脳性運動障害と整形疾患ではアプローチが異なるか?

目安時間:約 4分

 リハビリの学校では、「障害別のアプローチ」を習います。脳細胞と骨では、持っている働きが違います。脳は身体や環境の情報を集めて判断し、適正に動けるように命令します。脳が壊れると障害の範囲は広範囲で、失われる機能も多い。それに今のところリハビリでは失われた脳の機能は回復できません。
 一方たとえば骨は筋の生み出す力に支持と方向を与えます。多くの場合傷害は局所的で、他の身体部位の働き・機能は維持されます。骨折自体が治ることも普通です。
 だから骨折とかの整形疾患と脳卒中などの脳性運動障害ではアプローチが違うのだと考えられるわけです。障害の複雑さも困難さも全く異なったレベルなのでアプローチが違うのは説明するまでもない、という訳です。
 ただCAMRではそうは考えません。個々の具体的なやり方や配慮する点は違ったことが多くとも、基本的には同じ治療方針です。
 それで最初の治療方針は、運動リソース(運動の資源:筋力や柔軟性、持久力、感覚情報など)はできるだけ豊富にします。筋力や柔軟性、持久力などの運動資源が豊富であれば、当然それらから生まれる運動も多様で安定的、適応的になる可能性が高まるからです。
 2番目の治療方針は、豊富になった運動リソースを利用して、臥位や座位、立位での重心制御しながらの支持や振り出しなどの基礎的運動スキルを発達・熟練させることです。
 基礎的運動スキルは、運動リソースを上手に利用して臥位や座位、立位での様々な基本動作などを上手に達成するためのやり方・方法です。これは様々なやり方で改善することができます。
 またこの基礎的運動スキルは、より複雑な日常生活行為を達成するための行為的運動スキルを構成するための土台になります。この練習をしっかりすると日常生活課題をより楽に達成できるようになります。
 最後に日常生活課題を達成するための行為的運動スキルの練習を行います。
 人の運動スキルはその人に意味や価値があり、なんとか達成可能な運動課題を達成する過程で生まれてきます。
 再々説明しているように必要な生活課題を達成するのは筋力や柔軟性の運動リソースではありません。いくら筋力を強くしてもそれは単に力に過ぎません。その利用の仕方である運動スキルがなければ課題は達成できません。   
 ただし単純な骨折のような整形疾患では、傷害が局所的で患者さんは多様に動けるので、筋力を改善すれば患者さん自身で動いて必要な生活課題を達成します。それで運動スキルは獲得・発達します。
 だから整形疾患に関わるセラピストはあまり運動スキルに意識が向きません。多くの例で運動リソースを改善すれば良くなるからです。
 傷害の範囲が広く、失われた機能も多い脳性運動障害では、患者さん自身が十分に動くことができないので、セラピストが患者さんの状態を理解し、工夫し良く設計された運動課題を提案して、必要な運動スキル学習を進めていく必要があります。
 もちろん整形疾患でもセラピストがこのことをよく理解しておくと、より効率的に訓練を進めることができますよねv(^^)
 結局脳性運動障害でも整形疾患でも、人の運動システムは同じ作動の特徴を持っています。だから全く異なったアプローチではなく根幹の訓練方針は同じです。でも具体的な進め方や配慮が異なっているという訳です。上手く説明できてますかね?(終わり)

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筋力を鍛えるか?基礎的運動スキルを鍛えるか?

目安時間:約 3分

 もちろん力は必要です。そして力は強い方が良いのです。それでも筋力は力に過ぎません。筋力は運動リソース(運動の資源)に過ぎないのです。そしてその力をどう使うかという運動スキルが課題達成には必要なのです。何かを達成したいなら運動スキルを発達させる必要があるのです。
 椅子に座って足首に重りを巻き、膝を伸ばします。確かに四頭筋の筋繊維は太ります。でも立位で足踏みするときには、狭い基底面内に重心を保持し、左右の脚に重心移動しながら体重を支え、反対の脚を振り出すための全身の筋群と協調しながら姿勢と運動を維持するための運動スキルが必要です。
 この時に使われているのが基礎的運動スキルです。これらのスキルは重心制御、支持、振り出しの三つの働きをします。
 たとえば立位でつま先立ちをしたり、片脚立ちをしたり、サイドにステップをしたり、歩いたりするときにそれらの運動を達成するための基礎となる運動スキルです。
 単純な動作で見られますが、これらの基礎的運動スキルを様々な状況の中で鍛えてあげると、より複雑な生活動作や行為が安定してきます。
 筋力を個別に鍛えても、ある動作を達成するためにはそれぞれの動作毎にまた運動スキルを学習する必要があります。
 でも基礎的運動スキルは鍛えてあげると、他の様々な動作を構成する基礎となります。つまり転移、他の動作の中でもそのまま応用されるのです。
 たとえば卓球とテニスは一見ラケットを振るという運動の形が似ているので、一方のスキルが他に転移すると考えるかもしれません。でも使われている基礎的運動スキルが全く違うので転移しません。
 一方スピードスケートは自転車競技とは全く違った運動に思えるかもしれませんが、両者の運動スキルは転移します。運動の形は違っていても、使われている基礎的運動スキルが共通しているからです。つまり道具を使った狭い基底面の中で、左右の脚に交互に重心制御しながら、重心移動した片脚で支持しながら対側の脚に重心移動しつつ、下方から後方に力強く振り出しながら支持していくという基礎的運動スキルが共通しているのです。
 だからリハビリでは個々の筋力を鍛えるよりも、この基礎的運動スキルを基本的な運動課題を通して状況を変えながら繰り返し、鍛えていくことで動作・行為レベルの運動パフォーマンスがアップする基礎になるのです。
 CAMRのアプローチではこの基礎的運動スキルの改善を中心に組み立てられます。
現在無料勉強会を毎月実施中です。詳しい情報は以下のメールアドレスにお問い合わせください。(◎をアットマークに置き換えてください)
camrworkshop◎mbr.nifty.com

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リハビリの姿勢動作観察の技術 その4

目安時間:約 2分

 CAMRの姿勢・動作観察のスタート地点は、「人の運動システムは問題解決をしながら課題達成するという作動の特徴がある」ということです。
 前回杖を体の前方遠くに突いて歩くのは、後に引っ張られるような感覚があり、後に倒れそうなので、前方に大きく基底面を作って重心がそこから飛び出さないように運動システムが問題解決を図っていると説明しました。
 同様に脳卒中後に健側遠くに杖を突く人もおられます。これは運動システムが患側下肢の支持性に自信がないので健側下肢中心に荷重しているのかもしれません。あるいは患側上下肢共弛緩状態で患側へ重心が引っ張られているので、負けないように健側に広く基底面を作って重心を安定させているのかもしれませんね。
 つまり基底面をどのように作るかというポイントを中心に観察するのは、基礎定位能力を見るときの大事な視点です。
 基礎定位とは重力と支持面の間で身体を安心・安全の状態に維持する運動システムのもっとも基本的な能力です。
 健康な人であれば通常歩いている時の歩隔はほぼ0㎝です。しかし基礎定位の問題があると歩隔は広がり、大きな人では肩幅くらい開いて歩いたりもされます。たとえば失調症の方はもっと広いスタンスをとられる方もいます。
 また重心が高く不安定になりやすい立位介助を嫌がったり、抵抗されたりもします。杖歩行では2動作歩行よりも、常に2点で支える3動作歩行を好まれます。また広い廊下の壁際をわざわざ歩いたりもされます。すぐに手すりに頼ることができるからでしょう。重度になると横手すりよりは縦手すりを好まれます。全身ですがることでより安心できる立位保持ができるからでしょう。
 他にも基礎定位能力の低下の程度に応じて様々な兆候が見られますので、まずこれらの知識を得てから観察を始めると非常に役立ちます。(その5に続く)

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リハビリの姿勢動作観察の技術について(その3)

目安時間:約 2分

 学校では、障害後に見られる現象は大体症状として習います。これは機械を見るときのやり方です。機械には設計者が意図した正しい運動だけがあります。想定外の運動は全て故障による動きです。
 でも人は、生きています。動物なので生きるために動きます、左脚が傷ついても動く必要があるならそれをかばいながら動くのが当たり前です。片脚と家具を両手で支えながら歩いたりもします。状況に応じて必要な課題を達成しようとするし、そのために普通は見られない動きをしたりもします。健常な動きでなくとも間違った動きとは言えない場合も多いのです。
 もし杖を遠く前について歩く人がいたら、バランスが悪くて特に重心が後ろに引っ張られる感覚があって後にこけそうだから、杖を遠く前に突いて広い基底面を体の前に作ってその中に重心を保持している」という問題解決を図っているのかもしれません。
 これはバランス障害に対する問題解決の作動ですよね。必ずしも全てが症状ではないのです。
 風にあおられ吹き回される柳の枝のように、人は障害に振り回されているだけの存在ではないのです。問題はあっても何とか問題を解決して、必要な課題を達成しようと常に作動しているのです。
 それで障害後に見られる現象は全てが症状ではなく、必要な課題達成が妨げられると、なんとか課題達成のために問題を解決しようとする作動による現象が加わっているはずです。脳性運動障害後の体の硬さは症状か、あるいは問題解決の作動か?屈曲共同運動は症状か、あるいは問題解決か?
 そんな風に考えるとこれまでとまるっきり異なった障害の理解ができ、新しいアプローチが生まれるのです。(その4に続く)

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リハビリの姿勢動作観察の技術について(その2)

目安時間:約 2分

リハビリの姿勢動作観察の技術について(その2)
 前回述べたように最初のベースとなる知識や視点によって観察によって「観えてくるもの」が異なります。
 たとえば杖を突いて歩いている人の患側の下肢の振り出しが健側の足と同じ位置に揃ってしまいます。円背があり杖を体のかなり前方に突き、患側下肢を振り出した後、わずかの間、動きが止まってしまいます。
 学校で習うのは「どんな形でどんなやり方で歩いている?」と考え、「その原因は何か?」などと身体の構造と各器官の働きから観察します。それでこれを見るとまずは「股関節屈曲の筋力が弱いので、患側下肢を十分に振り出せないのかもしれない」と股関節屈筋の働きの低下で説明したりします。実習生や新人さんがすぐに飛びつきそうな説明ですね(^^;)
 「ではどうする?」と質問すると、きっと「はい、股関節屈筋の強化を図ります」と意気込んで答えるはずです(^^;)
 少し深読みする学生さんだと、「円背があり股関節も屈曲気味なので、弱い股関節の振り出しの筋の屈曲の筋収縮の効率が悪くなっているのかもしれない。姿勢をまず治した方が良い」などと「やった感」を出したりします(^^;)
 でもCAMRではまず「人の運動システムは障害後にどのような問題解決を図るか?」という視点で観察します。人の運動システムは、課題達成に問題が起こるとまずはその問題を解決して課題を達成しようとするからです。(その3に続く)

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姿勢動作の観察の技術について(その1)

目安時間:約 2分

 姿勢動作の観察の技術は「目に見えるものから、目に見えないものを観る」技術です。これが観えるようになると仕事が俄然面白くなります。
 観察の技術は、「観察の基になる知識」と「繰り返しの実施経験」から身につき、熟練していきます。
 たとえば立っている人を見て、左肩が下がっていると「左脚重心で骨盤が水平面で右に下がり右側彎がある。そうすると左下肢はO脚気味、右下肢はX脚気味になりやすい」という知識があり、患者さんの姿勢観察をしていると自然にまず肩の位置を比べるようになりますよね。
 肩の左右差は見えるので、それを基に見えない骨盤や脊柱や重心の位置なども観えてくるようになるわけです。
 そして観察を何度も繰り返すことで徐々に技術は向上します。
 またこの知識があると靴をいくつも観察することで、履いている人がどんな問題を持っているかも想像ができるようになります。ほんの少し見えるものがあるとたくさん観えるものが増えてくるわけです。
 上記の観察は解剖学や運動学を基にして、体の構造や各器官の働きなどの学校で習う知識の視点で観察しています。
 一方CAMRでは、体の構造や各器官の働きではなく、人の運動システムの作動の特徴という視点から得た知識で観察をします。そうすると学校で習った視点とは異なった理解やアプローチが生まれます。
 次回はCAMRの視点から得られる知識を基にした観察の様子を説明しましょう。(その2に続く)

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CAMR誕生の土台 その3(ベルンシュタイン編 その3)

目安時間:約 3分

「運動学習が運動の形ややり方をプログラムとして憶えて再現する」と考えるとします。でも人の体が正確に同じ運動を繰り返せないということは、「頭の中にプログラムがあってそれが発動するとプログラム通りの運動を再現する」という理屈は成り立たなくなります。(注1)

 たとえば温かいと筋は柔らかくなり、運動は大きくブレることになり、寒いと硬くなって運動範囲が狭くなります。気温変化のような環境内や身体の様々な影響で運動結果は異なるわけです。つまり「同じ運動を繰り返して頭の中にそのプログラムを作る」という伝統的な運動学習の考え方にダメ出しをしたのです。

 ベルンシュタインは「運動学習は運動の形を憶えて再現することではない」としました。その時その場の状況に応じて異なる運動でも同じ運動結果になるように予期的に運動結果を知覚調整するやり方を身につけることが運動学習であるとしたのです。やり方の記憶ではなく、やり方(運動スキル)を修正・創造して課題達成を導く能力を伸ばすことだとしたわけです。

 CAMRでは、リハビリの目的は「人の運動システムが持つ生活課題達成力の改善」であるとしています。必要な生活課題を達成するのは、筋力や体力などの運動リソースではありません。筋力はあくまでも単に力に過ぎないからです。

 課題達成するのは、それら運動リソース(筋力、柔軟性、持久力、身体や環境の情報、環境内のリソースなど)を基にそれらをどのように利用して課題達成を行うかという「運動スキル」を創造・修正する能力の改善こそがリハビリで行うべき大切なことと考えています。

 この能力を改善するためには二方向からのアプローチが必要になります。「運動リソースの豊富化」と「運動スキル学習(運動リソースの探索・試行錯誤と運動認知の創造性の改善)」です。これについては説明が長くなるので、またいつか(^^)

 これがベルンシュタインから学んだことの一つです。

 もちろん他にもたくさんのことを学びました。「人と機械は全くことなった作動をする」とかね。以下の書籍です。面白いですよ。

 ニコライA.ベルンシュタイン「デクステリティ 巧みさとその発達」工藤和俊訳 佐々木正人監訳 金子書房,2003年発行の日本語版です。原著は1967年にロシア語で書かれています。英語版は1996年です。運動学習以外にも面白いアイデアが一杯です。(続く)

(注1)シュミットのように「スキーマ説」で運動結果の修正の説明はできるのかもしれませんが・・・それでも新奇な課題で見られる創造的な課題達成のやり方の説明には無理があります。メインのプログラムを修正・制御する補足のブログラムという窮屈な理屈なのです。これをするためには下位にもっと多様でたくさんのプログラムが必要になるはずです。

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CAMR誕生の土台 その2(ベルンシュタイン編) その2

目安時間:約 2分

 職人の金槌を振る軌跡が毎回違うというのは、人は同じ運動を正確に繰り返すことができないからです。機械が正確に同じ運動を繰り返すのは、各部品の動きが常に1つに制限され、結果全体の動きも1つに制限されるからです。同じ意味でも、「正確に運動を繰り返す」というよりは、むしろ「その運動しかできないように制限されている」と表現する方がぴったりです。
 一方人の体では1つの関節も様々な方向に動き、ルーズなところがあります。機械のギアの組み合わせのように1つの動きしかできなくなるのとは大違いです。肩関節の1ミリメートルのズレは、指先ではかなり大きくなるのは容易に想像できるでしょう。
 また筋肉はゴムの様な性質を持っています。1メートルの樫の棒と同じ長さのゴムの棒で1メートル先の電灯のスイッチを押すことを考えてみます。樫の棒は硬いので思い通りに押せますが、ゴムの棒は持っている粘弾性の性質によってユラユラ揺れてなかなか思い通りにはならないものです。筋肉もゴムのように粘弾性の性質があり、元々正確にコントロールできる代物ではないのです。体を構成する要素が柔らかくてルーズで正確にはコントロールできないので、毎回同じ動きを繰り返せないのです。
 さらにゴムは温度変化で粘弾性が変化するように、筋肉も様々な環境下で変化します。温かくなればより柔らかくなって動きはルーズになるし、寒くなれば硬くなって動く範囲も小さくなります。
 それにも関わらず職人さんは繰り返しの練習を通して、異なった運動で正確に同じ運動結果を生み出すようになるのです。ベルンシュタインはこれをどのように説明したのでしょうか?(続く)

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CAMR誕生の土台 その1(ベルンシュタイン編) その1

目安時間:約 2分

 CAMRはContextual Approach for Medical Rehabilitationの短縮形です。「カムル」と呼びます。和名は「医療的リハビリテーションのための状況的アプローチ」と言います。システム論を基にした日本生まれのリハビリテーション・アプローチです。
 今回はCAMRがどのような土台から生まれたかを説明したいと思います。
 最初はベルンシュタインです。
 ニコライA.ベルンシュタイン「デクステリティ 巧みさとその発達」工藤和俊訳 佐々木正人監訳 金子書房, 2003年. から

 システム論はロシアの運動生理学者、ベルンシュタインの本が英訳されたのが西側世界でブレイクしたきっかけの1つらしいです。彼は実にたくさんの魅力的なアイデアを提案しています。そのうちの一つが、「人は機械とは根本的に違う」というものです。
 西欧文明には「人は神が創った機械である」という「人間機械論」という思想が根底にあるようです。それでなくても機械は身の回りにある動くものとして馴染みがあり、自分たちの体の運動を理解するときの喩えとして分かりやすいこともあります。
 解剖学や運動学では、人の体を構造と各組織の働きで理解しますので、運動が生まれる仕組みを機械と同じように学んだりします。あるいは脳をコンピュータに喩えたりはよく行われますよね
 でもベルンシュタインは、人のからだは機械とは違う」ことを明白に説明しました。以下で紹介するのはその1つの例です。

 職人が金槌を振る動作を観察したところ、一回毎に運動の軌跡が違うのに、毎回釘の頭を打つという同じ結果を生み出すことに驚きました。
 機械は正確に同じ運動をして同じ結果を生み出す訳です。しかしベルンシュタインは人が毎回違う運動で同じ結果を生み出すことを発見したわけです。
 なんとも不思議ですね。(その2に続く)

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「治す」か、「良くする」か?

目安時間:約 3分

「治す」か「良くする」か?

 ある日、初めての片麻痺患者さんが病院に来られて、挨拶も早々に立ったまま質問された。 「わしの病気を治せるか?」 僕は全身を見た。麻痺側の体が硬くなっていることがよく分かる。麻痺は治せないので、「治すことはできませんが、今より良い状態にすることはできると思います」と答えた。

 すると「じゃあ、見てくれんでええわ!」と激しく言ってリハビリも受けずに杖をついて出口に向かってしまった。僕は唖然とした。

 硬くなった体で一生懸命に歩かれている。重心移動や患側下肢の振り出しに時間がかかって、頑張っている割に速度が遅い。どうするか迷った。もう一声かけるべきか・・・ あの硬さを改善すれば、もっと楽に歩けるし、歩行速度も上がるだろうと思った。後を追おうとしたら、一緒に来ていた妻が申し訳なさそうに頭を下げた。 「いつもあの調子なんです。諦めがつかないらしくて・・・もういいんですよ、ごめんなさいね」と小声で言いながらあとを追われる。なんだか声をかけそびれてしまった。

 カルテを見ると発症から4年。県内の有名なリハビリテーション病院などにも入院されていたようだ。いろいろな病院やクリニックを渡り歩いておられるらしい。

 最初は「仕方ない。あの方の判断だ」などと思ったが、何度も気になって仕方ない。なんと言えば良かったのか?嘘はつけないが、もう少し丁寧に説明すれば良かったのでは?

 たとえばすぐに返事せずに、「見たところお体がかなり硬くなっておられるようですね。その硬さを改善すると動きやすくなりますし、歩くのも速くなると思います。ただ麻痺自体を治すのはリハビリではできないのです。でも今より動きやすくなりますよ」などといった言葉が後からいろいろ浮かんで来た。

 もちろんそれでも断られたかもしれないが、なんだかいつまでも後悔が残るもので、30年近く経った今でも思い出すことがある。(終わり)

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