前回は、CAMRでは人の運動システムがどのような仕組みで動くかという「メカニズム」の視点だけではなく、どういう目的で動くか、どのように運動変化するかという「人の運動システムの作動の特徴」からも人の運動システムを理解しているということを述べた。
その中で「状況性」という作動の特徴を紹介した。人の運動には「特定の正しい運動の形ややり方は存在しない。もし「正しい運動は何か」と考えるなら、「環境・状況の変化に応じて適切に運動の形ややり方を変化させて、適応的に運動課題を達成・維持するように変化する運動のこと」である。
今回は「自律性」という作動の特徴を紹介しよう。
人の運動変化を観察していると、人の運動システムは、その人の意識からは独立して作動していることが多い。たとえば普通歩くという動作は、「あそこに行こう」と思えば無意識に遂行される。全く別のことを考えていても問題なく歩いて目標を達成する。
また腓骨神経マヒがあると下垂足でつま先が引っかかり、転倒しそうになるが、特に意識しなくても膝を高く挙げ、安定して足底がパタンと設置するように「鶏歩」という歩行スキルを生み出す。片麻痺になるとマヒ側下肢が出ないので自然に「分回し」や「健側のつま先立ち」などの歩行スキルを生み出して、患側下肢を振り出して歩かれるようになる。腰椎ヘルニアの痛みがあると、脊柱はヘルニア部を圧迫しないように逃避性の側彎が起きて、さらに体幹を硬く固めて、できるだけ痛みを避けるような問題解決を図る。運動システムは自律的に問題解決を図っているのである。
つまり必要な運動課題は自律的に達成されることも多いし、達成に問題が起きると、運動システムは意識しなくても何とか必要な運動課題を達成するために、自律的な問題解決を図る訳だ。
こう考えると、たとえば脳性運動障害後に見られる現象は全て症状ではないだろうと思える。中には必ず問題解決の作動による現象が混じっているはずである。
脳卒中片麻痺の患者さんでは、最初は弛緩状態から始まる。脳性マヒのあかちゃんも最初の1から2ヶ月は弛緩状態である。弛緩状態というのは可動性のある骨格が水の袋に入っているような状態である。体幹からぶら下がった弛緩状態の上肢は体幹をその方向に引っ張ってバランスを崩す。また揺れてしまい、動くための大きな外乱の原因になる。
これでは思うように動けないので運動システムは問題を図る。体の中に筋肉を硬くするメカニズムを見つけて弛緩状態の筋肉を硬くするのである。そうすれば一つの塊となって健側の体についてくるし、下肢が硬くなれば支持も可能になる。
そのメカニズムは伸張反射や原始反射の閾値を下げて反射活動を亢進させる。さらに筋固有のキャッチ収縮のようなメカニズムを動員して硬くなる。
約1世紀前のジャクソンの仮説では、脳性運動障害後には陰性徴候と陽性徴候の2種類の症状が現れるとしていた。しかしCAMRでは陰性徴候が脳性運動障害の主な症状であり、筋が硬くなったり伸張反射が亢進したりの症状は運動システムの問題解決ではないか、と考えている。
また、これにはさらに新たな問題が加わってくる。最初は体を硬くすることは有効だが、硬くする作動は過剰に繰り返されて硬くなりすぎる。すると柔軟性が失われ運動範囲や重心の移動範囲が小さくなる。動くために硬くしたのに動きそのものが消えてしまうのである。さらに加えて不快感や痛みが出現してくる。
このように最初は問題解決のはずが、過剰に繰り返されて新たな問題を生み出すような問題解決を「偽解決」と呼ぶ。
こうして見ると脳性運動障害後の現象は、本来の弛緩の症状に加えて運動システムの問題解決の作動による現象が加わり、さらに問題解決の作動が過剰に繰り返されたことによる偽解決状態の3種類の現象が混合していることになる。これが脳性運動障害の理解を難しくしている複雑さの正体なのだろう。
このように3種類の現象が混在すると考えると、これまで説明に矛盾、混乱していた脳性運動障害の説明がよりすっきりと納得できるのである。
たとえば弛緩状態の筋の硬さを生み出す作動は、支持性や運動性を生み出すために必要だ。しかしそれが過剰に繰り返されて硬さを増し、動けなくなる。さらに不快感や痛みを伴うなどの新たな問題を生み出す偽解決状態こそが一番の問題であると分かる。だから、リハビリでは「支持性と運動性のバランスを上手くとること」が重要になってくる。「筋の硬過ぎる偽解決状態」を改善して運動性を高める上田法のような徒手療法を利用することで、支持性と運動性のバランスをとるアプローチは有効である。
CAMRがこれまでのリハビリ・アプローチと大きく異なる点の一つは、「自律性を基に障害を理解する」ことで「新しい障害像」が持てるようになり、それで新しい評価やアプローチの方針ややり方が生まれてくることだ。(後編に続く)







-1024x538.png)














