運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す(その6)-生活課題達成力の改善について

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運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す(その6)

-生活課題達成力の改善について

 今回は動作課題についてです。

 動作課題は「寝返る、起き上がる、座る、立ち上がる、歩くなど」の基本動作運動を中心とした運動課題です。動作課題は繰り返したり、負荷をかけたりすることで身体リソースを改善するし、動作課題を少しずつ変化させることで運動認知を改善したり、達成方法を試行錯誤することで基本的な運動スキル学習にもなります。

 具体的な例を挙げて考えてみましょう。

 立位で健側下肢中心に立つ片麻痺患者さんがいます。実際には患側下肢にも支持性が出ているので患側下肢をもっと自由に使えれば、歩行のパフォーマンスはもっと改善するはずです。

 そうすると患側下肢の使用量と使い方の多様さを増すような動作課題を考えることになります。

 たとえば平行棒のそばに幅30センチ、長さ60センチ、厚さ4センチの板を置き、その上に立ってもらいます。健側上肢で平行棒を掴みます。(イラスト1を参照してください)

 そして健側下肢を前に振り出して荷重し、今度は後ろに振り出して荷重します。(イラスト2)これを繰り返すと患側下肢は、「前後に重心移動しながら体を支える」という運動スキルを発達させることになります。

 次に健側下肢側方へ振り出して荷重しては元に戻します。(イラスト3)今度は患側下肢に重心移動し、その後健側へ重心移動しながら支える練習を繰り返すことになります。

 それぞれに安定してくると、健側下肢を前に振り出して戻したら、今度は側方へ振り出して戻し、更に後方へ振り出して戻すなどと3方向へ重心移動しながらの支持を自在に行うスキルを発達させます。

 これらは全身を使った運動スキルの一例で、特に健側上肢が支持とバランスに大きな役割を果たしています。もっと下肢中心の運動スキルを発達させたいですね。

 そうするとこれらの運動が安定したところで、健側上肢は平行棒の代わりにパイプ椅子の背もたれを持つように課題実施の条件を変化させます。それができるようならT字杖で同じ課題を行うようにします。上肢の役割を減らすわけです。もし可能なら杖なしまで進みます。

 これらができるようなら今度は背中に重りを背負います。また水を半分入れた2ℓのペットボトルを背負ったりします。背中で水が移動するので外乱要素になります。

 このように課題の質を変化させたり、重りを増やしたりすることで負荷が増えて、身体リソースが改善するし、それらの難しい多様な課題を達成することで運動認知が適切化します。更に患側下肢は体重支持しながら様々な方向に安定して重心移動ができるようになるという運動スキルを発達させることになります。

 患者さんとしては、運動認知が適切になり(「この脚は案外使えるよ」)、麻痺側下肢に体重を乗せることに恐怖や不安を感じなくなって自然に患側下肢を使うようになるわけです。

 動作課題は、基本動作を中心に行いますが、日常生活で達成するべき様々な生活課題の基本となる協応構造を多数生み出して様々な運動・行為の基礎となるものです。

 考え方としては一つの運動課題を変化させながら繰り返します。CAMRでは「実りある繰り返し課題」と呼びます。単に同じ課題を同じ実施条件で繰り返すのではなく、少しずつ課題も実施条件も難しく変化させます。できれば少しずつ達成可能な範囲で難しくしていきますし、できなければ何とかできるように課題や実施条件を少しずつ工夫して行きます。

 こうして、身体リソースを改善し、運動認知を適切化します。また利用可能な基本的な協応構造をできるだけたくさん獲得し、運動スキルをより柔軟に適応的に生み出せるようにして、次の段階である日常生活課題などの達成力改善の基礎となるわけです。

 そういった意味で、動作課題は訓練室レベルで、身体リソースと基本的な運動スキルの両方を改善するための中心的な課題となります。セラピストにとっても変化を見極め、適切に課題を工夫・提案することが求められます。 次回は「行為課題」について説明します。(その7に続く)

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