さて、脳卒中患者さんに見られる症状は、筋力や協調性、随意性の低下などの「陰性徴候」と痙縮あるいは過緊張、原始反射や共同運動の出現などの「陽性徴候」に分類される。これは約1世紀前に英国の神経生理学者のジャクソンによって提案された階層型理論という「仮説」で説明されている。そして現在でもこの階層型理論はメインの説なのである。
学校では国家試験に受かるために、この階層型理論は正解として教えられているのだが、大抵の教員や学生はいつのまにかこれが「真実」であると信じてしまう。約1世紀前の仮説が、「真実」として信じられてしまうのはどうかと思う。
たとえば学校では、脳卒中患者さんに見られる痙縮や共同運動などは「陽性徴候」という症状として習う。症状なので、「その症状が消えることになれば、その原因に働きかけて症状を良くしている」と安易に考えることになる。
でも臨床で出会う現実は、陽性徴候の筋の過緊張や共同運動が温熱や徒手療法で消失しても、筋の弛緩麻痺や協調性の低下は変わらないことも多い。同じ原因から生まれる陰性徴候と陽性徴候なのに、どうして陽性徴候の現象だけ消えてしまうのか?
またジャクソンによると脳性運動障害後に現れる筋の硬さは、伸張反射の亢進現象と説明されるが、多くの患者さんを見ても伸張反射の亢進が見られるわけでもない。
だいたい伸張反射は神経による収縮なので続けて起こると疲労が起きて長続きするものではないはずだが、片マヒにしろ脳性マヒの患者さんを見ると何時間も何日間も過緊張が続いている。
むしろまるで活動性が見られないので拘縮かと思っていると入浴後には柔らかくなるので、どうやら収縮状態だったのかと思う。中には弛緩状態になって伸張反射の亢進が現れる方もあるが、その活動性と普段の過緊張の静的な状態は明らかにかけ離れているように思う。
元々陽性徴候と陰性徴候は出現の時期も違うのである。片麻痺患者さんではまず弛緩性マヒが現れることが知られている。上下肢や口唇が垂れ下がって始まり、動き始めると硬さが現れるようになる。脳性マヒの子どもさんも生まれて1-2ヶ月は弛緩状態だが、次第に足の母趾の屈筋辺りから硬さが表れてくるようになる。(上田正)
どうも硬さや伸張反射の亢進などの陽性徴候は重力環境内で活動の影響によるのではないかとも考えられる。
他にもいくつかジャクソンの階層型理論では説明のつかない現象があるのだ。そこでCAMRでは以下のような仮説を提案している。
脳性運動障害の主症状はジャクソンの言う陰性徴候である。つまり弛緩状態である。弛緩状態とは可動性のある骨格が水の袋に入っているようなもので、重力に押されて安定するまで広がろうとする。
これでは動けないので運動システムは問題解決を図るのである。つまり身体内に筋肉を硬くするメカニズムを探してその働きを強める。神経系では伸張反射などを強めると筋収縮が起こるので多少筋を硬くするのに役立つ。
さらに筋肉内の独自の筋収縮メカニズムを強く働かせるわけだ。たとえばキャッチ収縮である。キャッチ収縮は二枚貝の平滑筋に見られる現象だが、この現象を起こす一連の蛋白群と似たものは脊椎動物の骨格筋にも存在しているとのこと。
つまり「陽性徴候は、症状ではなく弛緩状態から動き出すための運動システムの問題解決の作動である」という仮説である。
この仮説を採用すると私たちが上記のような臨床で出会う様々な現象をすっきりと説明できるのである。
1世紀前の仮説に過ぎないものを「真実だと信じてしまう」と、説明に大きな矛盾を感じるのも無理がない。そろそろ頭を切り替えてはどうかと思うのである。






















