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「人は旧型のプログラム制御のロボットか?」
1. AIロボットの凄さ
最近のAIロボットの進化は凄いですね。たとえば格闘するロボットは戦いながらパンチを食らってバランスを崩して倒れます。思わぬ姿勢で倒れ込んだりします。毎回異なった姿勢で倒れるのですが、それでもなんとか毎回異なった方法で立ち上がってきます。
実はAIロボットは、様々な立ち上がり方を設計者からプログラミングされているわけではありません。自ら様々に転んで、そこから動けるように動いて試行錯誤しながら何とか立ち上がる方法を自分で発見、修正して学習しているのです。
実はこの一連の立ち上がり方の学習は、「人の運動システムの作動」をモデルに作られています。
たとえば赤ちゃんが最初に立ち上がる時のことを考えてみましょう。赤ちゃんは誰かに立ち方を教えられてはいません。動けるように動きながらその中から立ち上がる方法を試行錯誤し、自ら発見、修正、創造して立ち上がっているのです。
赤ちゃんが様々な姿勢から自分で起き上がれるように、AIロボットも様々な姿勢からどのように起き上がるかを自分で試行錯誤しながら発見・修正して、課題達成の方法である「運動スキル」を創造して身につけているのです。
ただ実際にロボットを動かして試行錯誤すると時間もかかるし、機械も摩耗して壊れたりします。それで仮想空間の中で実際のロボットの物理的性質を設定した仮想ロボットがその学習をします。たとえば短時間の間に何十万回、何百万回も倒れて、そこから起き上がる試行錯誤をしていくわけです。偶然に課題達成しそうな運動が現れると、これを修正して使える運動スキルとして学習します。これは強化学習などと呼ばれています。
従来のように、もし設計者が「こうやって立つべき」というプログラムを入力していると想定した転げ方の時には立てますが、想定外の転げ方をしたらもう立ち上がることができません。たとえば立ち上がりに「両腕を使う」立ち方をプログラムしていると、もし転倒時に片腕を体の下に敷いてしまうと使えなくて立ち上がることができなくなります。
しかし何十万回、何百万回と様々な転び方をしながら、そこから自分で立ち方を探索・発見・修正したAIロボットは様々な立ち方の運動スキルを創造し、学習していますので、珍しい新奇な倒れ方の状況になっても何とか新しい適切な運動スキルを生み出して立ち上がることができる訳です。
2. 一方でリハビリのセラピストの「人の運動システム」の理解は?
一方で僕たちリハビリのセラピストは人の運動システムをどのように理解していますか?学校で習う人の運動システムはなんとなくロボットをモデルとして習うことが普通です。ロボットには設計者が意図する正しい運動があるのです。
だからセラピストは、「人には正しい運動があるのだ」となんとなく考えています。片麻痺患者さんの分回し歩行を見ると正しい歩き方ではないと思い、正しい歩き方を指導しようとします。なんとなく健康な若者の颯爽とした歩き方が「正しい歩き方」だとイメージしているので、そんな歩き方を指導しようとします。
そして「正しい運動感覚の入力を通して正しい歩き方を教えるのだ」などとイメージしています。
3. なんだか変だなと思いませんか?
つまりAIロボットを作っている工学者は、「人の運動システムは動けるように動いてその試行錯誤の過程から運動スキルを自ら発見・修正・創造して学習している」と理解してします。人の運動システムの作動をよく理解して、それをモデルにAIロボットを作っているのです。
でも人を助けるはずのリハビリのセラピストは、旧型プログラム制御のコンピュータ・ロボットをモデルに人の運動システムを理解して、アプローチしているのです。
その考え方は、「脳はコンピュータである。脳の病傷害によって脳内の運動プログラムが失われてしまって、正しく動けなくなった。だから正しい運動感覚入力を通して正しい運動のやり方を指導・教えてあげるのだ」と考えているようです。
まるで「人の脳は自分で運動課題達成のやり方を創造できないから、セラピストが正しい運動を教えてあげないとダメなのだ」と考えているようです。
大変なこと!そんな低性能な脳なら、厳しい生存競争を勝ち抜けなかったはずですよね(^^;)
4. 僕たちセラピストの認識をアップデートしましょう!
少し前までプログラム制御のコンピュータ・ロボットは最新鋭の機械でした。その機械をモデルに人の運動システムを理解するということをやってきたのです。むしろこれは当然のことです。何しろ理解しやすくなりますのでね。
でもAIロボットを作っている工学者さん達は、真正面から「人の運動システムの作動」の理解に取り組んで、そして見事に理解してAIロボットを作っているのです。
僕たちセラピストもそんな風に真正面から人の運動システムの作動を理解するべきです。ただ、ただ、人の運動やその場の状況を観察して、分析して理解するべきです。そうするとリハビリの方針がこれまでとは全く異なってきますよ。「セラピストが正しい運動を脳に教えてあげる」ではなく、「患者さんに運動スキル創造の能力があることを実感してもらい、運動スキルを自ら創造してもらえるようにセラピストが手伝う」といった具合です。
CAMRは、人の運動システムの作動を「真正面から」理解することに取り組み、そして生まれたアプローチなのです。患者さんがより良い運動スキルを創造・学習するための方法論をまとめています。まだまだ未完成ではありますがね(^^;)
人がどのように「運動スキル」を生み出すかを一緒に勉強してみませんか?
「疾風に勁草を知る」
この意味は、勁草(風に強い草)は強い風が吹いてみないと分からない、つまり困難や苦難にあって初めてその人の強さや人間性が分かるという風に使われます。
人の運動システムも、障害などの困難に出会うとその優れた性質が分かってきます。つまり障害に対して自律的に問題解決を図るものです。
たとえば腓骨神経マヒが起こると下垂足が見られます。つま先がダラッと垂れ下がるため、歩いているとつま先が床に引っかかって転倒したりします。そうすると運動システムは意識から自立していつのまにか「鶏歩」という歩行スキルを生み出して安全に歩かれるようになります。
片麻痺になると麻痺側の脚は力が出ないので振り出せなくなります。そうするとやはり運動システムは自律的に「分回し」という歩行スキルを生み出して歩かれるようになります。
人の運動システムは障害などで困難に遭遇しても、風に為されるがままの小枝のようなものではないのです。困難にあらがって、必要な課題を達成するために何とか頑張って、工夫して問題解決を図るのです。
でも従来リハビリの学校ではこのようには教えてこられませんでした。脳卒中片麻痺では、マヒのために筋力や協調性、随意性が低下し、さらに痙直による筋の硬さや共同運動、原始反射などの「異常な現象」が現れて患者さんは脳の障害に打ちひしがれているのだ、というイメージを学生に植え付けてしまうのです。
これは約1世紀前にジャクソンが提案した「階層型理論」の考え方の影響が強いと思います。そしてこの階層型理論は未だに主流の考え方でもあるのです。
ジャクソンは人間を機械のように考えていたと思います。脳が壊れた後の現象は、全て症状として見てしまったのです。機械が壊れると止まったり異常動作をしたりしますが、これは全部部品や構造が壊れたことが原因です。間違いありませんね。
西欧ではデカルト以来、「人は神(自然)が創った機械である」という考えが思想の根底に流れているという意見もあるようです。まあ、機械と考えた方が理解しやすいわけです。
でも人や動物は機械ではありません。人や動物の特有の作動があるのです。病後に見られる現象が全て病気の症状という訳ではないのです。症状だけではなく問題解決による現象も見られるのです。だから体の一部が傷害されてもそのまま傷害に押しつぶされてしまうわけではありません。人は腓骨神経マヒの鶏歩のスキルを生み出すように、片麻痺の分回し歩行スキルを生み出すように、なんとか問題を解決して必要な課題を達成しようとするのです。当たり前です。生きているから、動物だからです。
たとえば弛緩麻痺の部位は、可動性のある骨格が水の袋に入っているようなものです。力が出ないばかりか重力に押されてブラブラ揺れたりして動く邪魔になります。だから痙直による硬さというのは、実は運動システムが身体内に体を硬くするメカニズムを見つけて何とか硬くする問題解決を図っていると考えられます。上肢を屈曲して硬くして健側の体に近づけると、一つの塊として動きやすくなります。
このメカニズムは伸張反射や原始反射を亢進させて少しでも弛緩した筋を硬くすることができますし、筋固有のキャッチ収縮なども利用してより持続的に硬くしていると考えることもできます。
さてこのように考えると脳卒中のメインの症状は弛緩性のマヒです。その後に現れる「異常」と呼ばれた痙直による硬さや共同運動や原始反射の亢進は、弛緩性マヒのある体で動き出すための運動システムの問題解決であると考えることができるのです。
そうすると脳性運動障害の本来の弛緩性マヒの症状と、それに対する運動システムの自律的な問題解決を分けて理解できるようになって、アプローチも全く従来とは異なったものを思いつくようになります。それであっさりと問題が解決したこともあるのです。CAMRは、そのような視点で人を見ていきます。
階層型理論は約1世紀前にジャクソンが提案した「仮説」に過ぎないのです。国家試験ではこのアイデアを正解としますので、いつのまにか教師も生徒もこれが仮説ではなく、真実であると信じてしまったように思えます。
もちろんこのCAMRのアイデアも仮説です。でも階層型理論よりは上手く色々な現象を説明できるように思います。
さて、前編・中編でそれぞれ「状況性」と「自律性」といった運動システムの作動の特徴を説明してきた。運動システムには他にも「創発性」、「課題特定性」、「探索利用性」という重要な作動の特徴があるがこのシリーズでは最後に「創発性」という作動の特徴を紹介したい。
「創発性」はCAMRで言い出したものではなく、CAMRが基にしているベルンシュタインや生態心理学、動的システム論などで説明されてきたアイデアである。
創発性の意味をAIのジェミニで引いてみると一般によく言われている説明なので、以下に引用する。「創発(そうはつ、英語:emergence)とは、個々の部分や要素の単純な足し算(総和)からは予想できないような新しい性質や秩序が、全体として自発的に現れる現象のこと」さらに「人の運動は創発の典型例であると言える。人の動きは脳からの命令だけで作られるのではなく、身体、環境、タスクの相互作用によって自発的に湧き上がる(創発する)現象として捉えられる」とのこと。
たとえば、歩くスピードを徐々に上げていくと、ある瞬間に意識しなくても自然と「走る」動きに切り替わる。これはエネルギー効率の良いパターンを運動システムが自発的に選択したからと説明される。ただこんな説明を聞いても、「それがどうした?何の説明になってるのか?」となかなか納得できるものではないことはよく分かっている。僕自身がそうだったからだ。
だからもっと現実的な例を基に説明してみよう。
従来のリハビリのセラピストの運動システム観というのは、前編で述べたように機械をモデルに理解しているところがある。どのような仕組みで運動を生み出しているかを理解する時に、その当時最新のコンピュータによるプログラム制御のロボットをモデルに理解することはごく自然なことである。
そして脳はコンピュータに喩えて理解される。コンピュータ制御のロボットでは、運動はプログラムによって生み出されるので、脳内にも運動のプログラムがあるに違いないと考えるのも自然である。
脳性運動障害では、脳内の運動プログラムが壊れる、消失するので正しい運動ができなくなると考える。それでセラピストが正しい運動を運動感覚入力によって脳に教えて、新たに脳内に正しい運動のプログラムを入力するのだ、という考えが出てくるのもまた自然である。まさしく人をプログラム制御のロボットのように理解している。だからセラピスト自身を「脳にプログラムを入力するプログラマー」のように考えてしまうのだろう。
一方で最近のAIロボットはなかなかに凄い。現在のAIロボットは人に比べて運動の数は限られているものの、まるで人の様に状況に応じて多様に自然な動作をする。しかしAIロボットのコンピュータにそれぞれの運動をするためのプログラムを入れているわけではない。そんなプログラムは複雑すぎて莫大な量になって作れない、手に負えないからだ。
実際にはAIロボットは、自分で一から運動課題の達成方法を学んでいるのである。たとえば臥位から立ち上がる方法を自分で学んでいる。
その方法はコンピュータの仮想空間の中で、ロボットの物理的・機械的性質を持った仮想ロボットに、「倒れては起き上がる」課題を与えるのである。コンピュータは文句も言わず(^^;)、短い時間で何十万回、何百万回と倒れては、動けるように動いて立ち上がりに繋がりそうな運動が偶然現れる。つまり課題達成のための運動スキルが「創発」したのである。
AIはそんな風に仮想空間内で、自分のできる運動が環境内の重力と床の間でどのような結果を生み出すかを試行錯誤して、発見、修正、学習しているのである。そんな試行錯誤を重ねて立ち上がりの方法を多様に身につけたのである。
どうしてこんなことをするかというと、無限に変化する環境・状況の中で、人の運動システムのように無限に運動変化を起こして、適応的に振る舞うためには、自らそのやり方を探索・発見・修正していく「人の運動システムの創発性」という作動の特徴を真似るしかない、というのが理由である。
一方でリハビリのセラピストは、未だに「運動システムは旧型のプログラム制御のロボットである」という認識に留まっていて、何とか脳内に正しい運動のプログラムを入力しようと足掻いているのではないか?
元々セラピストは、AIロボットを作る工学者のように、機械ではなく人の運動システムの作動を正面から理解すれば良かったのだ。
しかし従来のリハビリは、人が動く仕組みのメカニズムをプログラム制御のロボットをモデルに理解してきた。残念ながら人の運動システムのモデルにするにはそれは低性能すぎる。どうせモデルにするならAIロボットである。これはちゃんと人の運動システムの作動の理解をモデルにしているからである。
では人の運動システムの「創発」という作動の特徴から考えて、リハビリではどうするかと考えてみる。
セラピストにまず必要なのは魅力的で適切な課題を工夫・設定することである。それによって患者自身に自発的に動けるように動いていただきながら、その中からより安全で効率的な運動スキルを探索・発見・効率化・熟練していただくことを助けることではないか?(詳細は勉強会で具体的な例を多数用いて説明したい)
以上、簡単だがCAMRと他のアプローチの異なる点を説明した。人を「動く仕組み」だけではなく、「作動の特徴」からも理解すると、これまでとは異なった身体観、障害観、人間観が生まれてくる。これによってアプローチもこれまでとは異なった新しいものが自然に生まれてくる。そして「動く仕組み」の理解と「作動の特徴」の理解を組み合わせると、視野が一気に広がってリハビリの仕事はもっと、もっと面白くなってくるのですv(^^)(終わり)
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