「代償運動」って本当に悪い?(その3)

目安時間:約 6分

「代償運動」って本当に悪い?(その3)


 セラピストが「代償運動」という言葉を問題として指摘するとき・・・・セラピストがその問題を解決できる時はなんの問題もない。しかし問題解決できない時には、問題だけを指摘するだけである。つまり「代償運動」は患者さんを苦しめるは「悪魔のささやき」となるかもしれない。


 たとえば片麻痺患者さんは苦労して分回し歩行というスキルによって漸く歩けるようになったのに、「その歩き方は良くない。間違っている」などとセラピストから指摘される。そしてセラピストの治療なるものに従うもののいつまで経っても麻痺は治らず、分回し自体が消えることはないからだ。


 患者さんは頑張っても健常者の様に歩けないので、努力が足りないと自分を責めたりする。反省的なセラピストは自分の力が足りないと自分を責めたりもする。そうでもないセラピストは「患者の努力が足りない」とか「私の言うことを聞かないからだ」と患者さんやその家族を責めたりする・・・・やれやれ、随分こんな場面を見てきた。


 この問題を解決するには、まず悪い運動を意味する「代償運動」という言葉を使わないことだ。代わりにCAMRでは、障害などの後に現れる運動の多くは、「自律的問題解決の運動スキル」と呼んでいる。これは長いので普通、「問題解決スキル」と略す。


 なぜなら人の運動システムでは、麻痺や痛みなどの運動問題によって必要な生活課題が達成できなくなると、自律的・自動的に何とか問題を解決して必要な課題を達成しようとする本質的な性質が備わっているからだ。


 つまり前々回見たような「足関節が硬い」場合は自律的に「膝でバランスをとる問題解決スキル」を生み出す。また「片麻痺がある」場合は、「分回しという問題解決スキル」を生み出して、歩くという課題を達成している。


 麻痺や可動域低下などの運動問題を自律的に解決して、課題を達成するための運動スキルであるので、本来的に悪い運動ではない。これは人の運動システムが自然に備えている課題達成のための能力なのである。


 たとえば右膝を打撲して荷重すると痛い。そうすると右脚に荷重しないで移動する様々な問題解決スキルが生まれる。左脚のケンケンや右脚への荷重時間が短い跛行などのスキルも見られる。また左脚はすり足で振り出して右脚の負担を小さくして痛みを軽くするかもしれない。あるいは右下肢荷重時には両手で家具や手すりを持って痛みを生じないように移動するかもしれない。いずれも右膝の痛みを軽くして移動するための問題解決スキルである。


 上記の場合、いずれの問題解決スキルも荷重に右脚をできるだけ「使わない」ようにする意図があるので、CAMRでは「不使用の問題解決」と分類される。 腰痛ヘルニアで激痛がある場合、体を硬く棒のようにして痛みを小さくするように歩かれる。これは体全体を硬くするため「外骨格系問題解決」と分類される。 このようにCAMRでは全部で6個の問題解決スキルが分類されている(詳しくは「リハビリのシステム論-生活課題達成力の改善(前・後編)」西尾幸敏を参考にしてください)


 つまりこれまで「代償運動」と呼ばれていた運動は、「問題解決スキル」と呼んだらどうか。本来的に問題解決をしようとしているので「分回し歩行」は悪い運動ではない。努力の結晶である。患者さんもセラピストもそう評価したらどうか。


 ただし、問題解決スキルは全てが良い結果になるわけではない。それらの問題解決は、応急的なその場しのぎであって、そのために新たな問題を生み出すこともある。その新たな問題を生み出すような問題解決スキルは「偽(にせ)解決」と呼ばれる。 次回はこの「偽解決」について検討しよう!(その4に続く)


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「代償運動」って本当に悪い?(その2)

目安時間:約 6分

「代償運動」って本当に悪い?(その2)


 今回のシリーズでは普段臨床で何気なく使っている「代償運動」について様々な角度から検討している。


 前回は「代償運動」の定義や「歩行時の膝痛の原因の一つが、足関節の硬さのために大地の起伏を十分に吸収できないために膝関節に過剰な代償運動が起きること」というアイデアを紹介した。


 前回は「代償運動」という言葉を使うことで、因果の関係も上手く説明できて「やはり修正するべき運動」と考えられる。


 「何だ、それで良いではないか」と言われそうだが、どうもことはそんなに単純ではない。問題は「代償運動」=「好ましくない運動であり、修正するべきである」という単純な思い込みである。


 たとえば脳卒中後の分回しの原因は、脳の細胞が壊れたことで麻痺が起こり、患側下肢を振り出せなくなることである。仕方なく健側下肢や体幹を使って健側へ大きく重心移動して患側下肢を浮かせ、更に体幹を振り回すことによって患側下肢を振り出して歩行をする訳だ。


 セラピストの多くは、分回し歩行は「本来の歩行方法ではなく代わりの歩行方法、つまり代償運動である」と思うのかもしれない。


 実際に僕の周りにも「分回し歩行は代償運動なので治したい」というセラピストが少なからずいた。なぜなら「本来の運動とは『健常者の歩行方法』であり、それから大きくずれているから」などと言う。


 しかし麻痺のある体でも、麻痺のない健常者の歩行の形が「本来の歩行方法」なのだろうか?それはやはりおかしい。半身に麻痺がある体では、分回し歩行こそ、本来の歩き方ではないのか?


 脳性運動障害では運動障害の原因は麻痺である。麻痺を治すことができるなら問題ないが、我が国でもこの「麻痺を治す」というアプローチが導入されて半世紀以上が経つが、未だに「麻痺が治る」と証明する科学的報告はなされていない。これは実現不可能な目標なのだろう。


 つまり「麻痺があっても効率的で美しい健常者の歩き方を目指すべきである」という健常者への同化主義(努力して健常者に近づくべき、など)が背景にあるのかもしれない。


 このような同化主義に支配されていると、「それは人本来の効率的な歩き方ではない。健常者の歩き方が本来の歩き方だ」と問題は指摘する。が、その問題の原因である麻痺を解決する方法はない。麻痺は治せないからだ。つまり解決手段もないのに「代償運動」だと問題だけを指摘するのはいかがなものか。


 「代償運動」という言葉は、「本来の運動ができないので代わりの運動」という意味がある。そうすると「本来の運動」をどう捉えるかで、「代償運動」の意味が変わってくる。本来の運動を健常者の歩行の形に求めたのでは、麻痺のある人はどうしようもないではないか。


 前回の膝痛の例では足関節の可動域を改善できたので「代償運動」というアイデアは上手く機能した。しかし、もし足関節が強直などで可動域を改善できなかった場合はどうなるのだろう?やはり代償運動と問題は指摘しても解決はできないのではないか。


 代償運動と問題を指摘して、その原因が上手く解決できる場合は良いものの、上手く解決できない場合にも、「代償運動だ!」と問題を指摘するが、解決できないので患者さんは苦しめられているのではないのか? 患者さんは麻痺のある体で何とか苦労して「分回し」というスキルを発見し、麻痺肢の振り出しの問題を解決して歩けるようになった。しかしセラピストから「それは代償運動だから良くない」と批判されたのではたまったものではない。


 これが「代償運動」という言葉の問題である。治せる場合も治せない場合もひっくるめて「代償運動」と一括りにして悪者扱いしてしまうわけだ。 ではどうするか?(その3に続く)


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「代償運動」って本当に悪い?(その1)

目安時間:約 6分

「代償運動」って本当に悪い?(その1)


 「代償運動」の「代償」の意味は、広辞苑によると「(比喩的に)ある目標を達成するために払う犠牲や損害」とか「本人に代わって弁償代弁すること」とか「直接実現できない目標を他の類似したものにおきかえて欲求を充足させること」などがある。そうなると「代償運動」で意味されるのはおおよそ「(犠牲や損害を伴う)問題のある運動」だったり、「本来の運動ができないので代わりの運動」といった意味になるのだろう。つまり「あまりよろしくない運動」というイメージである。


 実際、学校を卒業したばかりの新人さんなどに聞くと、やはり「代償運動は悪いことなのでやめさせた方が良い」などと答える。


 いや、新人さんばかりでなくベテランセラピストの中にも「代償運動は今は良くても、特定の部位に過剰な運動を強いることでやがて歪みを大きくし、変形・痛みなどの原因になるから、なんとしても修正するべきである」とか「本来の正しい運動をできるように修正するべき」などという方もおられる。


 「そうか、そんな風に考えると代償運動は悪いものに違いない」と思う。


 たとえば歩行時に膝に痛みを訴える方がいる。最近屋外歩行を始めたら、膝が痛くなったと言われる。近医を受診したら「変形性膝関節症」の診断名がついた。若いセラピストは困ってしまう。「膝が変形したのだから仕方がないとは思うが、何とか膝をよくできないものか?」といった相談を受けることも多い。


 こんな時はあまり詳しい説明はしないで、「まず足部の小さな関節のモビライゼーションと足関節のストレッチを十分にしてみて。それでダメなら言って」などと伝える。


 そうすると最初のアプローチで「膝の痛みが軽くなった、良くなった」と経験することも多い。「全身の各部位は影響し合う」ということを実際に経験するには良い機会だと思っているのでそうしている。


 すると若いセラピストが「あれで膝が良くなったんですね」などと言う。まあ、単純・素朴にそんなことを言う。


 こんな時に「代償運動」という言葉は便利かも知れない。以下の通り。


 「いや、厳密に言うと膝を治したわけじゃない。あくまでも膝痛の原因の一つとして考えて欲しいが、この方の全身の動きを見ると硬くて各関節の動きは小さくてやや小刻みな歩き方をされる。こんな方は特に足関節や足部の柔軟性などが低下していて、大地の凹凸を上手く足部で吸収できていないことが多い。それでは歩行が不安定になるよね。


 そして最近になって屋外歩行を始められた。それで大地からの起伏を吸収して体幹を安定させるために足関節の代わりに膝関節が頑張って過剰に働いて負担がかかっている可能性がある。つまり足関節がうまく機能していないから、膝関節での『代償運動』で揺れを吸収している。


 そこでまずは足関節と足部の柔軟性を改善してみる。すると足部が大地のデコボコに上手く適応するようになるので、膝の『代償運動』が過剰に使われなくなり、痛みが軽くなった可能性がある。これがダメならまた次のポイントへアプローチする」


 などと説明する。こうするとやはり代償運動は悪い運動で修正するべきとなって、わかりやすいのかも知れない・・・・・いや、たまたまこれが良い例であるに過ぎない。


 臨床ではこのように説明に便利な場面が希にあるという理由だけで、この「代償運動」=「好ましくない運動」という図式が当たり前になっているのではないか。この単純な図式によって、実は様々な弊害が生まれているのではないか。どういうことか?


 次回からこの「代償運動」という言葉を色々な角度から検討してみたいと思うのだ。(その2に続く)


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続・歳のせいと言う勿れ

目安時間:約 5分

続・歳のせいと言う勿れ


 以前、「歳のせいと言う勿れ」というシリーズで、「『歳のせい』は諦めを生む呪文である」みたいなことを書きました。


 「歳のせい」と言われると「ああ、それじゃ仕方ないわよね」と諦めの気持ちを生んでしまいます。


 実は最近、頻尿と残尿・尿漏れを続けて経験しました。それで、思わずこの呪いの言葉を口にしそうになりました(^^;) しかし、よく考えてみると、退職以来おしっこを我慢することがとても減っています。行きたい時に行きたいだけ行きます。回数も増える。きっと膀胱の弾力性が減って小さくなっているのだと思います。歳のせいと言うよりは生活習慣が原因。


 またデイケアで働いていたとき、「男は立ってするからトイレが汚れるのよ」と女性スタッフから言われました。僕も「そうだな」と思ってそれ以来座ってしているのです。しかし座っているとどうも気張る感じが自然に消えてしまいます。


 それで歳のせいではなく、生活習慣で括約筋とか腹横筋などが筋力低下をしているのだと仮説を立てます。


 そこで一念発起、自分なりに筋トレを始めました。おしっこを我慢したり気張って出すようなイメージでいろんなところに力を入れては抜いてを繰り返します。また絞り出すテクニック(^^;)もいくつか工夫します。


 効果は割と早く出て、パンツを濡らすこともなくなりました。「歳のせい」という呪文によって、危うく「尿漏れ対応パンツ4枚組」を通販で買うところでした(^^;)フゥー、めでたし、めでたし!


 これに気を良くして、最近テレビを見ていて有名タレントや俳優の名前が浮かばなくなっているのも「歳のせい」ではなく、短期記憶のトレーニングが足りないのでは、と仮説を立てて早速憶える練習を始めました。


 テレビCMでよく知っている俳優が出ています。「誰だっけ?」と思うものの名前が出ません。妻に聞くと「松山ケンイチじゃないの!」と言われます。「ああ、そうだ!大河ドラマで徳川家康の知恵袋と言われる本多正信を演じている松山ケンイチ君である」と関連知識と一緒に憶えます。こうすると記憶が定着しやすいとか・・・


 翌日またそのCMがあります。妻がキッとこちらを向きます。しかし出てこない、名前が全然浮かばない。「大河ドラマで・・・」の関連知識しか浮かばない・・・・焦ります(^^;) 妻が「松で始まる俳優!」とヒントを出します。 「あっ、あっ、なんか出そう」と思います。「松、松、松平健!は違う・・・松、松、松原智恵子はもっと違う・・・松、松、松井秀喜!(^^;)」 結局、ギブアップです。昔憶えた名前しか出てこない(^^;) つまり、「歳のせいと言う勿れ」の道はとても険しいのだ!(終わり)


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「麻痺は治る」と主張される人へ(後編)

目安時間:約 6分

「麻痺は治る」と主張される人へ(後編)


 さて、前回は脳性運動障害では運動パフォーマンスの改善や悪化などの変化の原因は、脳の働きの良し悪しとして説明される訳で、これが要素還元論の特徴であると述べた。


 関係する要素群の中で一番重要な原因となるような要素、たとえばここでは「脳の働き」に運動パフォーマンス変化の原因を還元(より基本的と思われる要素に戻して説明)するわけだ。


 これをシステム論の立場から見ると、「運動パフォーマンスは、様々な要素の相互作用によって生まれ、安定する」ということになるので、上のような単純な因果関係の説明ではなくなる。


 たとえばシステム論では歩行パフォーマンスの改善の説明の一つは、以下のようないくつかの要素あるいは運動リソース(運動のための資源)間の相互作用として説明されるかもしれない。


 訓練を通して、


① 体幹や股関節などの柔軟性の改善による運動範囲、重心移動範囲が改善する② 健側上下肢、体幹の筋力改善が起きる


③ 麻痺側下肢の筋力改善(研究によると麻痺があっても筋トレによる改善効果は数%見られる)も起きる可能性がある。麻痺自体が改善するという意味ではない④ 患側下肢の支持性の改善(電気的な筋活動が見られなくても、キャッチ収縮のような筋電図上で測定できない筋張力の増加現象が知られている)


⑤ 様々な身体活動を経験することにより、患側下肢の支持性が思った以上に良いと認識する、つまり経験的に次第に麻痺側下肢を使えるようになる(情報リソースのアップデートが起こる)


 そうするとそれらの要素(運動リソース)間の相互作用として、以下のようなことが起こり得る。


 まず患側下肢の支持性が増してくる。さらに患者が麻痺側下肢に体重を繰り返しかけることによって「麻痺側下肢は意外にしっかり支えてくれる」と認知すると、患側下肢での荷重時間の延長が起こる。そうすると広がった可動域や重心移動範囲の拡大と共に健側下肢の筋力改善による蹴り出しにより前方へ大きく振り出せるようになる。筋力とバランス能力の改善によって体幹の安定性なども増している。


 その結果、体幹の前方への推進力が高まり、歩行速度も上がる。自然に患側下肢も前方に出た体幹に引っ張られることになり、分回しのような運動スキルに頼らなくても、慣性の力が加わって、下肢はよりまっすぐにより力強く前方に振り出されるようになる・・・


 関係する要素群(あるいは運動リソース群)が変化し、その相互作用の結果として運動パフォーマンスは改善する。この説明は、以上のように力学的な視点での説明も可能である。むしろこのような説明の方が、「麻痺が改善した」と一気に飛躍した結論に飛びつくよりは実際的ではないのか。


 まあ、「運動パフォーマンスの質的・量的改善は必ずしも麻痺が治った証拠」とは言えないわけだ。


 それに上のような改善は、「脳に働きかける」と大上段に構えなくても、誰でも適切な運動課題を積み重ねることによって比較的短期間に達成可能である。(詳しくは拙書「リハビリのシステム論-生活課題達成力の改善について(前・後編)」を参考にしてください)


 単純な因果関係論の視点だけに頼っていると、運動変化の原因をすべて脳に還元してしまい、「脳性運動障害で運動パフォーマンスが良くなるのは麻痺が改善しているからだ」と素朴に信じてしまうのではないか。


 本来、人の体をロボット、脳をコンピュータに喩えるのは変な話である。ロボットは人の動きを人工的に作ろうと、その時の技術でなんとか人の動きを真似しようとしているだけだ。決して人の運動システムを再現できているわけがない。


 つまり人の運動システムと機械システムの作動は全く異なっているのに、今度はその人工的なロボットの構造と働きを基に私たち、人の運動システムの作動を説明・理解しようとしているわけだ。主客転倒も甚だしい。


 いい加減、「わかりやすいから」と脳をコンピュータに喩えるようなアナロジーは捨てた方が良いのではないだろうか。人の運動システムの作動は人の運動システムの作動を見ていくことでしか理解できないはずである。(終わり)


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「麻痺は治る」と主張される人へ(前編)

目安時間:約 6分

「麻痺は治る」と主張される人へ(前編)


 以前からそうなのだが、最近になってもSNS上で「脳性運動障害の麻痺は治る、治せる」という旨の「ささやき」をする人は絶えない。


 たとえば「やはり麻痺は治ると信じてアプローチすることが大事なのだとつくづく実感しました」などである。まあ、あまり声高に、明確に主張しているのではなく、囁いているわけだ。


 以前は「脳性運動障害による麻痺は治ります!治して見せます!」と強く主張する人にしばしば出会ったものだ。まあ、こう言われると「科学論文として是非とも発表してみてください」と言いたくなる。もし本当なら「ノーベル賞ものではないか!世界の人々が賞賛するよ!」ということではないか。


 しかし大抵は、「それが科学論文として発表するのは難しい。麻痺の改善の程度を数値として表すのが難しいからだ。しかし、臨床経験として間違いなく麻痺は治っていると実感している」などと返されたものだ。


 そこで「麻痺が改善しているとどうして言えるのか?」と聞くと、「ハンドリングで動きを正して、繰り返し感覚運動学習をすると、たとえば歩行時の患側下肢の振り出しが大きく、力強く、まっすぐに振り出せるようになる。運動が量的にも質的にも改善していることが実感できる。つまり健常な人の歩行に近づいている。麻痺による運動問題に対して脳が新しい運動パターンを再学習することによって筋活動が高まり、脳機能が機能的に改善した結果である」などと答えられる。


 これは簡単に言うと、「下肢の振り出しのパフォーマンスが量的・質的に良くなっているので、これは原因となっている麻痺が良くなっている証拠である」と言っているわけだ。


 「脳性運動障害の運動問題の原因は麻痺である。脳神経が壊れて、筋活動あるいは運動プログラムが消失するのが原因で運動パフォーマンスが落ち、独特のパターンに支配される。逆に運動パフォーマンスが改善しているのは、その原因である麻痺が部分的にでも改善した、あるいは運動プログラムが再学習されたからだ」ということだろう。


 どうも極めて素朴で単純な因果の関係を想定しているらしい。この考え方は学校で習う要素還元論による因果関係論のもっとも極端な現れ方であろう。


 要素還元論とは、複雑な現象は、より基本的と思われる要素に原因を還元して(戻して)説明しようという立場である。たとえば学校で習うように「歩行能力低下の一つの原因は下肢筋力の低下である」と因果の関係を想定するわけだ。 


 この場合、まるで人の体をロボット、脳をコンピュータに喩えて理解している。脳機能の再建とは、正しい感覚入力による運動プログラムの再入力のようなイメージで捉えられている。


 ロボットの組織的な運動変化なら、その原因はほとんどコンピュータに還元できる。そしてこのロボットをお手本に人の運動変化を理解し、説明する。人の運動変化は脳が起こしているのだ、と。


 つまり脳性運動障害では、運動の改善や悪化の原因は基本的な原因となる要素「脳の働き」に還元して説明する。


 このような単純な構造で人の運動システムを理解していると、「脳機能の低下→運動パフォーマンスの低下」であり、逆に「運動パフォーマンスの改善→脳機能の再建」と単純に思えてくるのだろう。


 だからこの考え方をする人は、ハンドリングや感覚運動学習という言葉を使って麻痺肢を操作しながら、「筋肉に働きかけているのではない!感覚入力を通して脳に働きかけているのだ」といった説明を行う。


 しかし、脳機能の改善を仮定しなくても、運動パフォーマンスが質的・量的に改善するという説明は可能である。「運動パフォーマンスの改善≠脳機能の改善」というわけだ。


 次回、システム論の立場からこの説明の一例を紹介しよう。(後編に続く)


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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その4

目安時間:約 7分

体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その4


 今回はこのシリーズ突然の終了のお知らせとお詫びです。


 実は今回の企画を始めようと思ったのは、僕のウォーキングの距離と時間、体重と体脂肪率を2年間にわたってiPhoneの日記系ソフトにその日の出来事とともに記録していたからである。


 記録したウォーキングのデータ数は2年間で300日程度あったはずだ。これをエクセルに入力して、一気に散布図を作ろうという算段であった。


 だがなかなか仕事に取りかからない僕の悪い癖が出てしまった。企画が始まって漸くiPhoneをみながら、少しずつエクセルに入力していたのである。


 本来このようなテーマで話を進める以上、まずはデータ整理からするべきだろう。


 言い訳になるが、日々データをとりながら、なんとなくデータの意味することがわかったような気がしていたのだ。


 というのもウォーキングを始めた最初の一年は体重も体脂肪率もほとんど変化しなかった。実際最初の1年はエクセルに入力したので、散布図は明確だ。体重は68-69㎏、体脂肪率は最初と変わらず25%辺りの非常に狭い領域に集中していた。


 開始時の体重は71-72㎏程度だったが、始めてすぐに体重は3キロ程度減って68-69㎏で安定したわけだ。運動だけをして、食事制限はしないという条件で始めたので、運動量や他の食事を含む生活習慣との相互作用の中で、これらの指標はこの辺りに自己組織化されたわけだ。


 CAMRでは変化を起こすときは多要素多部位同時治療方略を使うが、運動量だけの単要素の変化で体重を減らそうという効率の悪いアプローチである。運動量だけの単要素の変化による効果を知りたいと言えば聞こえが良いが、実際には食い意地が張っていたのである(^^;)


 変化が現れたのは一年半くらいの時から。運動が楽にできるようになったのでいつのまにか毎日のウォーキングだけでなく、近所のスーパーストアや銀行にも歩いて行くようになっていた。週に1回程度は近くの低山にも登る。単要素変化とは言え、量も質的多様性も次第に大きくなったのである。


 すると体重変化が大きくなる。特徴としては日を追う毎になだらかに低くなるような線形の変化ではない。上がったり下がったりをランダムに繰り返すのである。体脂肪率はそうでもない。


 そしてその時期は突然終わって、それまでとは明らかに低い体重と体脂肪率のエリアで安定するようになった。それぞれ64㎏、23%辺りで落ち着く。


 日々、値を記録しながら、これは最初、運動量増加と他の変化しない日常生活活動などとの相互作用により体重と体脂肪率は狭い範囲に引きつけられて安定した。が、最終的には運動の質的・量的増加により、より低い領域でのアトラクターに惹きつけられて安定する位相転移ではないか。またその時に一時的な「カオス」な状態が現れたのではないかと思っていたのである。


 だからデータ整理から入らず思い込みから始めてしまった。


 でも僕の悪い癖だ。単純な作業はすぐにしんどくなってしまう。さらに昨年末から色々な病気や入院が続いて、年末からずっと体調不良が続いていたのも影響した。正月からはずっと副鼻腔炎が続いていたが、コロナが流行っているので薬をもらいに病院にも行きにくい。鼻水の洪水に対処しながらの作業であった。


 そんな時、作業の合間にちょっとした気分転換を図った。最近iPhoneのバッテリーがすぐ切れる。そこで正月明けにインターネットでSE3を購入して、それが良いタイミングで届いた。で、我慢ができず、ニューiPhoneへの移行作業を行うことにした。もちろんデータが消えたら大変と思い、バックアップをとった。


 しかし、ともかく上手くいかない。実は新旧のSIMカードを間違えたのだ。理由はもはや言いたくない。次第に僕の身に小さな逆上の連鎖を生んで、最後は大きな逆上の雪崩となってしまった。つまり古いiPhoneの全データ消失である。何をしたかは書きたくない。最後は頭が回らなかったのだ。


 慌ててバックアップを戻したが、なんと基本データだけで、僕のウォーキング・データはまったく残っていなかったという次第(^^;)データがあれば、カオスな状態がどの程度続いたかとか、位相転移の様子がよくわかったかも知れない・・・ 約束を果たせないまま勝手に終了するのは断腸の思いだが、仕方ない。


 ここまで読んでくださった皆様、本当に申し訳なかったです!(終わり)


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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その3

目安時間:約 6分

体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その3


 前回までの原始歩行消失の説明を通して、システム論の基本的な視点は理解してもらえたのではないかと思う。古典的システム論であれ、動的システム論であれ、基本となる枠組みは、「世の中のさまざまな現象は、それに関係する様々な要素感の相互作用によって生まれ、変化したり、安定したりする」ということだった。


 では古典的システム論と動的システム論の違いは何かというと、動的システム論は説明する言語が数字であるということだ。つまり数学や物理学の世界である。これは困った。というのも僕は数学が苦手、というより大嫌いである。


 数学嫌いと言えば、かのゲーテも大の数学嫌いだったらしい。だからゲーテの色彩論は、ニュートン派の人達からエセ科学扱いされた。


 まあニュートンの色彩論は、プリズムを通した光を紙の上に落としてそれを観察した。そして光の色は波長の違いだと説明した。なるほどと思う。光を分解して色を数値化して見せたわけだ。しかしニュートンの説明に人は存在しない。人の存在はあやふやであり、客観的であるべき科学の枠組みでは人は排除されるべきなのだろう。


 一方同じプリズムを使ったゲーテの色彩論は、プリズムを直接覗いたのである。しかもかなり多彩に実験をしている。これを知って感動した。色を見て、感じるのは人そのものではないか。人にとっての色とは何か、という視点。人の存在を排除しない科学。「人の存在を中心にしてこその色であり、これこそ人のための科学ではないか!」と感動した。


 それで早速、ゲーテの本を何冊か買って読んだのだが、実に大仰な表現が多彩に使われたり、非常に緻密というか、まあ率直に言ってやたらとこだわった感じがあったりして読みにくかった・・・・だから途中で読むのを止めてしまった(^^;)という・・・・ごめんなさい、話が逸れました(^^;) 


 本論に戻るが、僕は数学が嫌いなので動的システム論と偉そうに言ってもそんなに理解しているわけではない(^^;)


 しかしテーレンらは、その動的システム論を僕のような数学嫌いの人間でも理解できるように、数字ではなく日常生活言語を使って説明してくれている。今回のエッセイの最後に紹介している。興味のある人は是非とも読まれることを勧める。


 さて、漸く本題に入る。


 今回はこの動的システム論の視点から僕のウォーキングによる体重などの様々な指標の変化を考察してみたいと思う。


 どういう手法を用いるかというと、位相空間図というものだ。2つの変数で作られる空間である。今回は横軸に体脂肪値、縦軸に体重をとっている。そこにある日の体脂肪値と体重の交叉する点を打つわけだ。そして時間の経過に従って点を打っていくのである。そうすると体重や体脂肪率の変化する様子が時間経過とともに視覚的に理解できるのである。(その4に続く)


お勧めの動的システム論の本


・発達へのダイナミックシステム・アプローチ 認知と行為の発生プロセスとメカニズム: エスター・テーレン、リンダ・スミス 新曜社


 後、日常生活言語で不確定性や非線形システムなどの紹介をしてくれている本があります。入門書に良いですよ。ゲーテの話も出てきます(^^)読み物としても楽しい。


・カオス-新しい科学を作る: J・グリック 新潮文庫



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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その2

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体重変化などの指標を通して学ぶ動的システム論 その2


 前回、テーレンらは「脳の成熟に伴って原始歩行が消失する」という従来からの要素還元論あるいは単純な因果関係の説明には不満であったと述べた。そして動的システム論の視点からの説明を試みたのである。


 動的システム論にしろ、古典的なシステム論にしろ、その主張の最も基本の枠組みは「世の中のさまざまな現象は、それに関係する様々な要素感の相互作用によって生まれ、変化したり、安定したりする」ということである。


 つまり原始歩行と呼ばれる運動も様々な要素間の相互作用によって生まれて、その状態を変化させているのではないか、と考えるわけだ。


 たとえば原始歩行の消失した赤ちゃんをお湯につけると原始歩行が再び観察されることはよく知られていた。


 テーレンらはこれを基に、重力や下肢重量、筋力などのいくつかの要素が影響し合っているのではないかというシステム論の視点に沿って、以下のような検証を進める。


・原始歩行消失の時期には下肢の脂肪量が増加し、下肢全体の重量が増加している。これによって下肢筋力が相対的に弱ったことになり、重力に逆らって下肢を持ち上げられなくなり、消失するのではないか。だからお湯につけると浮力によって再び下肢運動が可能になるのではないか


・原始歩行がみられる新生児の時期からトレッドミル上で歩行運動を継続すると原始歩行は消失しない。つまり筋トレをして筋力を改善・維持すれば原始歩行は消失しないと考えられる


・左右のベルトの速度が異なるトレッドミル上に原始歩行のみられる新生児を乗せる。すると新生児といえども練習なくそれらの課題にうまく適応して柔軟に歩行の動きを生み出すことができた。たとえば早いベルトの上に置いた脚はゆっくり、遅いベルトの上に置いた脚は速く動かして、両方のベルトの中間速度で乱れることなく交互に脚を運ぶことができた。


 つまり新生児に対して「反射」と呼ぶのは失礼なくらい、周りの状況変化に対応して協調した動きを生み出すことができたのである。「原始歩行」という名前は「新生児はより原始的存在である」という誤解あるいは偏見によるものである。


 これらから示唆されることは、従来仮定されていたように、「原始歩行の消失は、脳の成熟(髄鞘化)によって抑制される」ではないということだ。


 そして原始歩行と呼ばれる歩行は、実は最初から協調され、状況に応じて適応的に変化する成人の歩行の特徴を備えているということ。まあ、簡単に言えば、新生児の原始歩行は、その後にみられる成人の歩行と同じ、連続しているものと言えるわけだ。


 まあ、これだけ見てもわかると思うが、要素還元論での因果関係の見方は単純で理解しやすい。しかし、まるで人の体をロボットの様に仮定しているので、とても単純な説明をしてしまう。実際、「お湯につけると再び出現する」といった現象をうまく説明できないし、偏見による誤解を生んでしまうのかもしれない。 


 一方、「様々な要素感の相互作用」というシステム論の視点から見直してみると、上述のように丸っきり異なった説明が生まれてくる。まあ、その分、説明にたくさんの手間がかかるのだが。


 さて、くどいようだがもう一度まとめておこう。


 新生児にみられる歩行はその後の歩行と連続していて、状況変化に応じて協調された動きを生み出せる。つまり新生時期からの歩行のパターンは重力や下肢重量、筋力、学習経験などの様々な要素間の相互作用によって、その現れる状態が様々に変化するのである・・・あっ、やややっ、またウォーキングや体重変化の話から逸れたままではないかっ!・・・申し訳ない、次回は戻りますから(^^;))(その3に続く)


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