運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す(その7)-生活課題達成力の改善について

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運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す(その7)

-生活課題達成力の改善について

 ここまでで「要素課題」はセラピストの改善可能な身体リソースを改善したり、将来に向けて利用可能な環境リソースについて考えたりします。ベッドサイドあるいは訓練室レベルでおこないます。

 「動作課題」は、様々な動きの基本となる協応構造を豊富に身につけたり、運動認知を適切にしたりして基本的な運動スキルを柔軟に、適切に生み出せる基礎を作ります。これまた簡単なものはベッドサイドでも行いますが、主に訓練室レベルで行う課題です。

 要素課題と動作課題は訓練時間内に並行して行うことが多いと思います。今回は「行為課題」について説明します。

 「行為課題」は従来訓練室で行っている「ADL訓練」にあたります。

 病院内の訓練は最終的な仕上げ段階に入ります。退院に向けて患者さんにとって必要で、達成可能な生活課題の達成力改善が一つの大きな目標になります。

 たとえば「居室からトイレに行って帰る」とか「ポータブルトイレが自立する」とか「服を着替える」とか「居室から台所まで歩いてくる」とかそんな具体的な生活課題の達成が目標になります。

 当然家族との話し合いも重要です。家族の希望通りにいかないことは多々あります。そんな時でも「○○はお一人では危険です(できません)が、××することで○○をできるようになります」とできるだけ希望に近づけるような達成可能な代替案を出すようにします。このようにできること、できないことを明確にして、家族や本人の希望する課題を修正する能力を身につけることもセラピストには重要です。

 「行為課題」の基礎となるのは「どれだけ豊富な身体能力を持っていて、たくさんの多様な基本動作を通じて、より多くの協応構造と基礎的な身体スキルと適切な運動認知を持っているか」と「課題達成のための利用可能な環境リソースをどれだけ工夫できるか」ということです。

 「環境リソースをどれだけ工夫できるか」となると作業療法士が得意と考えられがちです。実際にはPT・OTに関わりなく、1人1人のセンスや経験で得意・不得意が決まるようです。より広い視野と思い切った発想が必要とされることも多く、できればチーム内で共有して複数の視点で取り組めると良い結果がうまれやすいです。

 トイレの介助方法などは、訓練室や施設内の設備を利用して練習することもできますが、できれば実際に生活する家屋で、利用可能な環境リソースを発見したり、課題達成のための工夫をしたりすることも重要です。

 また患者さん自身が色々な運動スキルを発見することも多いものです。僕の親父が片麻痺後退院して家に帰りました。うちの家は親父の居室から食堂に行く廊下には障子の引き戸が並んでいます。「手すりが付けられないね」と僕が言っているそばから、障子に手を差し込んでバリッと紙を破ると、障子の桟を持って自分で障子戸を押しながら「他の戸をどけい(どけて)」と言ったものです。つまり障子戸を移動用の手すりにその場で変えてしまいました。

 元々父は患足下肢の支持性はしっかりしていて、むしろ軽度の基礎定位障害によるバランスの問題があったので、細い華奢(きゃしゃ)な障子の桟でもバランス保持には十分役立ったわけです。もちろん心配なので後から僕が補強の棒を取り付けることでより丈夫な移動用手すりにしました。

 ともかく父の発想には舌を巻いたものです。元々子どもの時から、僕が何か作業に困っていると、「こうしたらどうか?」とやり方を工夫してくれた親父です。まあ、その度に自分の頭を指さして「ここを使え、ここを!」とするのには腹が立ちました。その時も自分の頭を指さしてニヤリとしました(^^;)

 やはり少し腹が立ちましたが、それ以来患者さんには「利用可能なもの」を自分で探して工夫する訓練もするようになりました。軽い失調症の女性はいつもピックアップを使って屋内移動します。でも料理やお茶を流しからテーブルに運ぶのに困っておられました。

 一緒にいろいろなものを試して試行錯誤してもらいながら、最終的にはご自分で食堂の椅子の脚に布製の袋を巻いて滑りを良くし、座面に台を置いて高くしてその上に皿やコップを置いて背もたれを持ち、そっと押しながら運ぶ方法を考案されました。「滑らせる簡易ワゴン兼歩行器」ですね。

 もちろん僕は経験的に早くからその方法を思いつきましたが、敢えて言わないでご本人に考えてもらったわけです。上手くいったときにはコンプリメント(褒める、労う)をします。この時もとても喜ばれました。

 障害後の患者さんは自信をなくし、家族に依存的に暮らすことも多いと思います。だからセラピストが何もかも判断し、実施するのではなく、色々な経験を通して患者さん自身の問題解決能力と自信を改善することも大事なことだと思います。その女性はそれ以来、色々なことを自分で工夫されるようになって明るくなったとのことです。

 次回は今シリーズのまとめです。(その8に続く)

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