「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その4)
あまり明確でもなかったが、前回までで述べてきたのは機械はやり方が決まっていて、結果もそれに対応している。しかし人では「状況に応じて課題を達成するために相応しい方法をその時、その場で無限に生み出す」ことが機械と異なる人の運動システムの作動上の特徴である、と説明してきたつもりである。
これを実現するために、人の運動システムはどんな構造をしているのかをもう少し考えてみたい。
CAMRでは、この構造は「豊富な運動リソースを利用して、多彩で柔軟で創造的な運動スキルを生み出すことのできる構造」と考えている。抽象的な説明で申し訳ないが、説明できない構造は、やはり作動の特徴でしか説明することができない。
運動リソースとは、運動を生み出すために使われる資源のことで、以下の3つに分類される。
①身体リソース:身体そのものや身体の持つ性質(筋力、柔軟性、体力、感覚、痛みなど)
②環境リソース:環境内にある性質(光、明るさ、温度、重力など)や構造、構築物、道具や他人や動物など
③情報リソース:身体リソースと環境リソースが関わるときにその相互作用から生まれる情報。情報リソースは行為者に取っての価値の情報 また運動スキルとは、行為者にとって必要な課題達成のための運動リソースの利用方法のことだ。
健常者では身体リソースが豊富で、その結果非常にたくさんの環境リソースを利用できる。また情報リソースも豊富なため、それらを利用して生まれる運動スキルは、多彩で柔軟で適応的に変化しながら、創造的にその時・その場で生み出されてくる。
逆に障害を持つということは、身体の一部を失う、麻痺で筋力が弱る・失う、柔軟性が低下する、感覚器の障害などで適切な情報を得られなくなるなどで、身体リソースが減少・喪失することである。そうすると利用できる環境リソースや適切な情報リソースが減少し、その結果、多彩で柔軟、創造的な運動スキルを生み出すことができなくなり、必要な生活課題を達成できなくなるということだ。
一例を挙げると、室内では何とか杖歩行できるが、屋外では危なくて歩けなくなったり、固定の手すりがあれば起立できるが、車椅子からは起立できなくなったりするなどは、身体リソースの減少で、環境リソースを上手く利用できなくなり、適応的に生み出される運動スキルが少なくなるからである。
そう理解すれば、リハビリでおこなうべきは、利用可能な運動リソースをできるだけ増やし、それらを活用するための運動スキルを生み出す経験を積む運動スキル学習を経験することが必要だとわかってくる。
たとえば身体の一部を失えば、他の身体部位を利用して、生活課題を達成するための運動スキル学習を進めるわけだ。あるいは義足のような環境リソースを用いて、その運動スキル学習を進める。その際、他の身体部位の筋力や柔軟性、感覚の鋭さなどが改善していく、つまりそれらの運動リソースが豊富になれば、運動スキルはより多彩に柔軟に発展するだろう。そして訓練前よりは適応的に生活課題達成ができる場面が増えてくるわけだ。
機械修理の考え方では、「悪いところを探して直す」と考える。それ以外に修理の方法はないからだ。
しかし人では、「立って靴下を履く」の課題で見たように、筋力やバランスを鍛える以外にも柔軟性という身体リソースを利用してその同じ課題を達成できるし、壁などの環境リソースを利用してもその課題を達成できる。機械では各部品の役割は決まっているが、人の運動システムでは各リソースの働きやその価値は状況によって違ってくるので、「これは無駄、これは有用」と頭から決めてかかるのは危険である。
つまり増やせる運動リソースはできるだけ増やした方が良いと考えられる。運動システムがどのような状況で運動リソースにどのような役割を振るか、どのような価値を見いだすかはセラピストにはすぐにわからないことも多いからである。
次回はこの具体的な例を見ながら理解を深めてみよう。(その5に続く)
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西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(前編): 生活課題達成力の改善について」
西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(後編): 生活課題達成力の改善について」
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「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その3)
前回は機械と違って人はその時、その場の状況に応じて様々に異なった方法で同一課題を達成できるということを説明した。
今回はどうして人の運動システムはそんなに柔軟で、創造的に課題達成方法を生み出すことができるかを考えてみよう。
まず機械では、どんなに多くの部品を複雑に組み合わせても、動き方は常に一定である。機械は常に同じ作動を正確に繰り返すし、同じ結果を生み出すわけだ。方法も一つ、結果も一つということだ。
一方人では、一つの単純な動きでもばらつきが出やすい。だから職人やスポーツ選手は、常に同じ結果が出るようにもの凄い数の反復練習を行う。しかしその同一結果は、機械のように「同じ動き方」をして生み出されているのではない。
ロシアの運動生理学者のベルンシュタインは、熟練した職人のハンマーの動きが毎回少しずつ軌道をズレたり、タイミングが異なっていることを発見した。つまり毎回異なったやり方で同一の結果を生み出しているのである。毎回同じ動きを生み出しているのではなく、毎回異なった動きで同じ結果を生み出していることが人の運動システムの特徴であると気づいたわけだ。
人の体は機械と違って粘性や弾性のある膜様の筋肉で様々な方向から全体的に包まれており、関節も機械に比べてルーズな結びつきであるから、それも当然である。これは様々な方向に力を生み出し、無限の軌道を取りうる構造である。つまり無限に異なる運動を生み出す構造である。
だから簡単な動作でも毎回同じ運動を生み出すのは困難だ。そこで同じ結果を生み出すには知覚によって、最終的に同じ結果になるような予期的な運動のコントロールを身につけることが必要で、このために莫大な反復練習が必要な訳だ。
これで少し人の運動の構造というか仕組みが見えてくる。機械は一つの運動と一つの結果が対応している。しかし、人の運動システムは無限に異なる運動を生み出して、様々な結果を生み出す構造である。だから異なった状況下で、実にたくさんのやり方の中から課題を達成するのに一番都合の良い方法も生み出せる訳だ。
まあ結論から言うと、根本的には機械とは異なった構造であるし、その作動は機械の作動とは丸っきり異なっている。
もちろんこのシリーズの最初で述べたように、人の体は機械として理解してもうまく行く側面があることは間違いない。特に整形の分野では、この考え方、「悪いところを探しては治していく」という視点でうまく行くことも多い。
だがこのやり方は脳性運動障害の領域ではうまく行かないことが多い。基本脳の細胞が壊れてその機能が失われているわけだが、リハビリではどうもそれを治すことはできないようだ。日本では60年も前からこの考え方は行われているが、未だにそれがうまくいっているという科学的な報告は1つも出ていない。
脳性運動障害の領域で、この「悪いところを治す」という方向性は、リハビリではダメだが、電子工学などの分野ではうまく行くかもしれない。
最近各国で行われている経皮的に脳波を拾って、身体に埋め込まれた筋活動を刺激する装置に伝えて下肢を動かすのがそれだ。脳波で機械をコントロールして、体を動かす試みである。まあ、実際に「失われた機能は機械でカバーする」というこの発想自体が、元々人を機械として扱う枠組みから自然に生まれてくるものだろう。
ともかく科学技術の発展によって患者さんが利用可能な新しい環境リソースが生み出され、新しい波を起こしている。これには大いに期待したい。新しい環境リソースを利用するための運動スキル学習にはリハビリが必要なのは間違いないので、将来的にはこの分野のリハビリも発達するだろう。
さて、それでは現在のリハビリではどうしたら良いだろうか?それは「悪いところを探して治す」以外のアプローチを発展させて、リハビリならではの成果を生み出すことではないか。
リハビリは、人の運動システムの作動の特徴を理解しているがゆえに、独自の方法を生み出して患者さんを助けることができるのだ、という方向性を進むことである。(その4に続く)
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「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その2)
「立ったまま靴下を履いてみましょう!」というと、多くの人が片脚立ちになり、支えていない方の脚を大きく屈曲させて、両手で持った靴下を履く動作をする。
中にはバランスを崩して、すぐに履けない人もいる。そこで「どうしたら立ったまま安定して靴下を履けるようになりますか?」と聞くと、大抵のセラピストは、「下肢を鍛えたり、片脚で様々な重心移動の練習をしたり、体幹の筋力・バランスを鍛えたりするような練習をしたら良い」と答える。
学校で教えられた「身体の悪いところを探して、改善する」という視点がしっかりと身についているわけだ。確かに悪いところを見つけ出してそれを改善することで結果を出せるだろう。
この課題には、片足で立ってバランスをとりながら重心を保持する働きが必要で、下肢の支持性や体幹の柔軟性やバランス能力が劣っていると、片脚での靴下履きがうまく行かないと考え、それらを改善しようとしているわけだ。
前回これは、「機械を直す」という発想から来ているのではないかと説明した。機械を直すには、作動の様子からどこの部品のどの機能が悪いかを予想し、その部品を修理・交換すれば良いわけだ。
しかし人は機械ではない。人には人ならではのアプローチもある。たとえば「立って靴下を安定的に履く」は、「壁にすがって片脚立ちをしながら靴下を履く」ことでこの課題は達成できる。あるいは支持性が弱いなら、「片脚を少し前にして両脚で立ち、両手で靴下を持って前に出した方の足の前に持っていく。それから足のつま先を上げて靴下をかぶせ、今度は踵を浮かして靴下を引き上げる」やり方でも可能である。
「なあんだ、ずるい!片脚で立って履くのかと思うじゃないか!」と言われそうである。
しかし「立ったまま靴下を履いてみましょう」という課題である。特定のやり方を指定しているわけではない。
ロボットであれば、間違いなくプログラムされた特定のやり方で靴下を履くだろう。というより、その履き方しかできない。もしその履き方ができないなら、どこかに故障があるわけだ。だからといって、人でも特定のやり方に縛られる必要はない。
人は同じ課題でも状況に応じてやり方を変えるから。その時、その場で適切な運動スキルを生み出すことができるからだ。
更にリハビリでは、まず「生活課題の達成力を改善する」ことが大事ではないか。患者さんができるかどうかではなく、「特定のやり方をまず(正しい運動として)勧める」というのは、セラピストの価値観を押しつけるような気がして、どうもリハビリでは相応しくないように思う。
たとえば片麻痺後に分回し歩行で実用的に歩いている患者さんに、「その歩き方は正しくない。健常者のように正しく歩きましょう」というセラピストの価値観で特定のやり方という目標を押しつけるようなものではないか。
これが達成可能な目標ならまだ良いが、実際には麻痺を治すことはできないし、結果的に健常者の様に歩くこともできないので、達成不可能な目標を押しつけていることになる。
機械ではこれが正しい作動ということがはっきり決められているので、その正しい作動に戻そうとする。機械を基に考えていると、まずは人も体を治すことが基本になる。更に健常者の様に「正しい運動」をすることが目標になりやすい。正しい運動を勝手に仮定して、「(これが正しい運動だから)ただ課題が達成できてもダメ。正しい運動をしましょう」などということになってしまうのではないか。
でも人では課題達成の方法は無数に生み出される。どの運動が正しいかではなくそれぞれ異なった方法は状況に応じて選ばれるわけだ。適正な運動は状況に応じて異なるわけだから、どの方法が良いと一つに決めることはむしろナンセンスである。麻痺があれば麻痺があるなりに歩くことが当然だろう。
今回のように靴下を履く場合、筋力やバランス能力の代わりに両脚をついたまま柔軟性を用いて靴下を履いたり、壁などの環境リソースを利用して履いたりすることは、人では普通に見られる。
これはCAMRでは、「同一課題の運動リソース交換可能性」と呼ぶ人の運動システムの作動の特徴である。「立って靴下を履く」という同じ一つの課題は、状況に応じて様々な異なる運動リソースを置き換えても、その都度その利用方法である運動スキルを生み出して課題達成してしまうという性質である。
そうすると課題達成は、「原因と思われる身体リソースを改善するだけでなく、他の身体リソースを置き換えたり、環境リソースを利用したりしても可能である」と考えることができる。この視点を持つだけでも、状況に応じたより柔軟なリハビリ方針と手段を提供するための柔軟な思考を持つことができるのである。(その3に続く)
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CAMR勉強会のお知らせ(2023年9月24日)
はじめに
CAMRはカムルと呼びます。Contextual Approach for Medical Rehabilitationの頭文字の略です。和名は 医療的リハビリテーションのための状況的アプローチ。
CAMRはシステム論を基にしたリハビリのアプローチを提案しています。
リハビリの学校では「悪いところを探して治す,元に戻す」というアプローチを学んだと思います。学校では身体の構造と各器官の機能について学びます。もし歩行不安定が見られると、各構成要素(筋力、柔軟性など)を調べて悪いところを探し、それを治して元に戻そうとするわけです。
でも臨床に出ると,マヒのように悪いところを治せないとか、悪いところが特定できないなどはよくあります。そうするとこの考え方だけでは壁にぶつかってしまいます。
システム論では、構造と機能ではなく「運動システムの作動の特徴」から運動システムを理解します。そうすると学校で習ったものとはまったく異なったアプローチ、「システムの作動を改善するアプローチ」が生まれてきます。
この「システムの作動を改善する」アプローチは多くの臨床家が、経験を積むうちに自然に、部分的に身につけているアプローチではあります。経験上どうしても必要なアプローチとして臨床では大いに工夫されているものです。でも言語化されたり,体系化されたりすることがないのでセラピストの私的財産として埋もれてしまい、なかなか学ぶ機会がないのです。
CAMRはこの「システムの作動を改善する」アプローチをシステム論の視点から知識化・体系化したものです。きっと臨床では大いに役立ちます。
それに学校で習った「悪いところを探して治す」アプローチと「システムの作動を改善する」アプローチは大きく異なってはいますが、お互いのアプローチの長所と短所を補い合うような関係です。
たとえばシステムの作動を改善するCAMRのアプローチは、原因を必要としない問題解決方法を提供します。一方、「悪いところを探して治す」アプローチは、複雑な現象を単純化して公式化し、効率的に問題解決を進めることができます。
つまり両方の視点を持てば、状況に応じて問題解決方法を選択したり、組み合わせたりして臨床での問題解決力を大幅にアップすることができるのです。
この機会に是非ともCAMRの「システムの作動を改善する」アプローチも学んでみませんか?詳細は以下の通りです。
《CAMR勉強会詳細》
①開催日時:2023年9月24日(日曜日)午前10時~午後4時(昼休憩1時間)受付:9時半~10時
②開催場所:広島県立障害者リハビリテーションセンター スポーツ交流センターおりづる(アクセスは施設ホームページをご覧ください。無料バスも利用できます)
※駐車場無料。駐車場は「おりづる」そばではなく、リハセンター側の駐車場をご利用ください。「おりづる」そばの駐車場は障害のある方が利用されますのでよろしくお願いします。
③募集人員:30名(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など)
④参加費:CAMR講習会・勉強会参加が初めての方 2500円 過去にCAMR講習会・勉強会に参加した経験のある方 1200円 当日会場でお支払いください
※事前に参加申込みが必要です。 申込み締切 2023年9月17日(日曜日)
⑤申込み方法:メールにて。oyazinzin※gmail.com(※を半角の@に置き変えてください)
⑥メールの記入内容 -件名に「CAMR勉強会参加希望」本文に、氏名、職種(PT、OT、STなど)、過去のCAMR勉強会・講習会に参加経験の有無、できれば大体で良いので現職の経験年数、ライングループへの参加希望の有無をご記入ください。
⑦講義資料配付:講義資料(動画など)配付や事前の詳細説明などはライングループで行う予定です。参加希望者にはメールの返信でライン・グループのQRコードなどを送りますので、参加をお願いします。ライン・グループは勉強会後の質問や実際に訓練してみた意見・感想など、その後の学習にも利用できます。
ライン・グループへの参加を希望されない方には、別途メールで講義資料の配付などを行います。
⑧昼食準備のお願い:施設周辺には飲食店がないため、お弁当を用意されることを勧めます。食事はお部屋で。お茶は当日、2ℓペットボトルと紙コップなどを用意しておきます。
⑨質問など:上記申込先にお願いします。以上です。
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西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(前編): 生活課題達成力の改善について」
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「悪いところを見つけて治す」以外の発想(その1)
病気などになったとき、「悪いところを見つけて治す」という発想はごくありふれたものである。というより、それ以外の発想をなかなか思いつかないのではないか?
] 実はこれは「機械を直す」から来た発想かもしれない。西欧の思想の根底には、「人は神(又は自然)が作った機械である」という「人間機械論」という思想がある。だから西欧の人々は人体を機械として扱うことにあまり抵抗はないようだ。
実際に西洋医学はこの方法で大きな成功を収めた。悪いところを見つけて治し、治すことができなければ最近では「臓器移植」なども行われる。徹底的に構造を治すことを目指しているようだ。
このように人を機械として見る発想も非常に効果的なアプローチである。人を機械として見てもうまく行く側面があるのはもう間違ない。
そしてリハビリの分野でも、整形分野ではうまくいった。これでリハビリは社会的に存在価値を認められたわけだ。
そして脳性運動障害では脳の細胞が壊れるので、脳の細胞を再生したり、脳の機能を再生したりしようとした。しかしこれはどうもうまくいっていない。日本でもこの考え方が入ってきてから60年ほどになるが、未だにリハビリで脳の機能を再生してマヒを治したなどという科学的な報告はない。リハビリではどうも「脳を治す」というのは不可能ではないか。
実際に「この悪いところを治す」という発想では、「治す、交換する」ことができない部位の障害では壁にぶつかって手が出せなくなる。
しかし最近は、リハビリではなく電子工学などの分野の発達で、脳の機能を手助けするような取り組みで成果が見られる。たとえば経皮的に脳波を拾って、それで手の筋肉に繋いだ刺激装置に指令を出して手を動かすような機械である。 この装置のような環境リソースが発達すれば、この考え方もまた壁を乗り越えていくのだろう。
しかし、このような「機械を直す」以外の発想はないものだろうか?少なくともリハビリではこの考えは壁にぶつかっているようだから。
そもそも人は機械ではない。人は動物であり、機械とは異なった構造を持ち、機械とは異なった作動をするものである。だから動物の運動システムの構造とその作動を基にした別の発想のアプローチが本来あるはずである。
今回のシリーズではこれを考えてみたい。
まず基本、機械を修理するときには悪い部品やユニットを見つけて「直す、修理する、あるいは交換する」以外に修理の方法はない。それは機械の部品やユニットは最初からシステム全体の中で明確に役割が決められているからである。だからある役割を持った部品が壊れてしまうとシステム全体がうまく作動しない。ロケット打ち上げ失敗のように小さなたった一つの部品の故障で全てがうまく作動しなくなる。ビス一つにだって「固定する」という明確な役割が与えられているわけだ。
しかし人ではどうだろうか?腓骨神経麻痺を起こすと下垂足が起きる。もし歩行ロボットで足部を持ち上げる動力あるいは力の伝達装置などが壊れると同じようにつま先が垂れてしまうだろう。すると歩こうとするとつま先が床に引っかかり転倒してしまう。
もちろん人でもつま先を引っかけて転倒するが、何度か繰り返すうちに運動システムはCAMRが「自律的問題解決」と呼ぶ作動によって、「鶏歩」と呼ばれる歩き方を創出し、熟練することによって歩行動作を回復してしまう。ただ単に歩くだけのロボット、機械ではこんな作動は生まれない。
人の運動システムでは悪いところが治らない場合は、利用可能な別の運動リソースを置き換えて、新しい運動スキルを創出して問題を解決してしまうわけだ。各部位・要素の役割は固定されたものではなく、役割を交換したり新しい役割を生み出すような運動システム全体の再構成が行われる。
もし人の運動システムの作動の特徴をよく知っていれば、「悪いところを探して治す」以外の発想のリハビリ・アプローチも生まれるのである。(その2に続く)
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不思議なこと!(後編)
患側下肢の四頭筋の筋力検査をすると重力に逆らって全可動域を動かすことができないのに、その患側下肢を半伸展位で支えながら歩けるAさん。筋の収縮は弱いのにどうやって体重を支えるだけの収縮力を生み出すことができるのか?これが大きな疑問でした。
Aさんの訓練の後、また何人かで同じような経験をします。文献でクロス・ブリッジ説などを発見し、「これだろうか?」と思ったりもしました。でもなんかピンとこない。
そんな日々、溜まった文献を整理しようと取りだしたところ、偶然一番上に置いた論文を見るとKatz1)のものでした。この論文は、アメリカの理学療法士がシステム論に向かう一つのきっかけとなったということで、昔読んだものです。 でも見た瞬間に、何か引っかかるものがある。そこで久しぶりに読んでみると、「あ、これではないか!」と思いました。キャッチ収縮の説明があったのです。すっかり忘れていた、というより最初に読んだときにその価値に気がつかなかったのです。
キャッチ収縮はここでも再々紹介していますね。通常カルシウム濃度が上がるとミオシンとペクチンが滑り込み、筋の収縮が起こります。しかし、ある一連のタンパク群の影響で、カルシウム濃度が下がっても収縮が解けずにそのまま収縮状態を維持します。これがキャッチ収縮で、エネルギーを消費しない収縮形態ということで知られています。またこれには電気活動が伴わないので筋電図活動が見られないのです。
更にキャッチ収縮で検索してみると、日本にはこのキャッチ収縮の研究者が何人もいます。論文を探して何本か読んでみると、平滑筋でキャッチ収縮を起こす一連の蛋白群と同様のものが骨格動物の横紋筋でも見つかっている2)という内容です。
Katzの論文には更にDietz3)らの論文も紹介されています。足関節の背側可動域が保持されていても尖足歩行をしている脳性麻痺児と成人片麻痺患者で、筋電図活動が調べられました。尖足位で歩いている患者の立脚期には腓腹筋の筋電図活動が見られませんでした。尖足位で体重を支持しているのにです。Bergerら4)は片麻痺患者の歩行中の両側アキレス腱の張力発生を調べました。立脚相の間、患側腓腹筋は張力を発生していましたが、やはり筋電図活動は見られませんでした。これらの研究では筋電図活動が見られないにも関わらず、張力が発生していることを示しています。
でもこの説明は、まさしくキャッチ収縮の性質に当てはまります・・・・・と、ここで僕の知識は止まっています。もう20年も前のことになります。
その後CAMRの体系化に向かって取り組んでいたので、この手の基礎研究を学ぶことは自然にしなくなってしまいました。
実は色々なセラピストと話してみると、意外に多くの人が僕と同じ経験をしていました。臨床では当たり前の現象であり疑問なのです。それなのになぜ大きな話題にならないのでしょうか?様々な研究が出てこないのでしょうか?不思議なこと!
これらの筋収縮に関する新しい知識をお持ちの方、僕を含めて皆さんにも教えていただけると助かります。
さて、Aさんは反張膝歩行に納得されたままだろうか?
今思うと、反張膝歩行は省エネでとても効率的です。初期には下り坂などで膝折れを起こしやすいので危険ですが、次第に全身が反張膝を維持するような運動スキルを獲得するので安定して歩けるようになります。
以前は「反張膝」を続けると膝痛を起こす原因となるから修正するべき」みたいな意見もありましたが、僕の経験の中では10年以上反張膝歩行を続けても膝痛はないという人ばかりです。因果の関係はあまりないのではないか、と思います。本人が歩行の形を気にしなければ麻痺のある方にとっては一つの選択肢として良いのではないか、などと思います。
ちなみに僕の経験では、急性期で立ち始めたときから患側下肢の半伸展位での支持と重心移動の運動課題を繰り返すと、反張膝になった例は一つもありません。しかしいったんできた反張膝歩行はほぼ修正不可能だなと思います。(終わり)
【引用文献】
1) . Katz RT, Rymer WZ. Spastic hypertonia: mechanisms and measurement. Arch Phys Med Rehabil. 1989;70:144-155. 46.
2) 盛田フミ: 貝はいかにして殻を閉じ続けるか?-省エネ筋収縮”キャッチ”の制御と分子機構. タンパク質 核酸 酵素 Vol33 No8, 1988.
3) Dietz V, Quintern J, et al.: Electrophysiological Studies of Gait in Spasticity and Rigidity. Brain, 104:431-449, 1981.4) Berger W, et al.: Tension development and muscle activation in the leg during gait an dyspastic hemiparesis: in dependence of muscle hypertonia and exaggerated stretch reflex. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 47:1029-1033, 1984.
【CAMRの最新刊】
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不思議なこと!(前編)
片麻痺になって3年のAさん。
普段は杖歩行中に患側下肢に反張膝が見られます。
「患側下肢は麻痺のため十分に力が生み出せないから支持性が弱い。それで骨と靱帯で作られる制限を利用して膝関節を固定して体重支持をしているのだろう」と考えます。
Aさんは「娘が言うには、歩く時に膝がカクッ、カクッと止まって歩き方が変だから歩き方を治してもらいなさいというので治してほしい」と言います。
しかし「筋力がないので、反張膝で支えている。もし膝を半伸展位(半屈曲位)で支えようとすると膝折れが起きるのではないか?」と考えて、まずその姿勢が可能かどうか試して見ますと・・・できるのです。患側下肢の半伸展位で支えながら健側下肢を振り出すことが可能です!それなりに支持性があるようです。
「何だ!できるじゃないですか!その調子で歩いてみましょう!」
Aさんは最初の2ー3歩は慎重に患側下肢の半伸展位で支えるのですが、それを過ぎるとやはり反張膝で歩かれます・・・・それから色々試行錯誤してみます。両脚とも半伸展位で歩いてもらったり、杖ではなく手すりを持って歩いたりしてもらいます・・・
でも慎重にゆっくり歩く最初のうち膝は半伸展位で歩かれるのですが、すぐに反張膝に戻ります。それに手すりを持っていると良いのですが、杖になると元通り。悩ましい! 休憩時に椅子に座っているときに、ふと思いついて四頭筋の筋力検査をすると重力に逆らって全可動域動かせません。下腿に軽く触れるだけで、下腿は簡単に落ちてしまいます。
「これは、これは・・・」麻痺のため弛緩気味の脚は、間違いなく必要なだけの力を生み出せていないのです。でも立って膝関節を半伸展位で支えているのです!
「はてさて、どういうことか・・・・・?」
理学療法士になって小児施設や学校の教官で16年を過ごし、僕にとって初めて見た成人の片麻痺患者さんでした。「こんな不思議なことがあるのか!」と驚きました。歩行時の半伸展位での支持は確かにできています。でもその収縮力はどこから生まれているのか?たくさんのセラピストに聞いたり文献を探したりしましたが、明確な答えはありませんでした。
自分なりに仮説も立てました。「ある程度引き延ばされた筋が体重をかけながら収縮すると強く活性化されて狭い範囲で強い収縮力が出るのではないか?」とか「錘体外路系の収縮の利用か?」などです。座位や立位でいろいろと仮説を試して見ましたが思ったように上手く行かないし、Aさんも少し迷惑そうです。
ともかくAさんの依頼もあります。反張膝歩行の修正は続けます。「半伸展位での支持性は長く保たないのかもしれない」と考え、患側下肢を半伸展位のまま長い時間、健側下肢を様々な方向に踏み出す練習などもします。何週間もかけて患側下肢を半伸展位のまま歩く練習もかなり長くできるようになりました。
Aさんも患側下肢を半伸展位で支えることに自信を持たれるようになりましたが、それでも普段の歩行では反張膝歩行は治らず、「はあー、だめだねえ・・」とAさん自身が「仕方ないねえ、やるだけはやったわ!」と諦めてしまいました。
それはともかく不思議なのは麻痺の脚が歩いているときだけに強く収縮して体重を支えながら重心移動ができていることです。(後半へ続く)
【CAMRの最新刊】
西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(前編): 生活課題達成力の改善について」
西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(後編): 生活課題達成力の改善について」
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【あるある!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④
西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤
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CAMR(カムル)は、システム論を基にした医療的リハビリテーションのアプローチです。
人の運動は、状況変化に応じて柔軟に変化し、創造的にその時その場で必要な課題を達成します。
人の運動システムのどんな構造や仕組みがこの柔軟で適応的で創造的な運動を可能にしているのでしょうか?
CAMRは人の運動システムの作動上の特徴を離解することで、その背後にある仕組みを理解できるようになります。そうすると、逆に障害を持つということの理解が深まりますし、リハビリのアプローチをどうするべきかもわかってきます。
そしてCAMRでは、人の運動システムの作動の特徴を中心にアプローチを組み立てますので、どんな障害でも基本的には同じ治療方針を持っています。
とは言え、障害毎に配慮するところは異なります。今回は脳卒中片麻痺を対象に、CAMRアプローチの考え方、評価、治療的介入の実際、障害の特徴について説明します。
学校で習ったアプローチに、CAMRアプローチの視点を加えると臨床での問題解決力が大幅にアップします!
またこの4年間で、CAMRは内容を大きく再編成しました!
以前受講された方にとっても、より実用的でわかりやすい内容になっています。
患者さんのビデオを見ながらの具体的な学習となります。詳細は以下の通りです。
開催日時:2023年9月24日(日曜日)午前10時~午後4時(昼休憩1時間)
受付:9時半~10時
開催場所:広島県立障害者リハビリテーションセンター スポーツ交流センターおりづる
(アクセスは施設ホームページをご覧ください。無料バスも利用できます)
※駐車場無料。駐車場はおりづるそばではなく、リハセンター側の駐車場 をご利用ください。
おりづるそばの駐車場は障害のある方が利用されますのでよろしくお願いします。
募集人員:30名
参加費:CAMR講習会・勉強会参加が初めての方 2500円
過去にCAMR講習会・勉強会に参加した経験のある方 1200円
当日会場でお支払いください
※事前に参加申込みが必要です。 申込み締切 2023年9月17日(日曜日)
申込み方法:oyazinzin※gmail.com(※を半角の@に置き変えてください)
記入内容 -件名に「CAMR勉強会参加希望」
-本文に
・氏名
・職種(PT、OT、STなど)
・過去のCAMR勉強会・講習会に参加経験の有無
・できれば大体で良いので現職の経験年数
・ライングループへの参加希望の有無
講義資料配付:講義資料(動画など)配付や事前の詳細説明などはライングループで行う予定です。参加希望者にはメールの返信でライン・グループのQRコードを送りますので、参加をお願いします。ライン・グループは勉強会後の質問や実際に訓練してみた意見・感想などその後の学習にも利用できます。
ライン・グループへの参加を希望されない方には、別途メールで講義資料の配付などを行います。
昼食準備のお願い:施設周辺には飲食店がないため、お弁当を用意されることを勧めます。
食事はお部屋で。お茶は当日、2ℓペットボトルと紙コップを用意しておきます。
質問など:上記申込先にお願いします。 以上です。
【CAMRの最新刊】
西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(前編): 生活課題達成力の改善について」
西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(後編): 生活課題達成力の改善について」
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
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西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
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「独りで考え、行動する訓練」
昔、実習にきていた作業療法科の学生さんが新しい訓練のアイデアを相談してくれたことがある。
彼のアイデアを簡単にまとめると、「トイレ付きでベッドと食卓、流し、食器棚、冷蔵庫、本棚、ゲームなどのアクティビティ類などの揃った部屋を用意して、その中で独り、数時間から一日過ごしてもらう。冷蔵庫の中にはお弁当やサンドイッチ、色々な飲み物を置いておく。お腹が空いたら冷蔵庫のなかのものを食べてね」と指示するのだそうだ。患者さんはもちろん室内自立している患者さん。そうすると「独りで時間を過ごすことから患者さんはいろいろ経験し、学ぶのではないか?」というのだ。
これは「独りで考え、行動する訓練」と名付けるという。
「どうしてそんなことを考えたのか?」と聞くと「僕のおじいちゃんは病院のリハビリで歩けるようになった。病院ではとても一生懸命歩いていたし、リハビリの先生も『意欲的な患者さんです。家でも歩けます』と説明していた。それなのに、家に帰ると歩かなくなってしまった。意欲がなくて、なにもかも家族任せである。結局病院では何をするにも指示に従って動くだけである。だからダメなのだ。アクティビティだって先生から与えられるだけだ。なにができるか、なにができないか、そして何をしたいのか、独りで考え、探し、試し、実行する経験が必要ではないか!」ということだ。
なかなかの熱弁だったので印象に残った。普段は礼儀正しく、もの静かで冷静な学生さんだった。
僕は「面白いね」と表面的には答えたが、あまり実現できそうにないし、第一あまりやる意味が感じられなかった。そこで主にはどうして実現が難しいかという理由を説明したと思う。
一方で、学生さんなのにすでに新しい訓練が必要であると考えているところがすごく頼もしく、感動した。人からいわゆる「正しい答え」を教えてもらうことが当たり前で、いつまで経っても自分で判断しようとしないセラピストが多い中で、少なくとも自分の頭で考えようとしているその姿勢に感動した。そこをもっと褒めるべきだったか・・・
まあ、その話はそれっきりになってしまったが、久しぶりに何かのきっかけで思い出した。なんとはなしに面白そうではあるが、色々考えてみたがやはりあの訓練はなにが期待できるのか、今ひとつピンとこない。僕の頭は硬いのだろうか?と思ったりする。それともなにか画期的な可能性を秘めているのだろうか? 皆さんはどう思います?(終わり)
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西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(後編): 生活課題達成力の改善について」
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人の運動の特徴を問われたら・・・(その8最終回)
今回は人の運動や運動システムの特徴について検討してみた。それによって患者さんの運動障害をより深く理解したり、アプローチをより効果的に実施したりすることができるということを示してきたつもりである。
ただ、このシリーズの「その1」で挙げた学校で習う「構造と機能」から理解する視点は、今さらだが少し説明不足だったのでここで補っておく。
人の体を機械とみなして構造と各器官の機能などを理解しておくことは、西洋医学の基本である。そしてこれによって医学は大きく価値を認められ、進歩したのは間違いない。リハビリの分野でも、特に整形疾患などの分野では目覚ましい効果を上げてきたことによって、世間にその存在価値を認められたのである。 つまりこの視点での捉え方自体は、整形疾患などの領域では非常に効果的である。
しかし脳性運動障害などの領域では、これまでこの視点からのアプローチは「脳を構造的、あるいは機能的に治す」ことに集中したもののあまり効果を上げてこなかった。整形における義肢・装具のような効果的な環境リソースで脳の機能を補うこともできなかったからだ。
ただ最近ではリハビリではなく、電子工学の分野で脳波を拾って、筋の収縮をコントロールするような新しい技術が生まれてきており、この視点からのアプローチの発展は非常に楽しみではある。
一つ言えるのはどの見方にも長所があり、短所もあるということだ。つまり二つの見方を持つことで、お互いの短所を補える訳だ。
さて、システム論の「運動システムの作動の視点」からは、主に3つの特徴を理解することによってセラピストのやるべき内容が明確になった。
①状況性という特徴を支えているのは、豊富な運動リソースと多彩な運動スキルの創出である。まず私たちセラピストがやるべきことは、運動リソースをできるだけ豊富にし、運動スキルの創出能力を高めて多彩にすることである。
②課題特定的という特徴から、運動リソースの豊富化と運動スキルの創出能力や多彩化は、患者にとって必要で具体的な課題を通して行われるということがわかった。それ故課題設定と修正はセラピストの重要な仕事である。
アメリカの「課題主導型アプローチ」はこのアイデアが中心に展開されている。ただこれまでの学校で習う要素還元論の考え方を否定したりして、まるで過去に積み重ねてきた経験や知識を捨て去ってしまうような考え方にやや危うい感じを抱くのは僕だけだろうか?
③自律的問題解決という特徴から、システムの自律的問題解決とそれが偽解決という状態に移行しやすいことを理解することが重要である。常に自律的問題解決が偽解決に陥っていないかどうかを評価すること。そして陥っている場合は、偽解決の状態から救い出す方略を考えることが必要である。
さてどうだろうか?実はまだまだ考えるべきことは沢山あるのでだが、また別の機会に検討したい(終わり)
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