生活課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その2)

目安時間:約 5分

生活課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その2)

 前回は、1人1人の運動システムは異なった個性の運動リソース群で構成されているので、それぞれの個性に合った運動スキルを生み出して発達させることが必要だろうといったことを述べました。そして課題を達成するのは、運動リソースである筋力や柔軟性などではなく、それらの運動リソース群を利用して課題達成するための「運動スキル」であるということも述べました。

 CAMRでは運動スキル学習を効率的に進めるための手順を大まかに定めています。このシリーズの目的はそれを紹介することです。しかしその前にまずはその運動スキルを様々な視点からもう少し理解してみます。そうしないと簡単に誤解してしまう恐れがあるし、逆に理解すると自然にそれを改善する方法が導かれるからです。

 まず運動スキルの話をすると「それは運動プログラムである」と単純に勘違いされる方がいます。運動プログラムは課題達成のやり方を学習してそれを再現すると考えられることが多いです。憶えた方法や形を再現するわけです。だから憶えていない、練習していない課題は達成できないわけです。

 最近のコンピュータのAIは、様々な課題とその解決方法をたくさん学習して、より適切な解決方法を選び出すようになっています。その進歩は驚くほどですが、やはり問題解決や課題達成するまでにはたくさんの学習が必要です。現在は特定の分野で様々な事例をたくさん学習することでやっと特定分野での課題達成が可能になっています。

 一方運動スキルはむしろ、その場で利用可能な運動リソースを見つけて、必要な課題達成のためにそれらの利用方法を生み出します。初めて出会った課題でも、なんとか利用可能な運動リソースを見つけて、それを利用して課題達成のための方法として生み出されるのが運動スキルです。

 たとえば片麻痺患者さんが障害後に初めて歩きだすときの様子を観察すると、身体の内外に利用可能な運動リソースを探索します。それらを試行錯誤して分回しや引きずりや伸び上がり、そしてそれらを複合した様々な自分にあった運動スキルを「誰に教わるでもなく」生み出されます。

 特にたくさんの他の患者さんの運動スキルを学習する必要もありません。一つ一つ自分で見つけだしていきます。もちろんその背景には、小さな頃から様々な運動問題を解決し、たくさんの運動課題を達成してきたという経験がものを言いますし、運動以外にも日常生活での様々な経験が影響します。身体リソースや環境リソースが持ち、それらが生み出す意味や価値を知っているから、色々な新しい運動スキルを生み出せるわけです。

 たとえば杖は歩行の支持やバランスの助けにも使えますが、ものを叩いて音を出し通信手段にしたり、ものをたぐり寄せたり、あるいは立ち上がりの道具になったり、武器になったりもします。小さい頃から学んだ身体やものの意味や価値が更に新しく複雑な意味や価値を生み出すのです。

 あまりに一般的な運動に関する経験やそれ以外の経験が、意味や価値の視点から結びついて、新しい意味や価値を生み出します。

 これは特定の問題解決の学習はしなくとも、一般的な様々な学習から導かれるような雑多な経験を基に特定の未知の分野の問題解決を導き出すようなものです。まさしく人が生きてきた様々な経験全てが活かされてくるのです。

 まだ実現されていない汎用型のAIの能力、あるいはそれ以上のものなのかも知れませんね。

 次回はもう少し運動スキルについての理解を進めておきます。その後にどのように効率的に運動スキル学習をするかの道筋が見えてくるはずです。(その3に続く)

※No+eに毎週木曜日は、別のエッセイを投稿中!https://note.com/camr_reha

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