脳性運動障害の理解を見直す(その4)

目安時間:約 6分

脳性運動障害の理解を見直す(その4)

 さて前回までで脳性運動障害後に見られる陽性徴候あるいは過緊張による硬さは脳性運動障害後の主症状である弛緩状態から動き出すための問題解決であると述べてきた。

 この弛緩状態から動き出すために弛緩状態の部位を硬くするわけで、メカニズムとしては原始反射の出現や伸張反射の亢進、キャッチ収縮などが仮説としてあげられる。この体を硬くする問題解決は「外骨格系問題解決」とCAMRでは呼ばれる。

 たとえば弛緩した上肢は水の入った袋として体幹からぶら下がり重心を患側へ引っ張って体を患側へ倒そうとするだろう。上肢はブラブラと揺れてバランスを崩す基にもなる。しかしこの問題解決によって上肢を硬くして一つの塊にして体幹に近づけると健側の半身中心にバランスをとりやすくなる。下肢も伸展位で硬くすることで体重支持して歩行を可能にする訳だ。

 外骨格系問題解決は弛緩部分を硬くして支持や動くことを可能にするのでちゃんと問題解決になっている。

 ただしこの硬くなる作動は意味があるだけに、繰り返しがちになる。つまり硬さが強まってくる。次第に関節は硬くなり、動くことに対する抵抗になってくる。動きが遅くなり、可動域も小さくなってくる。動くことが次第に重労働になり、ちょっとした運動でも発汗や発熱を伴ったりする。

 更に硬くなってくると血流が悪くなって不快感や痛みや苦痛を生み出すようになる。更に硬くなると関節自体が動かなくなってしまう。

 つまり元々は動くための問題解決の作動であったが、過剰に繰り返されることによって苦痛や不快感を生み出し、さらには動けなくなってしまう。問題解決の作動が実は新たな問題を生み出してしまう。このような問題解決が新たな問題を生み出すことをCAMRでは「偽解決状態」と呼ぶ。

 重度の脳性運動障害の方を見ると、硬さによって苦痛が見られたり全く動けなくなったりするので、それが元々「動くための問題解決の作動」であったとは想像もつかないだろう。

 僕自身昔も最初は硬くなることが問題解決だとは思わなかった。しかしある日上田法という徒手的療法に出会う。

 上田法を軽度~中等度の脳性麻痺の子どもたちに実施すると、柔軟性が改善して運動範囲が広がる。たとえば尖足で歩いていた子どもが足底をピッタリ着けて歩くようになったり、歩隔が広くなって基底面が広くなり、バランスよく歩くようになったりする。

 約35年前、その当時は全国脳性麻痺学会に出ても、多くの人が「過緊張こそが正常運動の出現を邪魔しているのだ」などと言っていたので僕もそんな風に思ったものだ。

 しかし一方で、中等度~重度の脳性麻痺の子どもたちに実施すると、何とか歩いていた子どもの下肢の緊張が失われて歩けなくなったりする。寝返りしていた子どもの寝返りが難しくなったりもする。つまり過緊張が低下することでむしろ「弛緩状態」が鮮明になって動けなくなってしまう。

 それで「過緊張とは何なのか?」という疑問が強まった。

 CAMRの「外骨格系問題解決」の説明はシステム論を基に上田法で経験したこのような現象を上手く説明するために生まれたわけだ。

 運動システムは弛緩状態から動き出すために、弛緩部分を硬くするという問題解決の作動である。それによって筋の硬さが増すと支持が生まれる。ほとんど弛緩状態から支持性と運動性とのバランスがうまくとれるようになる。しかしこの硬くなる作動はひたすら繰り返す傾向があるためにやがて必要以上に硬くなってしまう。そしてかえって硬さ(支持性)が優位になって運動性が低下してしまう。これが偽解決状態になる。

 上田法ではこの硬さの偽解決状態を改善するので、軽度~中等度の麻痺では元々利用可能な隠れた筋力があり、柔軟性が改善することで運動性が改善してくる。一方で重度の方の一部では、この硬さを支持性として動くために利用し、上田法後はむしろ弛緩状態が露わになって運動性が低下するのである。一方で最重度弛緩麻痺の方では硬さを高めて支持性を上げても元々運動性が低いので硬さと無動だけが際だってしまう。

 外骨格系問題解決は、元々弛緩状態を硬くするための問題解決である。弱い筋活動を補うための問題解決であるとも言えるだろう。だから最重度の方は元々利用できる筋力がないので、ただ繰り返してしまうし、ただ硬くなってしまう。

 元々利用できる筋力が隠れていれば、使うことで少しでも筋活動が強められ、外骨格系問題解決への依存も小さくなる。だから軽度~中度麻痺の患者さんで、上田法で過緊張が改善した後に筋トレを含む様々な運動課題を行うと過剰な外骨格系問題解決への依存が見られなくなり、適度な支持性と運動性のバランスがとれてくるようになる。

 一方で重度麻痺の方では、上田法で硬さを改善しても元の筋活動がほとんどあるいはごく僅かしか見られないため、再び硬さを増して過緊張状態になりやすい。だが過緊張状態は不快や痛みの原因になるので、生活の質を改善するためにも上田法は定期的に実施した方が良いだろう。

 さて、このような説明はどうだろうか?硬さを症状とみて受け入れていれば何も感じないかもしれないが、上田法のような徒手的療法で硬さを変化させて、状態が色々に変わってくるので初めて理解できる現象ではなかろうか?(その5に続く)

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