「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その1)

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「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その1)


 病気などになったとき、「悪いところを見つけて治す」という発想はごくありふれたものである。というより、それ以外の発想をなかなか思いつかないのではないか?


] 実はこれは「機械を直す」から来た発想かもしれない。西欧の思想の根底には、「人は神(又は自然)が作った機械である」という「人間機械論」という思想がある。だから西欧の人々は人体を機械として扱うことにあまり抵抗はないようだ。


 実際に西洋医学はこの方法で大きな成功を収めた。悪いところを見つけて治し、治すことができなければ最近では「臓器移植」なども行われる。徹底的に構造を治すことを目指しているようだ。


 このように人を機械として見る発想も非常に効果的なアプローチである。人を機械として見てもうまく行く側面があるのはもう間違ない。


 そしてリハビリの分野でも、整形分野ではうまくいった。これでリハビリは社会的に存在価値を認められたわけだ。


 そして脳性運動障害では脳の細胞が壊れるので、脳の細胞を再生したり、脳の機能を再生したりしようとした。しかしこれはどうもうまくいっていない。日本でもこの考え方が入ってきてから60年ほどになるが、未だにリハビリで脳の機能を再生してマヒを治したなどという科学的な報告はない。リハビリではどうも「脳を治す」というのは不可能ではないか。


 実際に「この悪いところを治す」という発想では、「治す、交換する」ことができない部位の障害では壁にぶつかって手が出せなくなる。


 しかし最近は、リハビリではなく電子工学などの分野の発達で、脳の機能を手助けするような取り組みで成果が見られる。たとえば経皮的に脳波を拾って、それで手の筋肉に繋いだ刺激装置に指令を出して手を動かすような機械である。 この装置のような環境リソースが発達すれば、この考え方もまた壁を乗り越えていくのだろう。


 しかし、このような「機械を直す」以外の発想はないものだろうか?少なくともリハビリではこの考えは壁にぶつかっているようだから。


 そもそも人は機械ではない。人は動物であり、機械とは異なった構造を持ち、機械とは異なった作動をするものである。だから動物の運動システムの構造とその作動を基にした別の発想のアプローチが本来あるはずである。


 今回のシリーズではこれを考えてみたい。


 まず基本、機械を修理するときには悪い部品やユニットを見つけて「直す、修理する、あるいは交換する」以外に修理の方法はない。それは機械の部品やユニットは最初からシステム全体の中で明確に役割が決められているからである。だからある役割を持った部品が壊れてしまうとシステム全体がうまく作動しない。ロケット打ち上げ失敗のように小さなたった一つの部品の故障で全てがうまく作動しなくなる。ビス一つにだって「固定する」という明確な役割が与えられているわけだ。


 しかし人ではどうだろうか?腓骨神経麻痺を起こすと下垂足が起きる。もし歩行ロボットで足部を持ち上げる動力あるいは力の伝達装置などが壊れると同じようにつま先が垂れてしまうだろう。すると歩こうとするとつま先が床に引っかかり転倒してしまう。


 もちろん人でもつま先を引っかけて転倒するが、何度か繰り返すうちに運動システムはCAMRが「自律的問題解決」と呼ぶ作動によって、「鶏歩」と呼ばれる歩き方を創出し、熟練することによって歩行動作を回復してしまう。ただ単に歩くだけのロボット、機械ではこんな作動は生まれない。


 人の運動システムでは悪いところが治らない場合は、利用可能な別の運動リソースを置き換えて、新しい運動スキルを創出して問題を解決してしまうわけだ。各部位・要素の役割は固定されたものではなく、役割を交換したり新しい役割を生み出すような運動システム全体の再構成が行われる。


 もし人の運動システムの作動の特徴をよく知っていれば、「悪いところを探して治す」以外の発想のリハビリ・アプローチも生まれるのである。(その2に続く)



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