヶ月くらいの間に起こった内容を書いている。このシリーズではその後の上の4つの指標(腹囲、体重、体脂肪率、血圧)の変化を追いながら「動的システム論」というアイデアを紹介してみたい。


 動的システム論は、僕達リハビリの分野ではテーレンとスミスによって運動発達の研究領域で導入され、紹介された。


 これまでの運動発達における僕達リハビリテーション分野の伝統的な考え方は、要素還元論の枠組みで説明されている。


 要素還元論の考え方とは、ある現象を説明するために、まずその現象を構成する要素に分解していく。たとえば歩行不安定という現象(あるいは問題)が起きると、人の運動システムを構成する様々な要素・部位に分解していく。たとえば筋力、柔軟性、持久力、感覚、認知などの要素に分解する。そして部位にも分けてみる。その結果、下肢の筋力に低下がみられれば、「下肢筋力の低下」が原因で「歩行不安定が起こる」などと因果の関係を想定する。


 運動発達もそうで、「運動発達という現象はどのように起きるか?」という問いに対して、「運動発達は脳の成熟という要素変化によって起きてくる。脳の成熟とは脳神経の髄鞘化のことである。髄鞘化に従って脳は成熟し、運動は協調・洗練され、新しい運動が発達してくるのである」と「脳の成熟という一要素が原因として運動発達が起こるのだ」と因果の関係を想定するわけだ。


 まあ、脳の中に運動発達の設計図があり、成熟によってこの設計図通りに運動発達が起こると考えるのである。


 あるいはこれには対立する環境説というのがあって、「環境からの影響を脳が学習することで、運動発達に繋がる」とするわけだ。


 いずれにしても脳の中の設計図か環境の影響の学習かというある特定の要素(脳)の変化が原因で運動発達が起こると説明するわけだ。


 テーレンらはこの説明にはどうも満足しなかったようだ。果たして、そんな単純なメカニズムで発達が起きているのだろうか?


 たとえば生後直後から原始歩行という現象が見られる。これは生後数ヶ月以内に消失してしまう。この現象は要素還元論では以下のように説明される。


 原始歩行は原始反射の一種である。つまり脳の状態が未熟なので抑制が利かなくて、原始歩行のような未熟な原始反射が優位に出現するのだ。しかし数ヶ月もすると脳の成熟が進み、この原始歩行は抑制されるようになるのである。だから消失する。再び現れる歩行はより成熟して協調された歩行であり、原始歩行とは別物である、などと説明される。


 そこでテーレンらは、「この説明は間違ってるんでないの?」という挑戦を動的システム論の視点から始めるのである・・・・あ、ウォーキングの話からいきなり逸れてしまったけど、そのうちに戻りますから(^^;))(その2に続く)


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