不自由な体で孫の仇討ち-新興犯罪組織首領殺人事件 その7 小説から学ぶCAMR 

目安時間:約 7分

不自由な体で孫の仇討ち-新興犯罪組織首領殺人事件


 小説から学ぶCAMR その7


 翌日にも藤田さんは訓練開始早々、以下のような質問をぶつけてきた。


「昨日は面白い経験をした。あの上田法というのをやると、身体が頼りなくなるようだが、動きやすくもなっとるようだ。どういうことだ?」


「体が硬くなっていた、つまり関節の可動範囲が小さくなり、脚の運動する範囲が小さくなっていたのです。それに歩くと言うことは片側の脚に重心移動して、体重を支えない方の脚を前に振り出すと言うことです。体が硬いと重心の移動範囲も小さくなるので、片脚に十分に体重が乗らないので、反対の良い方の脚も少ししか振り出せないのです。


 それに体が硬くなっているために、動かそうとしても硬さが抵抗となって筋力が十分に活かせないのです」


「うむ・・・・・なるほど。俺もあれから色々と考えてみた。どうも全身のこわばった状態が確かに低下したようだ。昨晩は寝ているときにも身体が軽く、良く動いた。悪い方の脚が動いたりもした。今朝も寝返りや起き上がりが楽だった。ここ何ヶ月も体がこわばって動きにくかったのだが、こわばりがとれて動きやすくなったようだ」


「ええ、よく皆さん、そう仰います」


 患者さんがこれほど明確に身体変化の状態を語られるのは初めてのことだった。僕の方も良い勉強になりそうだ。


「すると不思議なのは、症状には、力が出ず身体が硬くなる麻痺とか立ち直り反応とかが低下するとか言っていたが・・・同じ症状でも、良くなる症状と変化しない症状があるということなのか・・・力が出ないで硬くなる症状なのに、身体が硬くなるのだけが改善するのか?それとも昨日のあれをやるとやがて力も出てくるのか?」と期待を込めて質問される。


 僕は驚いた。こんなことまで考えておられるのか!という驚きだ。


「まずは時間がもったいないので上田法からやりましょう。横になってください。その時に説明しましょう」


 上田法の2種類の手技は横になって丁寧にやると20分ちかくかかる。やりながら話を続けた。「これから説明することは一般の考えとは違うものだと思ってください。


 僕が思うに脳卒中後の主な症状は、麻痺、つまり力が出なくなって筋肉が弛緩してしまうことです。力が出ないから立ち直りも低下するし、歩行バランスも悪くなるんです。つまり脳の細胞が壊れると麻痺が起きる、つまり力が出なくなることが一番基の症状で、あとの症状はその結果です。ここまでは良いですか?」「うん、なるほど。力が出ないからいろんな動きもでんし、歩行バランスが悪くなる。それなら納得できる」


「麻痺した筋肉は収縮できず、弛緩します。筋肉の中には多くの水を含んでいます。つまり弛緩とは水の入った袋のような状態です。たとえばテーブルの上に水の入った袋を置いてみましょう。重力に抑えつけられて安定するまで広がってテーブルに貼り付いたようになりますよね」


「うん、そうだな」


「弛緩した体というのは、可動性のある骨格が水の袋に入っている状態です。弛緩した体が重力に抑えられてベッドに貼り付いたようになって動けません」


「うん、わかった!最初にそうだったよ、確かに!病気になってすぐあとは動こうとしても動けなかったし、床に抑えつけられたような感じだったし・・・それに体が悪い方に引っ張られていく感覚があって不安になったものだ」


「そうですね。でもこの弛緩状態のままでは動けないので、運動システムが問題解決を図ります。人の体は機械と違って、問題が起こると問題解決を自動的にするのです。身体の中に筋肉を硬くするメカニズムが幾つかあって、それを働きやすくするのです。たとえば伸張反射と言って、筋が伸ばされると収縮して筋が縮む反射のメカニズムがあるのでこれを働きやすくします。


 また、キャッチ収縮というメカニズムがあって、一度収縮した筋繊維はエネルギーを使わずに引っかかったような状態で収縮を保つことができるんです。つまり硬くなったままになります。このメカニズムも働きやすくしてやります。つまりは身体を硬くするのは、障害後に動くために運動システムが問題解決をした結果であると考えます。弛緩状態の体では動くことができませんが、硬くするとその部分で体重を支えることができますし、硬くなって1つの塊になれば引きずってでも動くこともできます。


 これは外骨格系の問題解決と呼んでいます。カブトムシやエビやカニのような外骨格動物といって体の外側に骨格を持つ動物のように体を硬くして支持を得るやり方です。カブトムシは死んでも立たせることができます。これは外骨格による支持を利用しているからです。患者さんも体を硬くすることでしっかりした硬さと支持性を得ることができるのです」


「なるほど。体が硬くなるのは症状ではないと言うことか。俺の運動システムが問題解決のためにあとから選んだ活動なので、この硬さは元々の病気とは関係なく変化させられるということだな?・・・・・・俺の歩行は昆虫並み、と言ったがまさしく昆虫のように体を硬くして動いとったわけだ」


「そうです!」とても聡明な方だ。先輩とは大違いだと思った。(その8に続く)


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