感動の運動スキル!(その5)(第183週目)

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感動の運動スキル!(その5)(第183週目)


 機械は同じ運動しか繰り返せない構造なので同じ結果を生み出す。しかし人はグニャグニャでルーズな体なので毎回同じ運動は繰り返せない。でもその毎回異なった運動で同じ結果を生み出している。これが何を意味しているか、ベルンシュタインのアイデアを見てみよう。


 まず人の体はグニャグニャでルーズである。これを正確に思い通りにコントロールするのは大変である。体は様々な方向に無限に動きうるし、コントロールしなければならないものが多すぎる。だからある程度筋や神経のレベルで一つの塊として組織的に動く単位を作ってやれば良い。ベルンシュタインはこれを「協応構造」と呼んでいる。


 佐々木正人は「自動車の前輪を左右それぞれ独立に操作するのは大変だが、ハンドルで両輪が同時に同じ方向に動く仕組みでコントロールが容易になる」という例を挙げて協応構造を説明している。わかりやすい。そのように一つの課題達成に対して、ある程度まとまった動きをする構造を作ることによってコントロールを簡単にすることができるわけだ。


 つまり良い協応構造を作ることが一つ目。


 そして一回毎に異なる運動で毎回同じ結果を生み出すには毎回ハンマーで釘の頭を打つ前の微妙な調整が必要になる。これは予期的な知覚情報学習によって行われる。つまり運動コントロールとは、過去に憶えた運動の形を再現しているのではなく、毎回異なる運動で同じ結果を生み出すために、毎回の状況に応じて予期的に起こりうる結果を修正するための「予期的な知覚情報の利用」というスキル獲得が必要である。


 これが二つ目。


 これは運動学習が単に「記憶して再現する」などと言う単純なことではなく、結果が出る前に、その一回毎に異なる運動を予期的に修正して成功に導くためのやり方を学習しているわけだ。これはゴムの様な体を予期的にコントロールして同じ結果を出すのだからとても困難な仕事だとわかるだろう。


 だからこのスキル獲得のために運動学習はとても時間がかかるのだ。


 こうしてみると運動課題達成の運動スキルが発見され、獲得され、熟練する過程は次のような段階で考えることができる。


 まずは課題達成運動の協応構造を作ることである。課題達成のための利用可能な運動リソースを見つけ、試行錯誤し課題達成に近づくような安定した協応構造を作るのである。


 たとえばバスケットボールのフリースローで、最初はボールがゴールに届かなくても、色々やり方を試しているうちに両膝のバネを使って安定的にボールがゴールに届くようになってくると、ある程度の協応構造ができたわけだ。


 そして次の段階に突入する。


 バスケットボールでは毎回体の知覚とその結果を様々に何万回も繰り返し、身体がある関係や状態を作ると課題達成の調整が上手くできるようになって、シュートの成功率が格段に上がってくる。つまり予期的な知覚情報の利用のスキルが上手く働き始める。


 このように二つの段階がある。


 確かに私たちの臨床でも二つの段階があることがわかる。まずは片麻痺患者さんが、はじめて歩き始めるとき。最初うまく麻痺側下肢が振り出せない。しかし体を探って様々な使い方を試行錯誤する。やがて健側の体幹などを使って患側下肢を振り出せることを発見し、繰り返すと、いわゆる分回しという安定した協応構造ができるわけだ。そして平らな床面を何とか歩けるようになる。


 しかしまだ不安定だ。やがてある程度平らな床上での歩行が安定してくると、坂道や階段や屋外歩行を何度も繰り返す。最初は簡単にデコボコに足底を引っかけてバランスを崩していたのが、やがて不意の引っかかりにもバランスを崩さなくなってくる。これまた環境や状況毎の歩行のための予期的な知覚情報が上手く利用できるようになって熟練してくるのである。こうして美しく安定した分回し歩行が獲得されるのである。


 運動学習を進めるためにはこのような二つの段階を経るわけだ。さて、このアイデアはどうだろう?次回、もう少し検討してみたい。(その6に続く)


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