セラピストは失敗から学んでいるか?失敗と認知されない失敗(その8)(第177週目)
さて臨床で患者さんの感想や自分の見たい現象ばかり見るような主観的な評価に頼っていると臨床での判断能力が発達しないだろう、そもそも自分の訓練に効果があるかどうかを考える必要を感じていないかもしれない。だから客観的な評価を習慣的に行う必要がある。
しかし要素レベルの評価は効果判定には使えない。行為レベルの評価は環境を一定にすれば効果判定に有効である。そしてもう一つ、動作レベルの評価の検討が今回の話である。
先に述べたように病院内のリハビリとは、限られた環境内でおこなわれる運動リソースの豊富化と運動スキルの多彩化である。そして僕達が目標とする生活課題の達成力の改善は、単純に運動リソース(筋力、柔軟性、身体・環境の情報量、体力など)が増えることとは単純に相関しない。生活課題達成力の改善と相関するのはむしろ運動スキルの多彩化である。とは言え、運動スキルの多彩化は、運動リソースの豊富化なしに達成できないので、運動リソースの豊富化と運動スキルの多彩化は共に必要なことである。
一方、運動スキルの多彩化を実現するには、多彩な環境、多彩な状況での課題実施が必要となる。病院内の貧弱な環境を思えば、そこにはセラピストなりの様々な工夫が必要ではある。
話が評価から少しズレたが、動作レベルの評価は直接動作のパフォーマンスを表す評価だ。代表的なものに10メートル歩行検査がある。10メートルを歩く時の歩数、秒数を測るだけで、速度、平均歩幅、歩行率、歩行比などで歩行パフォーマンスの変化を追うことができる。他に10秒間で何回起立できるかとかTugなどもそうだろう。いずれにしても動作レベルのパフォーマンスを客観的数値で表すことができる。
他に長距離歩行で、歩行距離と時間でパフォーマンスを表せたり、左右への寝返り時間、臥位から起座までの起き上がり時間なども行ったりするが、あまり標準化されていないのが残念だ。これらの歩行、起立、起座、寝返りなどの動作を達成する時間は、結局特定の環境内での特定の動作課題での全身の筋力、柔軟性、体力、身体・環境情報などの運動リソースとそれらの運動リソースをどのように課題達成のために使うかという運動スキルの総合力の変化、つまりパフォーマンスの変化を見ることになる。
つまり動作レベルの評価は、明らかにリハビリの訓練効果をダイレクトに表していると考えて良いだろう。日々定期的にこれらの動作レベルの評価を用いることで患者さんに対する訓練効果を客観的に評価できるので、変化がなければ自分の訓練内容を見直すきっかけになるだろう。
ただ残念なのは、現在は動作レベルの評価において客観的な数値データで表すものはとても少ない。標準化されたものは更に少ない。セラピスト各自がそれぞれの患者さんに応じて工夫していく必要があるだろうし、標準化のためにたくさんの研究がこれからも必要だろう。
また評価についてはまだ考慮するべき点が多い。たとえば「一時的な運動変化と持続的な運動変化」といった問題も検討しなければならないが、今回のテーマからは外れてしまうのでまた次の機会に検討したい。
次回は最終回、今回のエッセイのまとめである。(その9 最終回へ続く)
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