生活課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その1)

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生活課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その1)

 臨床では筋力改善が重要視されがちです。リハビリでも「筋力強化が大事。これさえ鍛えておけば大丈夫!」というセラピストも多くいます。本当にそうでしょうか?

 たとえば一昔前、多くの高校野球の選手がこぞって筋力強化に励んだことがあります。そうすると長打も増えて、得点力もアップ・・・とはいきませんでした。力が増えたから、打撃という課題の達成力がアップするわけではないのです。

 実は日本ではあまり注目されていませんが、課題の達成力というのは、運動スキルによって決まってくるのです。

 では「運動スキルとは何か?」ということになります。

 CAMRでは以下のように定義されています。「運動スキルとは課題達成のための運動リソースの利用方法である」

 運動リソースとは、運動に使われる資源のことです。これには身体そのものや身体の持つ性質である筋力、柔軟性、持久力、知覚情報、痛みなどの感覚などの身体リソースがあります。また身体以外に運動に利用できる環境内の性質である明るさ、温度、重力、風などや環境内に存在する大地や海などの水塊、人工的な構造物、道具、動物や他人などの環境リソースがあります。

 筋力は課題達成に利用される資源の一つです。資源なのでそのままではいくら鍛えても利用できないわけです。ちょうど鉄鉱石のようなものです。それだけではあまり役に立ちません。まず鉄へと精錬される必要があります。その上で様々に加工されて初めてそれぞれの用途で利用可能になりますね。

 そして筋力や柔軟性などの資源も同じで、「鉄で精錬される」に当たるのが移動などの基本動作になります。寝返りしたり、座ったり、這ったり、立ったり、歩いたりの基本的な運動です。これらの動作によって筋力は様々な使い方へと利用されます。

 体の一部で支えながら他の部分を動かしたりします。足を動かしている間にその他の部分が背景運動で全体の動きに安定性を生んだりします。様々な方向に重心移動したり、重心移動しながらバランスを保ち、支持したりのやり方を学ぶわけです。

 もちろんこれは筋力という身体リソースだけでなく柔軟性や知覚や持久力などの様々な身体リソースが、それぞれ相互作用し、影響し合いながら基本的な運動スキルが生み出されます。

 そしてこれらの基本的な移動動作を基に、様々な生活課題へと運動スキルは発達していきます。あるいはスポーツ選手のようなより高度な運動スキルを発達させていくのです。

 1人1人の運動システムは運動リソースの構成比などか違っていて個性的です。だから個人個人に特有の傾向の運動スキルが生まれてきます。

 柔軟性に優れた赤ちゃんは、寝返りなどで滑らかに動くことによってあまり力に頼ることなくそれを達成できますし、力の強い赤ちゃんは重力に逆らって手脚などを振り上げ、振り出しては豪快に寝返りしますね。

 これが将来の様々な課題達成のための個性的な運動スキルへと発達します。野球のイチローさんややり投げの北口榛花さんは、柔軟でしなりのある動きが特徴です。イチローさんはメジャーリーグの選手と比べて痩せた体でもホームランを打ったりレーザービームと言われる送球をしたりします。北口榛花さんもしなやかな動きでやりを遠くに投げます。多くの外国選手が力で勝負してくるのと対照的です。

 どちらが良いというわけではなく、必ずしも課題達成のために力を強くする必要はないのです。もちろん筋力が強く、多彩な筋活動が行われている方がより多彩で優れた運動スキルを発達させる可能性も高いですね。でも障害によっては筋力強化の効果が得られにくいものもあります。

 だから残った運動リソースの特徴を活かしながら、個性に合った運動スキルを生み出して発達させることが必要なのです。

 でも「そんな難しいことを言われても・・・」となっちゃいますよね。そこでCAMRでは誰でも上手く運動スキルを生み出すことを援助できるように手順を考えています。

 次回からその手順について説明します。(その2に続く)

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