運動リソースとリハビリ(その6)194週目

目安時間:約 7分

運動リソースとリハビリ(その6)194週目


 さて先週の続きである。


 脳卒中発症後3日目の患者さんの初めての立位訓練を例にセラピストがどのように運動リソースを操作するかを簡単に説明しよう。


 麻痺は中等度、端座位保持は可能で初めての立位の練習。健側手で平行棒をつかんで椅子から立とうとしたがお尻がわずかに浮き上がる程度。「体が自分のものではなくなった」という感想を言われる患者さんだ。


 セラピストは患者さんの様子を見ながら、患者さんの身体リソースと環境リソースを操作していくわけだ。以下のようにまとめられるだろう。


1. 患者さんの身体リソースと環境リソースをその場で変化させてみること


①椅子と平行棒の位置関係を変える。平行棒の高さを変えるなど。体が前方へ重心移動しやすいように位置関係などを試行錯誤する


②体幹の回旋や前屈などのストレッチを行って柔軟性のリソースを改善し、前方への重心移動を楽にし、移動範囲を大きくする(起立とは体幹を前屈し、重心を前方の足部に乗せるように重心移動するところから開始するので)


③健側下肢へ重心を移しながらお尻の持ちあげを最小限手伝いながら起立を介助する。


 最初は健側下肢を中心に起立・立位保持練習を行うと良い。患側下肢は麻痺で支持性がないから健側中心の立位保持練習をする。


 また健側下肢の筋活動を促通して筋の収縮力を活性化する狙い。


 脳卒中後、寝て過ごし下肢筋が使われていないので筋は眠った状態で力が出ない、なんてことはよくある。介助しながらでも一度課題を達成すると、次から自然に力が入って筋出力が改善することはよくある。


 一方、筋トレは筋繊維を太くして安定的・継続的に筋出力を改善することだが、これには数週間の時間がかかる。そうではなく一瞬にして筋出力が改善することは臨床ではよく経験することで、まずこの可能性は試してみる価値がある。


④立ってすぐに健側下肢に重心を移して、健側上下肢を中心に立位保持する練習を繰り返す。最初は健側へ重心を良いタイミングで移動するやり方を探りながらの介助が必要だ。


 セラピストは一人一人の患者さんに合わせた運動スキルを探索する必要があるし、患者さんもまたセラピストの介助スキルに合わせて上手く体を動かす運動スキルを探索するわけだ。患者さんにとってはセラピストも環境リソースであることを忘れてはいけない。介助する方もされる方も上手く息が合って、お互いの介助する・されるの運動スキルがかみ合って初めて介助による課題達成が上手くできるのである。


⑤また座面に座布団を入れて座面を高くして、介助量を小さくすることができる。できるだけ独りで起立課題を成功的に行い、患者さんが起立の運動スキルを探索する機会を増やすわけだ。その座面を高くするためにたとえば座布団という新しい環境リソースを付加するわけだ。


⑥上手くいけば介助を減らしながら繰り返し、患者さんの「麻痺のある体で立ち上がるという運動スキル」が生まれて安定するのを手伝う


2. 長期的に改善していくこと


①麻痺がない健側上下肢、体幹の筋力強化。また麻痺の軽い麻痺側部分は筋力改善の可能性あり。多様な運動課題の中で多様な垂直面・水平面での重心移動を伴いながら体を持ち上げたりゆっくり下ろしたりする運動課題を繰り返して筋力改善を行っていく。


②また起立と立位保持の課題を通して、麻痺側下肢への重心移動と荷重経験の繰り返しを行う。麻痺は中等度でも意外に早く、その場で支持性が生まれる人もいる。


 麻痺側下肢の麻痺が重いとすぐに長下肢装具を使う人もいるが、セラピストがほんの少しコツを掴めば長下肢装具なしでの荷重を繰り返して麻痺側下肢の支持性を高めることが可能である。(教科書には書いてないが、脳卒中後の麻痺側下肢は荷重経験を繰り返すと支持性が生まれてくることは多くの臨床家が経験的に知っていることである。このメカニズムの仮説の一つは「キャッチ収縮」が考えられる。詳しくは拙書「脳卒中あるある」、「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!」、「リハビリのコミュ力」などを参考にしてください)


 繰り返しになるが、運動スキルの生成は患者さん本人が行うものだ。しかしセラピストはその時その場で操作可能な運動リソースをコントロールして、患者さんの運動スキルの創出、つまりこの場合は「麻痺のある体で立ち上がるための運動スキル」の創出を手伝うことができる訳だ。(その6に続く)


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西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


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