CAMR(カムル)が他のアプローチと全く違うところ(後編)

目安時間:約 7分

 さて、前編・中編でそれぞれ「状況性」と「自律性」といった運動システムの作動の特徴を説明してきた。運動システムには他にも「創発性」、「課題特定性」、「探索利用性」という重要な作動の特徴があるがこのシリーズでは最後に「創発性」という作動の特徴を紹介したい。

 「創発性」はCAMRで言い出したものではなく、CAMRが基にしているベルンシュタインや生態心理学、動的システム論などで説明されてきたアイデアである。

 創発性の意味をAIのジェミニで引いてみると一般によく言われている説明なので、以下に引用する。「創発(そうはつ、英語:emergence)とは、個々の部分や要素の単純な足し算(総和)からは予想できないような新しい性質や秩序が、全体として自発的に現れる現象のこと」さらに「人の運動は創発の典型例であると言える。人の動きは脳からの命令だけで作られるのではなく、身体、環境、タスクの相互作用によって自発的に湧き上がる(創発する)現象として捉えられる」とのこと。

 たとえば、歩くスピードを徐々に上げていくと、ある瞬間に意識しなくても自然と「走る」動きに切り替わる。これはエネルギー効率の良いパターンを運動システムが自発的に選択したからと説明される。ただこんな説明を聞いても、「それがどうした?何の説明になってるのか?」となかなか納得できるものではないことはよく分かっている。僕自身がそうだったからだ。

 だからもっと現実的な例を基に説明してみよう。

 従来のリハビリのセラピストの運動システム観というのは、前編で述べたように機械をモデルに理解しているところがある。どのような仕組みで運動を生み出しているかを理解する時に、その当時最新のコンピュータによるプログラム制御のロボットをモデルに理解することはごく自然なことである。

 そして脳はコンピュータに喩えて理解される。コンピュータ制御のロボットでは、運動はプログラムによって生み出されるので、脳内にも運動のプログラムがあるに違いないと考えるのも自然である。

 脳性運動障害では、脳内の運動プログラムが壊れる、消失するので正しい運動ができなくなると考える。それでセラピストが正しい運動を運動感覚入力によって脳に教えて、新たに脳内に正しい運動のプログラムを入力するのだ、という考えが出てくるのもまた自然である。まさしく人をプログラム制御のロボットのように理解している。だからセラピスト自身を「脳にプログラムを入力するプログラマー」のように考えてしまうのだろう。

 一方で最近のAIロボットはなかなかに凄い。現在のAIロボットは人に比べて運動の数は限られているものの、まるで人の様に状況に応じて多様に自然な動作をする。しかしAIロボットのコンピュータにそれぞれの運動をするためのプログラムを入れているわけではない。そんなプログラムは複雑すぎて莫大な量になって作れない、手に負えないからだ。

 実際にはAIロボットは、自分で一から運動課題の達成方法を学んでいるのである。たとえば臥位から立ち上がる方法を自分で学んでいる。

 その方法はコンピュータの仮想空間の中で、ロボットの物理的・機械的性質を持った仮想ロボットに、「倒れては起き上がる」課題を与えるのである。コンピュータは文句も言わず(^^;)、短い時間で何十万回、何百万回と倒れては、動けるように動いて立ち上がりに繋がりそうな運動が偶然現れる。つまり課題達成のための運動スキルが「創発」したのである。

 AIはそんな風に仮想空間内で、自分のできる運動が環境内の重力と床の間でどのような結果を生み出すかを試行錯誤して、発見、修正、学習しているのである。そんな試行錯誤を重ねて立ち上がりの方法を多様に身につけたのである。

 どうしてこんなことをするかというと、無限に変化する環境・状況の中で、人の運動システムのように無限に運動変化を起こして、適応的に振る舞うためには、自らそのやり方を探索・発見・修正していく「人の運動システムの創発性」という作動の特徴を真似るしかない、というのが理由である。

 一方でリハビリのセラピストは、未だに「運動システムは旧型のプログラム制御のロボットである」という認識に留まっていて、何とか脳内に正しい運動のプログラムを入力しようと足掻いているのではないか?

 元々セラピストは、AIロボットを作る工学者のように、機械ではなく人の運動システムの作動を正面から理解すれば良かったのだ。

 しかし従来のリハビリは、人が動く仕組みのメカニズムをプログラム制御のロボットをモデルに理解してきた。残念ながら人の運動システムのモデルにするにはそれは低性能すぎる。どうせモデルにするならAIロボットである。これはちゃんと人の運動システムの作動の理解をモデルにしているからである。

 では人の運動システムの「創発」という作動の特徴から考えて、リハビリではどうするかと考えてみる。

 セラピストにまず必要なのは魅力的で適切な課題を工夫・設定することである。それによって患者自身に自発的に動けるように動いていただきながら、その中からより安全で効率的な運動スキルを探索・発見・効率化・熟練していただくことを助けることではないか?(詳細は勉強会で具体的な例を多数用いて説明したい)

 以上、簡単だがCAMRと他のアプローチの異なる点を説明した。人を「動く仕組み」だけではなく、「作動の特徴」からも理解すると、これまでとは異なった身体観、障害観、人間観が生まれてくる。これによってアプローチもこれまでとは異なった新しいものが自然に生まれてくる。そして「動く仕組み」の理解と「作動の特徴」の理解を組み合わせると、視野が一気に広がってリハビリの仕事はもっと、もっと面白くなってくるのですv(^^)(終わり)

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CAMR(カムル)が他のリハビリ・アプローチと全く異なるところ(中編)

目安時間:約 6分

 前回は、CAMRでは人の運動システムがどのような仕組みで動くかという「メカニズム」の視点だけではなく、どういう目的で動くか、どのように運動変化するかという「人の運動システムの作動の特徴」からも人の運動システムを理解しているということを述べた。
 その中で「状況性」という作動の特徴を紹介した。人の運動には「特定の正しい運動の形ややり方は存在しない。もし「正しい運動は何か」と考えるなら、「環境・状況の変化に応じて適切に運動の形ややり方を変化させて、適応的に運動課題を達成・維持するように変化する運動のこと」である。
 今回は「自律性」という作動の特徴を紹介しよう。
 人の運動変化を観察していると、人の運動システムは、その人の意識からは独立して作動していることが多い。たとえば普通歩くという動作は、「あそこに行こう」と思えば無意識に遂行される。全く別のことを考えていても問題なく歩いて目標を達成する。
 また腓骨神経マヒがあると下垂足でつま先が引っかかり、転倒しそうになるが、特に意識しなくても膝を高く挙げ、安定して足底がパタンと設置するように「鶏歩」という歩行スキルを生み出す。片麻痺になるとマヒ側下肢が出ないので自然に「分回し」や「健側のつま先立ち」などの歩行スキルを生み出して、患側下肢を振り出して歩かれるようになる。腰椎ヘルニアの痛みがあると、脊柱はヘルニア部を圧迫しないように逃避性の側彎が起きて、さらに体幹を硬く固めて、できるだけ痛みを避けるような問題解決を図る。運動システムは自律的に問題解決を図っているのである。
 つまり必要な運動課題は自律的に達成されることも多いし、達成に問題が起きると、運動システムは意識しなくても何とか必要な運動課題を達成するために、自律的な問題解決を図る訳だ。
 こう考えると、たとえば脳性運動障害後に見られる現象は全て症状ではないだろうと思える。中には必ず問題解決の作動による現象が混じっているはずである。
 脳卒中片麻痺の患者さんでは、最初は弛緩状態から始まる。脳性マヒのあかちゃんも最初の1から2ヶ月は弛緩状態である。弛緩状態というのは可動性のある骨格が水の袋に入っているような状態である。体幹からぶら下がった弛緩状態の上肢は体幹をその方向に引っ張ってバランスを崩す。また揺れてしまい、動くための大きな外乱の原因になる。
 これでは思うように動けないので運動システムは問題を図る。体の中に筋肉を硬くするメカニズムを見つけて弛緩状態の筋肉を硬くするのである。そうすれば一つの塊となって健側の体についてくるし、下肢が硬くなれば支持も可能になる。
 そのメカニズムは伸張反射や原始反射の閾値を下げて反射活動を亢進させる。さらに筋固有のキャッチ収縮のようなメカニズムを動員して硬くなる。
 約1世紀前のジャクソンの仮説では、脳性運動障害後には陰性徴候と陽性徴候の2種類の症状が現れるとしていた。しかしCAMRでは陰性徴候が脳性運動障害の主な症状であり、筋が硬くなったり伸張反射が亢進したりの症状は運動システムの問題解決ではないか、と考えている。
 また、これにはさらに新たな問題が加わってくる。最初は体を硬くすることは有効だが、硬くする作動は過剰に繰り返されて硬くなりすぎる。すると柔軟性が失われ運動範囲や重心の移動範囲が小さくなる。動くために硬くしたのに動きそのものが消えてしまうのである。さらに加えて不快感や痛みが出現してくる。
 このように最初は問題解決のはずが、過剰に繰り返されて新たな問題を生み出すような問題解決を「偽解決」と呼ぶ。
 こうして見ると脳性運動障害後の現象は、本来の弛緩の症状に加えて運動システムの問題解決の作動による現象が加わり、さらに問題解決の作動が過剰に繰り返されたことによる偽解決状態の3種類の現象が混合していることになる。これが脳性運動障害の理解を難しくしている複雑さの正体なのだろう。
 このように3種類の現象が混在すると考えると、これまで説明に矛盾、混乱していた脳性運動障害の説明がよりすっきりと納得できるのである。
 たとえば弛緩状態の筋の硬さを生み出す作動は、支持性や運動性を生み出すために必要だ。しかしそれが過剰に繰り返されて硬さを増し、動けなくなる。さらに不快感や痛みを伴うなどの新たな問題を生み出す偽解決状態こそが一番の問題であると分かる。だから、リハビリでは「支持性と運動性のバランスを上手くとること」が重要になってくる。「筋の硬過ぎる偽解決状態」を改善して運動性を高める上田法のような徒手療法を利用することで、支持性と運動性のバランスをとるアプローチは有効である。
 CAMRがこれまでのリハビリ・アプローチと大きく異なる点の一つは、「自律性を基に障害を理解する」ことで「新しい障害像」が持てるようになり、それで新しい評価やアプローチの方針ややり方が生まれてくることだ。(後編に続く)

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CAMR(カムル)が他のリハビリ・アプローチと全く異なるところ(前編)

目安時間:約 6分

 CAMRの勉強会で話をしていると、「ああ、○○のアプローチとよく似ていますね」とか「□□の治療法と同じですね」などとよく言われる。○○とか□□のアプローチとは全く違った考えや目的を持っているのだが、確かに一見、「同じようにやっている」ように見られるところがあるので仕方ない。でも動作・行為は同じように見えても、スタート地点や方向性が異なっているので、それを言われる度に「あーーっ」と力が抜けてしまう。

 一般に学校で習う人の運動システムは、構造と各器官の働きから理解される。たとえば「筋肉は力を生み出し、骨・関節は力に支持と方向を与え、感覚は身体内外の刺激を受け、神経を通して脳に伝え、脳は感覚から身体の内外の状況を判断し、神経を通して命令し・・・・」などと理解する。これは「動く仕組み」を理解している訳だ。

 「動く仕組みを理解する」というのは、機械を理解する時と同じ理解の仕方である。 もちろんこれは大事な視点で、構造と各部の働きが分かれば何ができるかが理解できることも多い。人の運動システムの動く仕組みのメカニズムを理解することは、リハビリの基本でもある。だが、人を理解するのにこの機械を見るような見方だけで良いのだろうか、と思う。

 人の身体を単に機械の様に理解していると、いろいろ問題も出る。たとえば壊れた構造に焦点が当たるので、なんとか壊れた構造を治せば機能も回復すると考える。それで脳性運動障害でも脳を治そうとする。だがリハビリで脳が治って麻痺も治ったという科学的な報告はない。

 また機械には設計者の意図した「正しい運動」がある。それで人にも「人体のメカニズムに適合した『正しい運動・作動』がある」となんとなく考えてしまう。そしてセラピストは正しい運動とは、たとえば歩行では「健康な若い人の颯爽とした活き活きとした歩き方」をなんとなくイメージしてしまう。

 だから多くのセラピストは片麻痺患者さんが分回し歩行をするのを見ると、少し否定的な評価をすることが多いのは事実だろう。「それはあまり良い歩き方ではないです」とか「正しい歩き方を身につけた方が良いです」など。

 CAMRは「動く仕組み」といったメカニズムの視点だけではなく、「人の運動が、どうしてどのように生じて変化するか」といった「運動出現の目的」や「運動変化の様子」など、運動システムの作動の特徴からも人の運動システムを理解しようとしている。

 たとえば実際の人の歩行は、環境や状況によってどんどん変化する。水溜まりでは、靴が濡れないようにつま先立ちになり、片脚立ちで浅いところを探しながら歩く。これは尖足歩行だ。水田では足を抜く時、泥の抵抗を小さくするために下垂足の形で膝も高く挙げる。これは鶏歩の形だ。氷の上では、こけないようにすり足気味に小刻みにパーキンソン病の方のように歩いたりもする。暗闇では両手と片脚を前に出し、それらで探りながら少しずつ進む。

 他にもいろいろあるが、健常者の歩行は環境や状況変化に応じて適切に歩行の形ややり方を変えているわけだ。特定の正しい歩き方の形で歩いているわけではない。

 むしろ環境や状況の変化に応じて、「安全に・効率的」に歩行を維持できるように、運動の形ややり方を適応的に変化させることが健常者の「正しい歩き方」の特徴である。このような人の運動システムの作動の特徴を「状況性」とCAMRでは呼んでいる。

 その視点で、片麻痺患者さんの分回し歩行を見ると、マヒ側下肢が思うように動かない状況では、体幹や健側下肢を使って「分回し」という新たな歩行スキルを生み出して、歩行されているわけで、マヒに対応した「状況性」の作動が見られる。

 だから単に若い健常者の歩き方と形が違うから、「正しい歩き方ではない」と評価するのはおかしい。

そして運動スキルというのは適切な訓練によって「より安全に・より効率的」に洗練、熟練していくものだ。

 実際「健常者の歩行と違うので矯正する。健康な若者の歩行に近づける」という目標を達成するためには「マヒを治していく」より方法はない。この目標が日本に入って半世紀以上経つが、前述のようにこれがリハビリにより達成されたという科学的報告は、残念ながら、ない。

 だから「分回し歩行の運動スキルをできるだけ安全に効率的に洗練・熟練する」という目標を持ち、全身の柔軟性・筋力・持久力、杖、靴、装具などの運動リソース(資源)を改善すること。

 そして様々な環境・状況内で、変化に対してより安全に、効率的に運動スキルを修正しながら歩行を達成する経験を積み重ねることで、歩行の安全性や効率性、歩行速度や距離を改善することが可能だ。またその過程で歩行はより滑らかになり、極端な分回しスキルが次第に自然な歩様の歩行スキルに変化していくこともよく経験することだ。

 つまりCAMRでは人の運動システムの「メカニズムの視点」に加えて、運動システムの「作動の特徴」からも人の運動を理解しようと提案している。そうするとこれまでとは異なった視点、理解の評価やアプローチが生まれてくるのである。(中編に続く)

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視点が変われば理解が全く違ってくるのだ!

目安時間:約 4分

 さて、脳卒中患者さんに見られる症状は、筋力や協調性、随意性の低下などの「陰性徴候」と痙縮あるいは過緊張、原始反射や共同運動の出現などの「陽性徴候」に分類される。これは約1世紀前に英国の神経生理学者のジャクソンによって提案された階層型理論という「仮説」で説明されている。そして現在でもこの階層型理論はメインの説なのである。
 学校では国家試験に受かるために、この階層型理論は正解として教えられているのだが、大抵の教員や学生はいつのまにかこれが「真実」であると信じてしまう。約1世紀前の仮説が、「真実」として信じられてしまうのはどうかと思う。
 たとえば学校では、脳卒中患者さんに見られる痙縮や共同運動などは「陽性徴候」という症状として習う。症状なので、「その症状が消えることになれば、その原因に働きかけて症状を良くしている」と安易に考えることになる。
 でも臨床で出会う現実は、陽性徴候の筋の過緊張や共同運動が温熱や徒手療法で消失しても、筋の弛緩麻痺や協調性の低下は変わらないことも多い。同じ原因から生まれる陰性徴候と陽性徴候なのに、どうして陽性徴候の現象だけ消えてしまうのか?
 またジャクソンによると脳性運動障害後に現れる筋の硬さは、伸張反射の亢進現象と説明されるが、多くの患者さんを見ても伸張反射の亢進が見られるわけでもない。
 だいたい伸張反射は神経による収縮なので続けて起こると疲労が起きて長続きするものではないはずだが、片マヒにしろ脳性マヒの患者さんを見ると何時間も何日間も過緊張が続いている。
 むしろまるで活動性が見られないので拘縮かと思っていると入浴後には柔らかくなるので、どうやら収縮状態だったのかと思う。中には弛緩状態になって伸張反射の亢進が現れる方もあるが、その活動性と普段の過緊張の静的な状態は明らかにかけ離れているように思う。
 元々陽性徴候と陰性徴候は出現の時期も違うのである。片麻痺患者さんではまず弛緩性マヒが現れることが知られている。上下肢や口唇が垂れ下がって始まり、動き始めると硬さが現れるようになる。脳性マヒの子どもさんも生まれて1-2ヶ月は弛緩状態だが、次第に足の母趾の屈筋辺りから硬さが表れてくるようになる。(上田正)
 どうも硬さや伸張反射の亢進などの陽性徴候は重力環境内で活動の影響によるのではないかとも考えられる。
 他にもいくつかジャクソンの階層型理論では説明のつかない現象があるのだ。そこでCAMRでは以下のような仮説を提案している。
 脳性運動障害の主症状はジャクソンの言う陰性徴候である。つまり弛緩状態である。弛緩状態とは可動性のある骨格が水の袋に入っているようなもので、重力に押されて安定するまで広がろうとする。
 これでは動けないので運動システムは問題解決を図るのである。つまり身体内に筋肉を硬くするメカニズムを探してその働きを強める。神経系では伸張反射などを強めると筋収縮が起こるので多少筋を硬くするのに役立つ。
 さらに筋肉内の独自の筋収縮メカニズムを強く働かせるわけだ。たとえばキャッチ収縮である。キャッチ収縮は二枚貝の平滑筋に見られる現象だが、この現象を起こす一連の蛋白群と似たものは脊椎動物の骨格筋にも存在しているとのこと。
 つまり「陽性徴候は、症状ではなく弛緩状態から動き出すための運動システムの問題解決の作動である」という仮説である。
 この仮説を採用すると私たちが上記のような臨床で出会う様々な現象をすっきりと説明できるのである。
 1世紀前の仮説に過ぎないものを「真実だと信じてしまう」と、説明に大きな矛盾を感じるのも無理がない。そろそろ頭を切り替えてはどうかと思うのである。

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陽性徴候(特に痙縮)などに関する疑問

目安時間:約 4分

 約1世紀前にイギリスの神経生理学者ジャクソンは、階層型理論というアイデアを提案した。この階層型理論の簡単なポイントは、以下の通り。
①中枢神経系は進化的に階層の構造をしている
②上位中枢は大脳皮質(特に前頭葉)など。意識的行動や思考、判断、創造性などを司る。また下位・中位の中枢をコントロール・統合する
③中位中枢は、大脳皮質下の脳幹・大脳基底核など。運動制御や自律神経系のコントロールを行う
④下位中枢は脊髄・延髄レベル(最も原始的な中枢)など。生命維持や基本的な反射等を司る
⑤上位中枢が損傷すると、下位中枢への活動のコントロール・抑制と統合が失われて原始的な反射や単純な反射などが優位に現れるようになる。痙縮は伸張反射の亢進状態などと説明される
 このアイデアは現代でも主流であり、国家試験などでもこの考え方を正解としている。学校では国家試験に合格するために、これを正解というよりはむしろ真実として教えてしまうのでいざ臨床で脳性運動障害の患者さんに接すると以下のような様々な疑問を感じてしまう事がある。
①脳性麻痺の赤ちゃんは生まれたときは低緊張だが、徐々に筋の硬さ(痙縮)や原始反射が見られるようになる。脳卒中も発症直後は低緊張だが、徐々に痙縮や共同運動が見られるようになる。この陽性徴候(痙縮、原始反射の出現、共同運動など)が弛緩状態に遅れて出てくるのはなぜか?
②伸張反射の過活動によって痙縮が現れると言うが、実際には多くの患者さんで特に伸張反射の過活動は見られない。むしろ活動性の見られない硬さが多い。それで拘縮かと思っていると上田法などの徒手療法で可動域が広がるのでやはり収縮していたのか、と驚くことがある
③伸張反射の亢進なら神経活動が伴うので、疲労が見られ減弱するはずだが、硬さが何日もそれ以上も継続している。伸張反射の過活動では説明できないのではないか?
④お風呂に入るなどして温めると緊張が解けて柔らかくなる。お風呂に入るなどして温めると上位中枢の抑制コントロールが回復するとでも言うのか?(^^;)それとも筋の粘弾性の低下?
⑤体温程度の温度のプールに入っても痙縮は緩む。むしろ重力が関係しているのでは?
⑥陰性徴候・陽性徴候のうち、陽性徴候だけが徒手療法で改善するのはおかしいではないか。どちらも症状だとしたら、どうして陽性徴候だけが改善するのか?
⑦筋の痙縮で硬いと歩けたりするが、ボトックスや上田法などで硬さが緩むと歩けなくなる。逆に適度に硬さが取れると動きが滑らかに速く、力強くなることもある。同じ痙縮の改善で矛盾した現象が見られる。これは伸張反射の亢進で説明できるか?
⑧Dietzらやその他の研究では、足関節の可動域がある子どもや成人片麻痺の方の尖足歩行中の下腿三頭筋の筋電図を調べると筋電図活動がほとんど起きていない例が報告されている。どういうことか?
 等と実に多くの疑問が湧いてくるものである。
 考えてみればジャクソンの階層型理論は、約1世紀前の仮説に過ぎないので未だにそれが主流の考え方であるというのがむしろおかしなことである。この仮説は間違っているのではないか。様々な現象を矛盾なく説明できないのではないか。
 CAMRは、これらの現象を矛盾なく説明するためのアイデアを提案している。
 

 是非とも勉強会にご参加下さい。現在未定ですが、次回日程が決まり次第、またお知らせします。

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人の運動は無限に変化する!

目安時間:約 5分

 人の運動システムの最大の特徴は、通常の環境や状況の変化に応じて運動を適応的に変化させるところにある。たとえば歩行にしても、坂道や砂浜、砂利道、雪道、夜道、人混みの街角、葬儀会場、大観衆が見守るステージなどと環境や状況の変化に応じて歩き方は自然に変わるものである。
 このように環境や状況の変化に応じて歩き方を変化させて歩行を安定・安心の状態に維持する運動システムの作動の性質を「状況性」とCAMR(カムル)では呼んでいる。
 どうして人の運動システムで「状況性」という作動が可能になるかというと、人の運動は無限の運動変化を生み出すことができるからだ。
世界の環境や状況は無限に変化するのだが、その変化に合わせて最適の運動変化を生み出してはなんとか適応的に振る舞おうとするのである。もちろん空を飛べるわけではないので、いくらかの制限下で無限に変化する訳だ。それに常に上手く行くとは限らないが、通常の状況・環境変化はよく把握して、それなりに適切な運動変化を生み出しては適応するのである。
 この無限の運動変化を生み出す仕組みは、学校では脳が心身の状況を把握して、それに対して適応的な判断・命令をすると説明する。脳は世界に適応する責任を独りで背負っていると仮定されている。これは人間が生み出したロボットをモデルに人の運動を理解しているようだ。まあ、これも仮説ではある。真実かもしれないが、そうでないかもしれない。
 この仮説では脳が適応的な運動を生み出しているため、リハビリも脳の働きに焦点を当てて集中することになる。やるべきことは運動に対する脳の働きを高めること、となる。この考え方は日本に入ってきて半世紀以上経つが、未だに上手くいった例は正式に発表されていない。おそらくリハビリでは不可能なのだろう。
 CAMRの仮説では構造や各組織・器官の働きで説明しないので、体が持っている働きを想定して次のように説明する。
 人の運動システムは豊富な身体の運動リソース(資源)を持っている。体の持つ筋力や柔軟性は運動リソースである。たとえば筋力は単に力に過ぎない。いくら力が強くてもそれだけでは何もなしえない。何かを達成するにはその力の利用方法である運動スキルが必要である。
 運動認知はそれらの豊富な運動リソースを利用して運動スキルを生み出す能力である。身体と環境の状態を知り、それらの相互作用の結果、予期的に運動結果を知り、柔軟で適切な運動スキルを創造し、修正する能力である。運動認知は常に動くことによって適切にアップデートされる。
 CAMRでは障害を持つとは傷害や麻痺などによって筋力などの運動リソースが貧弱になることである。運動リソースが貧弱になると、それらを資源として生み出される運動スキルも貧弱になる。運動スキルが貧弱になると適切に必要な課題を達成できなくなる。また筋力や柔軟性が失われると動けなくなる。動かないと運動認知が不適切になる。
 だからCAMRではまず改善できる運動リソースをできるだけ改善することを考える。つまり運動リソースをできるだけ豊富にする訳だ。運動リソースが豊富になればなるほど運動スキルはより柔軟に多彩に豊富に創造され、修正されるようになる。
 運動リソースの豊富化にはいくつものやり方、考え方がありこれをよく知っておくことがリハビリでは重要だ。
 また運動スキルを適切に生み出すためには、運動認知のアップデートも欠かせない。脳卒中の様に体の変化が大きいと、運動認知は大きく不適切になるため適応的な運動スキルを生み出せなくなる。
 運動認知は多様に動くことで適切にアップデートされるのでこのやり方のコツを知っておく必要がある。
 運動スキルを豊富に柔軟に生み出すやり方をCAMRでは「運動スキル学習」と呼んでいる。運動スキルは入れ子状の構造をしていると考えられるので、運動スキルをより豊富にするためにはそれなりの「やり方のコツ」があるわけだ。
 以上、簡単だがCAMRの障害の理解とアプローチの流れを説明した。
 詳しくはCAMRの無料オンライン勉強会や広島のリアル勉強会で紹介している。次回は日程が決まり次第お知らせします(^^)

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陽性徴候(特に痙縮)などに関する疑問

目安時間:約 4分

 約1世紀前にイギリスの神経生理学者ジャクソンは、階層型理論というアイデアを提案した。この階層型理論の簡単なポイントは、以下の通り。
①中枢神経系は進化的に階層の構造をしている
②上位中枢は大脳皮質(特に前頭葉)など。意識的行動や思考、判断、創造性などを司る。また下位・中位の中枢をコントロール・統合する
③中位中枢は、大脳皮質下の脳幹・大脳基底核など。運動制御や自律神経系のコントロールを行う
④下位中枢は脊髄・延髄レベル(最も原始的な中枢)など。生命維持や基本的な反射等を司る
⑤上位中枢が損傷すると、下位中枢への活動のコントロール・抑制と統合が失われて原始的な反射や単純な反射などが優位に現れるようになる。痙縮は伸張反射の亢進状態などと説明される
 このアイデアは現代でも主流であり、国家試験などでもこの考え方を正解としている。学校では国家試験に合格するために、これを正解というよりはむしろ真実として教えてしまうのでいざ臨床で脳性運動障害の患者さんに接すると以下のような様々な疑問を感じてしまう事がある。
①脳性麻痺の赤ちゃんは生まれたときは低緊張だが、徐々に筋の硬さ(痙縮)や原始反射が見られるようになる。脳卒中も発症直後は低緊張だが、徐々に痙縮や共同運動が見られるようになる。この陽性徴候(痙縮、原始反射の出現、共同運動など)が弛緩状態に遅れて出てくるのはなぜか?
②伸張反射の過活動によって痙縮が現れると言うが、実際には多くの患者さんで特に伸張反射の過活動は見られない。むしろ活動性の見られない硬さが多い。それで拘縮かと思っていると上田法などの徒手療法で可動域が広がるのでやはり収縮していたのか、と驚くことがある
③伸張反射の亢進なら神経活動が伴うので、疲労が見られ減弱するはずだが、硬さが何日もそれ以上も継続している。伸張反射の過活動では説明できないのではないか?
④お風呂に入るなどして温めると緊張が解けて柔らかくなる。お風呂に入るなどして温めると上位中枢の抑制コントロールが回復するとでも言うのか?(^^;)それとも筋の粘弾性の低下?
⑤体温程度の温度のプールに入っても痙縮は緩む。むしろ重力が関係しているのでは?
⑥陰性徴候・陽性徴候のうち、陽性徴候だけが徒手療法で改善するのはおかしいではないか。どちらも症状だとしたら、どうして陽性徴候だけが改善するのか?
⑦筋の痙縮で硬いと歩けたりするが、ボトックスや上田法などで硬さが緩むと歩けなくなる。逆に適度に硬さが取れると動きが滑らかに速く、力強くなることもある。同じ痙縮の改善で矛盾した現象が見られる。これは伸張反射の亢進で説明できるか?
⑧Dietzらやその他の研究では、足関節の可動域がある子どもや成人片麻痺の方の尖足歩行中の下腿三頭筋の筋電図を調べると筋電図活動がほとんど起きていない例が報告されている。どういうことか?
 等と実に多くの疑問が湧いてくるものである。
 考えてみればジャクソンの階層型理論は、約1世紀前の仮説に過ぎないので未だにそれが主流の考え方であるというのがむしろおかしなことである。この仮説は間違っているのではないか。様々な現象を矛盾なく説明できないのではないか。


 CAMRは、これらの現象を矛盾なく説明するためのアイデアを提案している。
 是非とも勉強会にご参加下さい。現在毎月1回、無料勉強会を開催中。オンラインでの勉強会も開始しています。勉強会の詳細はCAMRのフェースブックページなどで。

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障害別リハビリテーションは必要か?

目安時間:約 5分

 リハビリの学生時代から気になっていたのだが、「整形ばかり見ているので脳卒中は分からない、手が出ない」とか「大人の整形を見てきたので、脳性麻痺の子どもたちを見てもさっぱり分からない」という話を先輩セラピスト達がよくしていた。
 それはそうだと思うのだ。つまり整形疾患や脳卒中、脳性麻痺にはそれぞれ知っておくべき知識と配慮があり、まず基本それは知っておくべきだと思うのだ。だからそれぞれの分野に移れば知識や配慮の再学習や再獲得をまず目指すべきだと思う。
 そう言うと、「いやいや、障害の原因と質がとても違うので、それまでのやり方がほとんど通じなくなってしまうので、知識だけの問題ではない」と指摘される。脳性運動障害では広範囲に麻痺が出てリハビリでは治らない。整形では元のように治るのでリハの方針も評価も考え方もアプローチも丸っきり違ってくる。全体像が丸っきり異なってしまうのが当たり前で、知識や配慮のレベルの問題ではないのだ」と言われたりする。
 何が気になるかというと、もし整形領域に就職すると先々脳性運動障害は見られなくなるのではないか、ということだ。最初にどこに就職するかでやれる職域が決まってしまうのではないか、と心配したのである。
 ただそんな話を聞いているうちに、どうも納得できないところが膨らんでくる。たとえば先輩セラピスト達の言い分を聞いているとどうも整形疾患と脳性運動障害の違いは、自動車とテレビの違いくらいの感覚なのではないか、ということだ。自動車の修理工はテレビを直せないし、テレビの修理屋は自動車を直せないと言っているように感じてしまう。電気製品と機械製品は基本的に違うのだ、ということなのだろう。
 でもリハビリで対象とするのは同じ人の運動システムである。機械製品と電気製品のような別物ではない。その同じ人の運動システムの障害の原因となっているものが、筋・骨か神経系かの違いである。それにそれらは元々一緒に動いているものでもある。神経系と筋骨系は一緒に動いているのであるから、そこまで人の体を分けて考えることもないだろうと思う。
 CAMRでは人の運動システムは構造や各組織・器官の働きで理解するだけではなく、運動システムの作動の特徴でも理解する。自律性や状況性の作動の特徴は、どの障害でも関係なく同じように見られる。
 たとえば「状況性」の作動とは、「人は無限の状況変化の中で、運動を無限に変化させ、できるだけ適応的に振る舞おうとする作動」である。
 「(機械のように)人には正しい運動の形・やり方がある」などと考えていると、「人の運動が無限に変化する」ということを聞いてびっくりされるが、日常生活の様々な活動を見てみると確かに人は同じ動作や運動を繰り返さないものである。歩くことを考えても坂道や段差、狭い道、混雑した道など歩き方は常に変化しているのである。
 この「無限に運動を変化させる仕組み」は、人の運動システムが豊富な運動リソース(運動の資源:柔軟性や筋力、持久力、感覚など)を持っていて、それを基に無限の運動変化を生み出す運動スキルを状況変化に応じて生み出す能力を持っているからだ。
 障害を考えてみると、筋力や柔軟性、持久力、感覚などの運動リソースが失われてしまうので、それを基にした運動スキルも多彩に生まれなくなり環境や状況の変化に適応的に運動や行動を変化させることができなくなった状態である。
 だからまず必要なのは、筋力・柔軟性・持久力などの身体のリソースを豊富にすること。また利用可能な環境内の道具や設備等の環境リソースを豊富にすることである。そしてこれらの増えた運動リソースを基に多様で柔軟な運動スキルを生み出す練習をすることである。
 そう考えると、整形疾患だろうが脳卒中だろうが、脳性麻痺だろうがやることは同じだと考えられる。もちろん運動リソースの増やし方や運動スキルのやり方の方法が障害毎に知識や理解、配慮が必要だというだけのことである。
 「神経系の障害と筋骨系の障害は違う種類の障害だから」と言うのは、あまりにも人の体を分解して、それぞれの部分に関する知識やアプローチを専門化しすぎて理解するせいだろうと思う。人の運動システムを分解して見ていては全体像が理解できなくなる。
 リハビリのセラピストは筋肉・関節や神経の身体部分の専門家ではなく、患者さんが必要な生活上の運動課題を達成できるように運動システム全体の専門家であってほしいものである。

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人の運動システムは勝手に「問題解決」する

目安時間:約 4分

 人の運動システムのもっとも基本的な役割は、人にとって必要な運動課題を達成することである。危険が迫ると逃げようとするし、お腹が減ると食べ物を探す。町を歩いていてもお腹が減ってくると、たとえ意識していなくても急に食べ物屋の看板が目につくようになる。
 実際に運動システムは日常的な動作の多くを意識からある程度自律して処理している。体の姿勢保持や歩行の調整、反射的な動作、内臓機能との連携といった複雑な活動は運動システムが意識から自律して行っている。
 人の運動システムは意識から自律してその人に必要な運動課題を達成しようとするのが普通なのである。
 運動システムは意識に支配されているというイメージが強いが、元々そのような自律的な課題達成や問題解決の作動をする性質を持っている。それが一番強く表れるのは、必要な課題達成が障害などによって達成できなくなるときに現れる「問題解決の作動」である。
 たとえば腰椎ヘルニアになると、少しでも動くと強い痛みが出る。そうすると痛みが起きにくい方向に脊椎の側屈などが起こる。またそのまま体幹部を硬く固めて動かないようにしてできるだけ痛みを軽減しようとする問題解決の作動が起こる。腓骨神経麻痺では、下垂足が生じてつま先が床に引っかかって危ないので、鶏歩などの歩行スキルが生まれて転倒を避けようとする問題解決が起こる。片麻痺後には、患側下肢が麻痺で振り出せなくなる。そうすると健側下肢を中心に体幹を回旋して患側下肢を振り出すための「分回し歩行」スキルのような問題解決の作動が現れるのである。
 それでCAMRでは、このような意識から自律して必要な課題達成を行ったり問題解決をしたりする作動を、「自律性」と呼んでいる。
 約100年前に英国の神経生理学者のジャクソンは、脳性運動障害後に筋が硬くなる現象を健常者には見られない「陽性徴候」という分類の症状として説明した。上位中枢の抑制が失われて下位レベルの機能が解放された「症状」という仮説を提案した。
 まるで風に吹かれる柳の枝のように、人の運動システムも傷害に翻弄されるままのようなイメージを持っているようだ。
 しかしCAMRでは、「人の運動システムは自律的に問題解決をはかるものだ」と考えるのでそれとは違う仮説を提案している。
 つまり脳性運動障害後の主症状は弛緩性の麻痺である。つまりジャクソンのいう陰性徴候である。弛緩状態の手脚は水の入った袋のようなものである。支えられないどころか重りになってぶら下がるし、揺れて重心を乱す。これでは動けないので運動システムは勝手に問題解決を図るのである。
 つまり筋肉を硬くするようなメカニズムを利用して筋肉を硬くするのである。伸張反射や原始反射はある程度筋の緊張を高めることができる。
それに筋自体が持っている筋肉を硬くするメカニズムがある。二枚貝の平滑筋で見られるキャッチ収縮を起こす同じような蛋白群が脊椎動物の横紋筋に存在することが研究で報告されている。
 筋肉が硬くなるのは、症状ではなく脳性運動障害後の弛緩状態の体を硬くして動くための運動システムの自律的問題解決ではないか、と考えるのである。
 そうすると臨床で脳性運動障害後の症状群の中でよく見られる、筋肉の硬さだけが改善する理由も納得がいく。筋の硬さは運動システムが障害後に問題解決の作動として生み出したものなので、他の症状は改善しないのにこれだけは改善する訳だ。
 また柔らかくなった筋肉が硬くなる過程で、伸張反射の亢進現象が見られているわけでもない。静かに、静かに硬くなることも多いのである。
 学校では国家試験に受かるために、ジャクソンの仮説に過ぎないアイデアを真実のように、あるいは真実として教えてしまうので、臨床経験とは全く矛盾した説明になっているのに、その仮説の方を信じてしまっているのである。

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基礎的運動スキルの視点から評価すると・・・

目安時間:約 4分

 基礎的運動スキルとは、「支持」や「重心制御(移動と保持)」、手脚などの「振り出し」などの様々な複雑な運動スキルを構成するもっとも基本的で小さな単位のことです。
 たとえば歩行では片脚を「支持」しながらその脚にさらに「重心を移動」して、荷重からフリーになった反対の脚を「振り出し」ます。さらに前方に重心移動しながら振り出した脚を接地して支持しながら、その脚にさらに重心移動して、反対の脚を荷重からフリーにして・・・・・などと繰り返します。
 このように重心制御しながら支持し、振り出しながら支持脚で重心制御し、振り出した脚で支持しながら重心制御する・・・などと様々な運動スキルはこの三つの基礎的運動スキルから成り立っています。
 片麻痺患者さんをこの基礎的運動スキルの視点から評価すると、「麻痺側下肢の支持性が弱く、麻痺側下肢に重心移動することに不安があります。すると自然に十分に重心移動できなくなり、結果患側下肢での支持時間が短くなって健側下肢を十分に振り出せない」などということが良く見られます。
 こんな時は患側下肢の支持性を高めて、さらに十分大きく重心移動して患側下肢でしっかり荷重を保持する練習が必要です。(これは筋力改善というよりは、筋固有の硬さを生み出すメカニズムを利用していると思われます。ここでも再々紹介しているキャッチ収縮系の筋の張力発生メカニズムです)
 学校では、弱った筋力を見つけて、それを鍛えて運動パフォーマンスを改善しようとする訳ですが、CAMRの場合は、特定の筋力ではなく基礎的運動スキルを鍛えて運動課題達成力のアップを図ります。又課題の出し方を少し工夫すると、基礎的運動スキルを改善しながら同時に筋力などの運動リソースの豊富化も図れるようになって合理的です。
 現在臨床では、筋力などの運動リソースだけを改善しても、それを「課題達成のためにどう使うか?」という運動スキルについては、患者さんに丸投げしてしまうことが普通です。
 もちろん整形疾患などでは患者さんの傷害は局所的で動ける人が多いので、筋力を改善して、患者さんに丸投げすれば良いのです。すると患者さん自身の力で自然に改善した筋力の使い方(運動スキル)を憶えていかれるのです。
 でも片麻痺のように障害の範囲が広く、十分に動くことが難しいと筋力や柔軟性だけを改善しても運動スキルは十分に発達することができません。
 運動スキルは必要な運動課題を達成する過程で生まれるものです。自ら動いて課題達成する必要があるのです。
 そのために改善した運動リソースをどう利用するかという運動スキル学習がどうしてもセラピストの手助けで必要になってくるわけです。
 もう一つ、基礎的運動スキルは他の様々な複雑な行為スキルの基礎になります。基礎的運動スキルが洗練・強化されていれば、他の行為的運動スキルの獲得が容易になるのです。だからリハビリで必要なのは常に「基礎的運動スキルを鍛える、改善する」ことなのです。

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