不思議なこと!(前編)
片麻痺になって3年のAさん。
普段は杖歩行中に患側下肢に反張膝が見られます。
「患側下肢は麻痺のため十分に力が生み出せないから支持性が弱い。それで骨と靱帯で作られる制限を利用して膝関節を固定して体重支持をしているのだろう」と考えます。
Aさんは「娘が言うには、歩く時に膝がカクッ、カクッと止まって歩き方が変だから歩き方を治してもらいなさいというので治してほしい」と言います。
しかし「筋力がないので、反張膝で支えている。もし膝を半伸展位(半屈曲位)で支えようとすると膝折れが起きるのではないか?」と考えて、まずその姿勢が可能かどうか試して見ますと・・・できるのです。患側下肢の半伸展位で支えながら健側下肢を振り出すことが可能です!それなりに支持性があるようです。
「何だ!できるじゃないですか!その調子で歩いてみましょう!」
Aさんは最初の2ー3歩は慎重に患側下肢の半伸展位で支えるのですが、それを過ぎるとやはり反張膝で歩かれます・・・・それから色々試行錯誤してみます。両脚とも半伸展位で歩いてもらったり、杖ではなく手すりを持って歩いたりしてもらいます・・・
でも慎重にゆっくり歩く最初のうち膝は半伸展位で歩かれるのですが、すぐに反張膝に戻ります。それに手すりを持っていると良いのですが、杖になると元通り。悩ましい! 休憩時に椅子に座っているときに、ふと思いついて四頭筋の筋力検査をすると重力に逆らって全可動域動かせません。下腿に軽く触れるだけで、下腿は簡単に落ちてしまいます。
「これは、これは・・・」麻痺のため弛緩気味の脚は、間違いなく必要なだけの力を生み出せていないのです。でも立って膝関節を半伸展位で支えているのです!
「はてさて、どういうことか・・・・・?」
理学療法士になって小児施設や学校の教官で16年を過ごし、僕にとって初めて見た成人の片麻痺患者さんでした。「こんな不思議なことがあるのか!」と驚きました。歩行時の半伸展位での支持は確かにできています。でもその収縮力はどこから生まれているのか?たくさんのセラピストに聞いたり文献を探したりしましたが、明確な答えはありませんでした。
自分なりに仮説も立てました。「ある程度引き延ばされた筋が体重をかけながら収縮すると強く活性化されて狭い範囲で強い収縮力が出るのではないか?」とか「錘体外路系の収縮の利用か?」などです。座位や立位でいろいろと仮説を試して見ましたが思ったように上手く行かないし、Aさんも少し迷惑そうです。
ともかくAさんの依頼もあります。反張膝歩行の修正は続けます。「半伸展位での支持性は長く保たないのかもしれない」と考え、患側下肢を半伸展位のまま長い時間、健側下肢を様々な方向に踏み出す練習などもします。何週間もかけて患側下肢を半伸展位のまま歩く練習もかなり長くできるようになりました。
Aさんも患側下肢を半伸展位で支えることに自信を持たれるようになりましたが、それでも普段の歩行では反張膝歩行は治らず、「はあー、だめだねえ・・」とAさん自身が「仕方ないねえ、やるだけはやったわ!」と諦めてしまいました。
それはともかく不思議なのは麻痺の脚が歩いているときだけに強く収縮して体重を支えながら重心移動ができていることです。(後半へ続く)
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