運動リソースとリハビリ(その7)195週目

目安時間:約 6分

運動リソースとリハビリ(その7)195週目


 前回までで、患者さんが「必要な生活課題達成力を改善する」ということは、「利用可能な運動リソースが豊富になり、それを基に課題達成のための運動スキルが多彩に、柔軟に創出されるようになるということ」がわかっていただけたと思う。


 そもそも障害を持つということは、身体の部位や筋力、柔軟性などの身体リソースが失われて貧弱になることである。あるいは痛みのような「負の身体リソース」によって、持っている身体リソースが十分に発揮できなくなり、身体リソースが貧弱になることである。


 身体リソースが貧弱になると、環境リソースも上手く使えなくなる。当然障害の程度によって様々な程度で生活課題達成のための運動スキルも失われることになるわけだ。


 だから医療的リハビリテーションの仕事は、まずは豊富にできる身体リソースはできるだけ豊富にし、利用可能な環境リソースはできるだけ増やしていくことになる。


 その上で患者さんには、増えた身体リソースや環境リソースを使って実際の必要な生活課題を達成する経験の機会を作ることである。運動スキルは必要で実現可能な生活課題の達成を通してしか、発見あるいは創出することができないからだ。


 だからセラピストの仕事は上述のようにまず運動リソースをできるだけ豊富にすること。


 同時にセラピストは、「必要で実現可能な生活課題」を提示し、達成できるように工夫、援助していくことである。この過程の中で、患者さんは潜在的な運動リソースや運動スキルを発見したり、新たな運動スキルを生み出されることがある。


 つまりセラピストはセラピストの立場から患者さんの運動リソース改善を手伝い、適切な運動・生活課題を設定し、患者さん自身が適切な運動スキルを身につけるように助ける。患者さんは患者さんの立場から何とかその生活課題達成の運動スキルの発見・創出ができるように探索を続ける。


 CAMRではこの両者の協力の過程を「協同探索」と呼んでいる。患者さんは患者さんの立場から、セラピストはセラピストの立場から、患者さんの生活課題達成力を協力して改善していくことだ。


 この場合、CAMRでは「患者さんは自律的な運動問題解決者である」と考えることが大事だ。患者さんを機械、脳をコンピュータの様に考えてしまうと、患者さんはセラピストの感覚入力を待つ受身の存在と思えてしまう。まさしく患者さんをプログラムの入力を待つロボットの様に考えてしまう。


 結果、セラピストが患者さんの課題達成力に全責任を持ってしまう。「適切な感覚入力はセラピストが行わないといけない。身につけた運動方法が正しいかどうか判断して修正しなければならない」などと考える。結果、正しいと思われる運動を押しつけたり、それによる間違いを訂正したりはセラピストの仕事だと思ってしまう。


 さらにその結果、患者さんに対してやや支配的に振る舞ったり、管理したりすることになる。「だからそれじゃ、ダメだって言ってるでしょう!こう動かすのよ、こう!」などと患者さんを厳しく指導?しているセラピストをよく見たりする。


 CAMRでは、「患者さんは自律的な運動問題解決者である」とまず考える。麻痺のある体で、誰に教えられるでもなく「分回し歩行」などという素晴らしい歩行スキルを生み出されるからだ。患者さんは無力ではない。ちゃんと自分なりに独創的な運動スキルを生み出し、歩かれる。必要で実現可能な生活課題を達成する力があるのだ、と認めるところから始まる。


 麻痺も治せないのに、口だけで「健常者の様に歩いて!」などと指示するのは、自分では何もできないのに、患者さんに対して無い物ねだりするようなことではないのか。


 次回は、患者さんとセラピストの協同探索の過程を通して、実際に「分回し歩行」のスキルがどのように創出されるか具体的に見てみよう。(その8に続く)


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