運動リソースとリハビリ(その9)197週目

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運動リソースとリハビリ(その9)197週目


 今回は前回述べたように「協同探索」を実施するに当たってセラピストが知っておくべき技術の解説だ。特に今回は「課題設定の技術」を紹介する。


 患者さんにとっては傷害によって身体の一部を失ったり、麻痺などで筋力や柔軟性などの運動リソースが失われる。その結果、身体を動かせなくなり、よく見知っていた体が未知のものとなり、それまで使えていた生活課題達成のための運動スキルが失われた状態である。


 患者さん自身が変化した体のことを知るためには、様々な状況で様々に体を使ってみる経験が必要だ。そして何ができて、何ができないかを徹底的に知ることが必要だ。


 しかし安全に適切に、そして徹底的に体を動かすためには、適切な状況と運動課題設定と実施に当たっての適切な助けが必要だ。これがセラピストにとっての「課題設定の技術」となる。


 適切な課題を設定し、その課題達成の過程を通して患者さんは「利用可能な運動リソースを発見し、その利用方法である運動スキルを発見・創出する」わけだ。課題実施の過程で運動リソースは豊富になり、運動スキルは多彩になって生活課題達成力が改善する。


 アメリカでもこれは「課題主導型アプローチ」として知られているが、CAMRとはかなり基本的枠組みに異なった部分がある。詳細は近日中に発刊の「リハビリのシステム論」で説明する予定である。


 具体的に課題設定は患者さんの状態を見ながら以下のような点に留意する必要がある。


①課題は患者さんに取って必要で、馴染みのある動きから入っていく。通常最初は基本動作と言われる、寝返り、起座、座位保持、座位での移動、起立、立位保持、歩行などを基準に考えていく。できるようになれば応用歩行や具体的な生活課題動作を基準に考える。


②設定は患者さんが少し努力したり工夫したりして達成できるものが良い。たとえば「独りで起立」という課題を設定してできないときは、セラピストが柔軟性・筋力などの身体リソースを改善したり、手すりや壁、椅子、座面の高さ、励ましなどの環境リソースの操作を行う。そのような運動リソースの操作で、独りでできる程度の課題であればまず適切な課題と考える。


 それで起立できないときにセラピストの介助が必要なら、課題を「セラピストと一緒に立つ」と変更して示す。もし繰り返して介助量が減って手すりや椅子などの利用でできそうなら、また「独りで何とか工夫して起立する」という風に課題設定を修正する。修正した内容は必ず患者さんにも伝える。


③大抵の基本動作は、支持の働き、重心移動の働き、振り出しの働きの組み合わせとして理解することができる。つまりこの視点から患者さんが環境リソースをどのように利用しているかで、患者さんがどの働きが弱いかを知ることができる。


 たとえば杖歩行で、患側下肢と同時に杖に体重をかけているようなら杖には重心保持と同時に支持の価値を見いだしている。すなわち患側下肢の支持に不安を持っている。軽く持って患側下肢と同時に突いているようなら重心保持の助けの働きを主に杖に求めている。バランスに不安があるのかもしれない。杖をたいして使っていないなら、安心のために持っている、などがわかる。


 つまり運動システムが自らの弱点を表現していることにもなる。


④患者さんに運動課題をわかりやすい言葉で説明することで、自分が課題達成に成功しているかどうかを患者さん自身にも判断していただくことができる。またこれはコンプリメントなどの「足場作りの技術」で達成感・成功感を強めることができる。(「足場作りの技術」については拙書「リハビリのコミュ力」を参考にしてください)


 課題の繰り返しの成功は達成感と意欲を高め、結果的に自信を持って行動できるようになる。


⑤基本動作がうまくできるようになると、必要な生活課題の達成スキルに向けてより具体的な生活課題を設定していく。同じ課題でも環境を変えることで運動リソースの交換を患者さんに促すことになる。また状況を変えることで、新しい運動スキルの創出、あるいは応用を促すことになる。


 さて今回はかなり駆け足になってしまったが、次回はまだ説明していない「情報リソース」について簡単に説明して、このシリーズを終えたいと思う。(その10に続く)


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


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西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」


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