感動の運動スキル!(その8)(第186週目)
ベルンシュタインや生態心理学、動的システム論のテーレンら、その他の研究を通じてわかってきた運動スキル学習のことを簡単にまとめておこう。
もちろんこれらのアイデアを真実と鵜呑みする必要はない。うまく道具として役立てたいし、有用な道具であるかどうかも臨床で見極めていただければと思う。
①運動スキル学習は、実際に達成するべき運動課題を通してしか学べない。
たとえば歩行スキルを身につけるためには歩いてみるしかない。現実に出会う様々に変化する環境内を安全に歩くための運動スキルは、様々な環境内を歩くことによってしか得られないのである。
②人の運動システムは物理的に非常に個性的である。
つまり個別性が高い。同じ運動課題を同じ条件で行っても個人ごとにやり方が全然違っていたり、学習過程が異なっていたりする。だからこそ一様な教え方は意味をなさないこともあり、基本的にその人自身が利用可能な運動リソースを見つけて、可能な運動スキルを試していかないといけないのである。
③運動スキル学習は知覚情報活動を通して行われる。
知覚情報活動は、動くことが基本である。視覚はカメラのように受身に光を得ているのではない。形をなぞるような眼球の動きがないと形や距離がわからない。聴覚も音がした方を動いて見る、つまりアクティブに聴くことによって方向や距離、音の性質などが情報として得られることが視覚障害者の研究で示唆されている。触覚もアクティブに触っていかないと形や表面の肌理、重さなどいろいろの性質もわからない。知覚情報を受け取るということは、まずアクティブに動いて探っていくということなのである。
従って他者が動かしたり感覚入力したりするということと実際の運動スキル学習ということはまったく別のことをやっているのであって、運動学習の目的に適っていないのである。
④学校では視覚、聴覚、触覚などと感覚毎のモデュールが独立しているように学ぶが、運動スキルの学習中は、常に動員できる知覚はできるだけ参加で探索の活動をしているのである。
たとえば初心者がピアノを弾くときは、視覚が主導的な役割を担っているようだが、同時に触覚によっても学習している。だからいつのまにか見なくても弾けるようになるわけだ。
⑤自ら動き、探索することによって次々に明らかになる知覚情報がある。
触ったり振ったりしてわかる性質、動いて見る角度を変えると見える形、叩いて聴いてみて初めてわかる性質など。課題達成の運動スキルを探ることもまたそうである。脚を踏み締めるときの大地の性質と自分の体の反応、握りしめた棒の安定性と自分の体の動揺などもまた動くことによってわかってくる自らの身体、関係している環境、そして身体と環境の関係である。
簡単に言えば知覚情報は与えられているのではない。自らピックアップしているのだ。
そしてこれによって次の運動が導かれ修正されるのである。生態心理学のギブソンはこの知覚情報をアフォーダンスと呼んでいる(ように思う)。
⑥運動スキルは転移する。
それは運動の形が似ているからではなく、作動が似ている場合に転移する。たとえば冬のオリンピアンである橋本聖子さんは夏には自転車競技で日本代表になっている。接地面の小さい道具に乗ってバランスをとりながら左右交互に脚を踏み締めて前進する」という作動が似ているからだ。
⑦生態心理学では動物の活動は遂行的活動と探索的活動の2種類に分けている。
リードによると探索的活動は知覚情報の探索と利用の活動である。つまりCAMR流に言えば、利用可能な運動リソースを探し、様々に試し、課題達成可能な運動スキルを創造する活動である。つまり動いて知覚情報を得て、課題達成の方法を導き出す活動である。
さて、どうだろうか?要は、運動スキル学習とは学習者本人が必要な課題を通して、動いて色々試すことでしか得られないと言うことである。決してセラピストが「エッヘン!私、運動の専門家ですから!」と威張って他人に教えられるものではない。
次回は臨床で運動リソースの豊富化と運動スキル学習を進める具体的な方法について検討してみたい。(その9に続く)
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