運動リソースとリハビリ(その8)196週目

目安時間:約 7分

運動リソースとリハビリ(その8)196週目


 さて今回は患者さんとセラピストの「協同探索」について、片麻痺患者さんの「分回し歩行」スキルを獲得するまでの過程について具体的に述べてみたい。以下の通り。


①障害直後、身体は半身の麻痺によって患者さんにとって未知の身体になってしまう。「自分の体がどこかへ行ってしまった」「この体は自分のものではない。他人のもののようだ」などと表現される。


②ベッド上で少しずつ自分の体を動かすことによって、利用可能な身体リソースが再び発見されるようになる。しかし、麻痺側半身はまだ多くが失われたままだ。寝返りも起座も残された身体リソースではどう動いて良いかわからない。


③変化した体のことを知るためにはより多様に、より多量に動いて見るしかないのだが自分一人では動けない。患者さん一人ではできることも少ない。まだまだ他人の体である。


④そこへセラピストが現れる。少し頑張ればできそうな運動課題を設定する。たとえば「介助で寝返り」だ。最初は体が重く自分の思い通りには動かないし、動かされて動く感じだ。しかし何度も繰り返すと体がその介助に反応して適切な反応を生み出し始める。力が入る部分も増えて、コツも分かってくる。そこで反応を見たセラピストが徐々に介助量を減らし、他の部位からの介助など変化をつけて行う。うまくできるようになればセラピストが課題を「独りで寝返る」に課題を設定しなおす。


 しかし最初の重心移動と指示部位の移動も難しいので、セラピストが体幹の健側下にクッションを入れて患側への重心移動が起きやすくすると、何度かの繰り返しで独りで寝返りもできるようになる。セラピストは「わぁー、できちゃったですね」とコンプリメントを入れる。(コンプリメントは拙書「リハビリのコミュ力」を参照してください)


⑤独りで動くようになると活動量や活動の多様性も増え、課題の成功も増えて少しずつ失われた半身の状態もわかってくる。(意識的にわからなくても運動システムは理解していく)


 寝返り、座位保持、起座、起立、立位保持、歩行へと次第に課題は複雑に困難になっていく。つまりより重力と床面の間で重力の影響を受けやすく、基底面も小さくなって重心保持や移動が難しくなっていくわけだ。


⑤その過程の中で利用可能な様々な身体リソースや環境リソースが爆発的に豊富になってくる。潜在的に持っているものが使われることによって、その価値がわかってくるからだ。変化した体と環境との関係も少しずつわかってくる。


 そして麻痺によって失われた半身が部分的ではあるが、新たに自分の体になってくる。また課題達成のための利用方法である運動スキルが発見され、試され、上手くいくものが熟練して、上手くいかないものは消えていく。そうして生活課題達成力が改善していくわけだ。


⑥立位になると患側下肢は最初体重を支えることができない。弛緩状態のため、可動性のある骨格が水の袋に入っているようなものだからだ。そのため患者さんは最初に患側下肢で体重支持することを不安に思い、「患肢の不使用」という問題解決をとることが多い。しかし患側下肢への体重移動と支持をセラピストが手伝い、繰り返し体重支持を行ううちに支持性が生まれてくる。(このメカニズムの仮説は、「通常の筋収縮と言うよりは単純に張力の発生メカニズム」です。拙書「リハビリのコミュ力」か「脳卒中あるある!」を参照ください)


⑦患側下肢は支持性が出てくるが、一方で歩行のために振り出そうとしても麻痺のため動かない。


 セラピストは体幹のストレッチで柔軟性を改善する。体幹での重心移動範囲を広げるためだ。また患側の靴先に靴下の先を切った袋をかぶせる。これによってわずかの力でも、脚が滑り出すようになる。


 そしてセラピストは「悪い脚を全身で振り出す」という課題を出す。患者さんはいろいろ試みるうちに健側下肢に重心を移動して、体幹を伸展や側屈、回旋して患側下肢を振り出せることを発見する。こうして自律的な運動問題解決者である患者さんは、新しい「分回し」という歩行スキルを創造した。


⑦患者さんは更に「分回し歩行」の運動スキルを繰り返し、熟練していく。


 さて、患者さん一人では莫大に時間とエネルギーを必要とするこの過程を、効率よく進めるようにセラピストは手助けすることができるわけだ。


 ここでも適切な課題設定と環境リソースの工夫で、新しい歩行スキルである「分回し」の創出を手際よく促した。次回はこのようなセラピストの技術について少し詳しく説明しておきたい。(その9に続く)


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西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


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