体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その2
前回、テーレンらは「脳の成熟に伴って原始歩行が消失する」という従来からの要素還元論あるいは単純な因果関係の説明には不満であったと述べた。そして動的システム論の視点からの説明を試みたのである。
動的システム論にしろ、古典的なシステム論にしろ、その主張の最も基本の枠組みは「世の中のさまざまな現象は、それに関係する様々な要素感の相互作用によって生まれ、変化したり、安定したりする」ということである。
つまり原始歩行と呼ばれる運動も様々な要素間の相互作用によって生まれて、その状態を変化させているのではないか、と考えるわけだ。
たとえば原始歩行の消失した赤ちゃんをお湯につけると原始歩行が再び観察されることはよく知られていた。
テーレンらはこれを基に、重力や下肢重量、筋力などのいくつかの要素が影響し合っているのではないかというシステム論の視点に沿って、以下のような検証を進める。
・原始歩行消失の時期には下肢の脂肪量が増加し、下肢全体の重量が増加している。これによって下肢筋力が相対的に弱ったことになり、重力に逆らって下肢を持ち上げられなくなり、消失するのではないか。だからお湯につけると浮力によって再び下肢運動が可能になるのではないか
・原始歩行がみられる新生児の時期からトレッドミル上で歩行運動を継続すると原始歩行は消失しない。つまり筋トレをして筋力を改善・維持すれば原始歩行は消失しないと考えられる
・左右のベルトの速度が異なるトレッドミル上に原始歩行のみられる新生児を乗せる。すると新生児といえども練習なくそれらの課題にうまく適応して柔軟に歩行の動きを生み出すことができた。たとえば早いベルトの上に置いた脚はゆっくり、遅いベルトの上に置いた脚は速く動かして、両方のベルトの中間速度で乱れることなく交互に脚を運ぶことができた。
つまり新生児に対して「反射」と呼ぶのは失礼なくらい、周りの状況変化に対応して協調した動きを生み出すことができたのである。「原始歩行」という名前は「新生児はより原始的存在である」という誤解あるいは偏見によるものである。
これらから示唆されることは、従来仮定されていたように、「原始歩行の消失は、脳の成熟(髄鞘化)によって抑制される」ではないということだ。
そして原始歩行と呼ばれる歩行は、実は最初から協調され、状況に応じて適応的に変化する成人の歩行の特徴を備えているということ。まあ、簡単に言えば、新生児の原始歩行は、その後にみられる成人の歩行と同じ、連続しているものと言えるわけだ。
まあ、これだけ見てもわかると思うが、要素還元論での因果関係の見方は単純で理解しやすい。しかし、まるで人の体をロボットの様に仮定しているので、とても単純な説明をしてしまう。実際、「お湯につけると再び出現する」といった現象をうまく説明できないし、偏見による誤解を生んでしまうのかもしれない。
一方、「様々な要素感の相互作用」というシステム論の視点から見直してみると、上述のように丸っきり異なった説明が生まれてくる。まあ、その分、説明にたくさんの手間がかかるのだが。
さて、くどいようだがもう一度まとめておこう。
新生児にみられる歩行はその後の歩行と連続していて、状況変化に応じて協調された動きを生み出せる。つまり新生時期からの歩行のパターンは重力や下肢重量、筋力、学習経験などの様々な要素間の相互作用によって、その現れる状態が様々に変化するのである・・・あっ、やややっ、またウォーキングや体重変化の話から逸れたままではないかっ!・・・申し訳ない、次回は戻りますから(^^;))(その3に続く)
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