毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その5)
今回検討するのは「課題特定性」という人の運動システムの作動の特徴です。
これを知ると、リハビリをどのように進めたら良いのかがわかるようになります。
課題特定性というのは、課題達成のための運動スキルは課題そのものの遂行によって生まれ、修正される」という特徴です。わかりやすく言えば、「歩くための運動スキルは歩くという課題を遂行することによって生まれ、修正される」ということです。なんだか文章にすると「当たり前じゃん!」と行った感じですね。
でも臨床では、歩く練習をするために「椅子に座って四頭筋訓練をする」といったことはよく見られます。
これはやはり人の運動システムを機械のように見ているからでしょう。座位での四頭筋強化がそのまま歩行で活かされると考えてしまうのです。確かにロボットでは、膝を伸ばすモーターが壊れたら、それを交換するだけで元々設定された歩行が行えるようになります。つまり壊れたリソースを交換するだけで良いのです。
つまりロボットには運動スキルが無いのです。ロボットの「やり方」は予め決められていて、人の運動スキルのように状況によって自律的に新たに創造されたり、変化に対応して自然に発達したりするものではないのです。ロボットで考慮するべきはリソースだけで良いのです。
しかし人の運動システムでは、課題達成は運動リソースと運動スキルの二本立てです。座位で四頭筋の筋トレをすると筋繊維は太りますが、そのままでは歩行に役立ちません。増えた筋力という運動リソースをどのように歩行に使うかという運動スキルも筋力変化に応じて対応させ、発達させるための運動スキル学習が必要なのです。
少し前の話ですが、高校野球で「長打力をつけよう」と新たに筋トレを加えることがブームになりました。しかし実際に筋力だけ改善しても長打力が伸びるどころか、バッティングそのものが下手になるということが見られました。
筋力という身体リソースだけが変化すると、それまで使われていた運動スキルでは適切に対応できなくなるのです。だから変化した運動リソースに対応してうまく課題達成できるような新たな運動スキル学習が必要な訳です。
この場合も「打撃という運動スキルを進歩させるためには、変化した筋力を上手く使うための打撃という課題そのものをやっていく必要がある」のです。
というのも、ある課題を達成するための運動スキルを生み出すための情報リソースは、その課題の中にしかないからです。だから歩行をより安定させたいなら、歩行練習の中でより安定することを目標に運動スキル学習をしなくてはいけないのです。
実際に運動スキル学習を効果的に行うための課題の条件もわかっています。以下の3つです。
① 行為者本人が、必要な課題(行為者自身にやる意味や価値が感じられる課題)
② 行為者に取って達成可能な課題(少なくとも介助や環境リソースの工夫で達成できる課題)
③ 行為者自身がアクティブに実践・経験できる課題となります。 そうなると、セラピストにとって一番重要な仕事の1つは「課題設定」ということになります。
セラピストは患者さんにとって意味や価値の感じられる課題を提案する必要があります。それにその課題が修正や介助や環境リソースなどによって何とか達成できるように工夫する必要があります。また課題の実践や経験を通して、患者さんが意味や価値が感じられ、取り組む姿勢がより良くなるように援助する工夫も大事になります。
CAMRでは、セラピストが課題設定するための工夫や技術がいくつか用意されていますので、機会があれば講習会などを受けられると良いと思います。
さて、「状況性」と「同一課題のリソース交換性」という作動の性質で、医療的リハビリでやるべき内容が示されました。そして今回の「課題特定性」という作動の性質で、リハビリの手段が示されました。
そしてもう一つ考慮するべき「自律的問題解決」という作動の性質があります。これこそが脳性運動障害のリハビリでは一つのキモになります。次回からこれを少し詳しく説明したいと思います。(その6に続く)
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