まずは「立ったまま靴下を履く」という運動課題を考えてみよう。
あなたなら、どうやってこの課題を達成しますか?
元気で活動的に動いている人なら、「靴下を履く方の脚を床から持ちあげて片脚立ちになる。そして両手で靴下の履き口を広げて挙げた足の前に持っていき、靴下を履く」という「方法」で靴下を履くはずである。
この場合は、重力と床の間で力なり柔軟性によって体幹を安定させるための基礎定位の能力が必要だろう。また片脚で重心をコントロールしながら支持し続けるための筋力が必要である。両手で持った靴下に足先を持っていく柔軟性も必要である。また片脚立ちしながら両手で靴下をコントロールするにつれて重心が動揺するが、その揺らぎを吸収してバランスを保つことを容易にする体幹や下肢の柔軟性も必要である。
もし、基礎定位の能力や筋力や柔軟性のどれかが劣っていると、この「方法」は利用できない。
それでその場合は、「壁にお尻をつけてもたれかかり、片脚立ちになって靴下を履く」という「方法」によって課題達成が可能となるかもしれない。壁を利用して、支持や柔軟性や基礎定位の能力低下を補う訳だ。
もし筋力が弱くても身体前方への柔軟性が極めて高ければ、両脚で立ったまま「片脚を前に出してつま先を挙げ、体を前方に屈曲して両手で靴下をかぶせ、その後つま先を下ろして踵を挙げ、靴下を引き上げる」という「方法」で課題達成が可能である。
こうして見ると、運動の成り立ちを以下のように説明することができる。
基礎定位の能力や体を支え動かす筋力、柔軟性などは、運動課題達成のための運動の資源(リソース)である。それでこれらの身体や身体の持つ能力、性質などはCAMRでは「身体リソース」と呼ぶ。
壁にすがって履く場合、壁は環境内にあって課題達成に利用できるので、環境内の資源であり、「環境リソース」と呼ぶ。
身体リソースと環境リソースは合わせて単に「運動リソース」とも呼ぶ。
筋力は単に力という性質であり、柔軟性は単に運動範囲が広いという性質である。これら運動リソースが課題を達成することはできない。課題達成のためには力や柔軟性をどう使うかという「方法」である「運動スキル」が必要である。
そうすると「運動スキル」は、「課題達成のための運動リソースの利用の仕方」と説明することもできる。
さらに運動スキルはどのように生まれるかを考えると、「予期的に運動リソースの意味や価値を知り、それらを利用して課題達成のための運動スキルを生み出し、修正する能力」が必要である。それでこの能力のことを「予期的運動認知」と呼ぶ。
CAMRでは、上述のように課題達成の運動は「運動リソース」、「運動スキル」、「予期的運動認知」の3つから成り立つと考える。
そうすると従来学校で習ったように「脳が理解・学習・命令して、筋力が力を生み出し、骨・靱帯が力に支持と方向性を与え、感覚によって課題達成を修正する」という運動理解とは全く異なった運動理解の視点を持つことができる。
CAMRの視点を持ったセラピストはこの2つの異なる運動理解の視点から、運動を解釈することができるため、運動問題に対して幅広い柔軟なアプローチで対処できるようになる。
今回のシリーズは、この新しい運動理解の視点について簡単に説明してみたい。(その2に続く)
この記事はNo+eに掲載されたものです。以下のURLから。
https://note.com/camr_reha/n/n9fe5ffdb02af



