セラピストは失敗から学んでいるか?失敗と認知されない失敗(その2)
ここでは「変化の起きない訓練を繰り返す」ということの問題について考察するのに、最近読んだ本の内容を紹介したい。今回の議論に大きなヒントになるかもしれない。
「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」マシュー・サイド(Kindle版電子書籍か単行本)
本ではまず次のような内容が紹介される。手術や診断に失敗した医者が失敗を認めようとせず、「最善を尽くしましたが、期せずしてこういうことが起こるものなんです」などとその結果を正当化することはよく見られるらしい。
この言い訳をする医師が決して不誠実というわけではない。医師はまじめで真剣に患者さんのことを治そうと思っている。しかしそれを失敗だとは認めない。
一方、対照的なのが航空業界である。航空業界では事故やヒヤリ事例が起きると、徹底的に検討して事故やヒヤリ、すなわち失敗の原因を徹底的に探り、解決策が検討され、その結果はわかりやすい言葉で世界に公開される。皆が失敗から学び、次の失敗を回避することで安全な運行ができる分けだ。
しかし医学界には完全さの神話(「私は失敗しない」)のような理想主義があり、自分が失敗したとは容易に認められないらしい。これがあると、失敗を認める自分は「間抜けで医者として失格」のように思われる。
まあ人は誰でも「自分は頭が良く、できる人間だ」と信じることが多いので、目の前の失敗を認めると自らの存在に矛盾を感じてしまう。
そこで「失敗ではない。あれは非常に難しい状況だったので誰もが成功するはずのない例だったのだ、だから失敗ではない」と自分に説明するわけだ。
現実に医療の仕事は複雑な多くの状況が同時に繰り広げられていることが多いので、そのような言い訳をしたくなるのもよくわかる。1日何十人も診てそれぞれに個別性も高い。複雑さのレベルが非常に高いと言える。だから元々失敗して当たり前の職業なのだが、医師自体は上記の「失敗してはいけない」という強力な理想主義の枠組みに縛られているわけだ。
しかし、医師は失敗の存在を認めないので、結果的に失敗から何も学べないという。そして熟練した医師でさえも同様にいとも簡単に失敗してしまうし、むしろ熟練したあるいは社会的評価が高い医師ほど失敗を認めない傾向があるようだ。
実際、アメリカやイギリスの研究では、医療過誤は莫大な数だが、現場の医師はそれを認めていないそうだ。これでは航空業界に比べてなかなか改善は望めない。
しかし医療界でも医師が失敗と認めて改善に取り組んだ結果、大いに成果を出した例がこの本では紹介されている。それまでは「それは起きても仕方ない」と言われていたものが実際には大いに改善されるわけだ。
さて今回の例は、「セラピストが変化のない訓練を続けるが、これが失敗と認知されない問題」とは少し状況が違うか?ただセラピストの中にも失敗を認めないものは多い。かくいう僕もそうだった。自分のミスを認めるのは大変しんどいものである。
まだ結論は出さないで、もう少し別の視点を検討してみよう。(その3に続く)
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西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
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