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スポーツから学ぶ運動システム(その8)

目安時間:約 5分

スポーツから学ぶ運動システム(その8)


2. 単純な身体の使い方と複雑な身体の使い方


 野球の打撃を見ていると他の競技に比べて身体の使い方はとても単純である。


 たとえば打者はバットを構え、ボールがきたらそれを打つべく振るという身体の使い方だ。幼い子どもにオモチャのバットを持たせてボールを投げて、「打ってごらん」と言えば、スムースさや速度、力強さ、正確さには歴然の差はあるもののすぐにできる身体の使い方でもある。


 一方で体操競技の床運動などを見ると両脚で跳ねたかと思うと、前方に2回転しながら2回身体をひねって着地するというとんでもなく複雑な身体の使い方をする。これは少々練習したからと言ってできる身体の使い方ではない。優秀なアスリートだって「やってごらん」と言われても到底できるものではない。


 そうすると単純な身体の使い方をする野球の方が遙かに簡単な競技であるかというとこれまたそうとも言えない。プロ野球の世界、つまり子供の時からもの凄く練習してきた熟練したバッターでも3割を打つことは難しい。一方体操選手の方はちょっとした複雑な技でも、繰り返しの練習で熟練した技術を持ってすれば試合での成功率はもっと高いはずである。正確にはわからないが、3-4割程度の成功率の技で勝負するとは思えないからである。つまり身体の使い方が単純だからより簡単な競技であるとは言えないのである。


 これをCAMRの「状況性」という視点から説明してみよう。状況性とは運動がどのような状況の中で生じるかというもので、いくつかの視点があるが、ここでは状況の多様性と変動性という視点で考えてみる。


 たとえば体操の床運動では、競技者は重力下、床の上で運動を行う。場所は体育館内である。重力は狭い範囲では一定で変化はなく、床もどこをとってもほぼ均一で、一定の弾力と硬さを持っており床が上下左右に動くこともない。明るさや温度も大きく変化することはない。体操はこのように物理的には安定した環境で行われる。


 体操では、跳馬にしても段違い平行棒にしても固定され安定した道具を試用する。そしてあまり変化しない物理的環境内で、それら器具と身体との関係を保ちながら身体を動かす競技なのである。つまり運動の起きる状況とは物理的には多様性も変動制もとても少ない状態で行われるわけだ。(吊り輪だけは他のものに比べて可動性が大きく不安定である。もっとも天井に伸び縮みのない紐で固定されて、全く不安定とも言えないだろう)


 もちろん観客の存在やライバルの演技は、状況性に変化を与えるのは明らかだが、運動の起こる物理的状況性については野球とは比べものにならないくらい小さいのである。


 そして体操競技を課題として説明してみると「安定した物理的環境内で、一定の順序と速度と身体の位置をコントロールして複雑ではあるが、正確で速くダイナミックな動きを生み出すという課題」である。体操選手はこれに従って、何度も決められた手順を繰り返し練習するわけだ。この安定した物理的環境内という状況が、身体の複雑な動きを生み出す基礎でもある(その9に続く)


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


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西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①


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3分でわかるCAMR!改め、5分でわかるCAMR!前半

目安時間:約 4分

≧(´▽`)≦
みなさん、ハローです!



「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「3分でわかるCAMR!改め、5分でわかるCAMR!前半」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆


2013/5/26
3分でわかるCAMR!改め、5分でわかるCAMR! 
まずは前半2分30秒 (^。^)v 



 秋山です。ざっくり説明版、リニューアルです。
一応、中身変わってます。



 もう少し詳しくは、当facebookページのノート「CAの旅お休み処シーズン1」を、さらに詳しくはCAMRホームページをご覧ください。



 CAMRはシステム論に基づく、新しい運動の見方です。



特徴その1.「状況一体性」



 運動は状況の中から生まれます。そして運動は状況を変化させ、変化した状況は運動を変化させ・・・、と続き、人は状況に適した運動を生み出していきます。言われてみると、当たり前に思えます。路面の状況や気持ちによって歩き方が変わる、というのも、日常的な感覚として納得しやすいです。



では、従来の見方と何が違うのでしょう。従来は、人体を閉じたシステムと見て、運動は状況に関わらず身体の仕組みに従って現れると考えます。機械のように、ある正しい作動が存在する、と考えられているのですね。



 この違いが、「何を目指すか」の違いに繋がってきます。
特徴その2.「人は生まれながらに自律した運動問題解決者」



 私達は状況に即した運動を自分で作り出す力を持っています。これは病気や怪我で麻痺を負った方でも、そうです。ただ、結果が常に上手くいくとは限りません。やはり、何らかの援助(サポート、支援、お手伝い、などなど)は必要となります。



 では、セラピストは何をするのか。クライアントが本来の姿である「自律した運動問題解決者」として振る舞えるようにサポートしましょう、というのがCAMRの立場です。正しいやり方を教えるのではなく、クライアントが自分でやり方を決める(見つける、獲得する、などなど)ことの助けになるような課題を提供がセラピストの役目と考えます。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆


【CAMRの基本テキスト】

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スポーツから学ぶ運動システム(その7)

目安時間:約 5分

スポーツから学ぶ運動システム(その7)


 さて、今度はこれまでのことを僕達の臨床に当てはめて考えてみよう。


 脳卒中片麻痺後の体は、麻痺が広範囲に起きて大きな変化が起きてしまう。まるで自分の体ではないように感じてしまう。麻痺した手を動かそうとしても動かない。患側下肢に支持性が出てきて立てるようになった後、歩く課題を出すと麻痺した脚を振り出すことはできない。


 患者さんの希望は歩けるようになって家に帰りたい、だ。


 そこであなたは平行棒を持って立っている患者さんに「何とか悪い方の脚を振り出して」という課題を出してみる。患者さんは、いろいろ体を動かしてみる。身体の中にある使えそうな運動リソースを探索し、試行錯誤して何とか麻痺脚を振り出すための体の使い方を見つけようとされる。


 だが上手く行かない。あなたは徒手で患者さんの体幹や股関節の柔軟性を改善する。それから立位時で脚を振り出す練習の時に、麻痺側の靴先に靴下の先っぽを切った袋をかぶせてあげよう。これによって爪先の摩擦を軽くしてあげるのだ。セラピストが身体リソースを改善し、新たな環境リソースの使用を提案する訳だ。


 また「健側へ重心移動して体幹を反らせる」という課題を出してみる。リソースや課題を工夫して何とか脚が振り出せるようにするのだ。これらによって患者さんは下肢が滑り出すことに気がつかれる。


 こうやって「麻痺脚を振り出す」という課題がなんとかできるのでこのスキルは繰り返され、やがて洗練されていく。最初は体幹の伸展側屈による振出がメインだったが、繰り返すうちに、麻痺側下肢を振り出す時に、麻痺筋の弱い収縮でもタイミング良く使えることがわかってくる。次第に使える身体リソースが増えてきて、全体の運動スキルはより効率的になってくる。そして「分回し歩行」の協応構造ができてくるのである。訓練室の平行棒を使った「分回し歩行」はやがて安定してくる。


 すると今度は「パイプ椅子の背もたれや杖を持って分回し歩行」という課題に移行する。杖のような不安定なものでも上手く分回し歩行ができるようになると、今度は杖で屋外歩行などを行う。アスファルト面では、これまでのように患側下肢を滑らすような振出ではつまずいて危険であることに気がつくので、より患脚を持ち上げて振り出されるようになる。最初は意識していても、そのうちになにも考えずに滑りにくい床面では自然に脚を高く振り上げられるようになる。急ぐときにはより遠くへ脚を振り出されるようになるし、濡れて滑りやすい床面では、振出を小さくしてよちよちと歩かれるようになる。


 ボーンスペースを用いて回りの物理的構造、特に床面の状態、回りの人達、杖と床の固定力、また靴や服の感じ、麻痺肢の支持性や動く程度、置かれた状況など心身の状態などを把握しながら、環境や状況に相応しい「分回し歩行」の調整ができてくるのである。これが「課題達成時の知覚情報の予期的利用」のスキルとなる。


 臨床で新しい運動課題を達成するためには、この二つの段階があることになる。「協応構造の探索、試行錯誤、洗練」と「知覚情報の予期的利用によって協応構造を調整する方法を学ぶこと」である。


 協応構造は「繰り返し課題」で、知覚情報の予期的利用により協応構造の調整は、「課題を様々な状況で行う試行錯誤課題」によって達成される。臨床ではこの二つが必要なだけ行われるよう配慮する必要がある。(その8に続く)


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3分でわかるCAMR!後半

目安時間:約 4分

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今回は「3分でわかるCAMR!後半」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



3分でわかるCAMR!
後半1分30秒、いってみよー!



 秋山です。続きです。
 もう少し詳しくは、当facebookページのノート「CAの旅お休み処シーズン1」を、さらに詳しくはCAMRホームページhttps://rehacamr.sakura.ne.jp/をご覧ください。



CAMRの特徴その3
「運動リソースと運動スキル」



 運動問題を上手く解決していくには、利用可能な資源や手段である豊富な運動リソースと、それを状況に応じて使っていく多彩な運動スキルが必要です。



 運動リソースは、身体リソース(筋力や持久力、柔軟性など)と環境リソース(環境内の「もの」や「人」など)に分けられます。本来、人の運動システムは「余剰なシステム」で、十分すぎるほどのリソースを持っています。使う分だけではちょっとした変化に対応できなくなるので、運動リソースはできるだけ豊富な方が有利です。



 運動リソース単独では運動を行えません。使い方である「運動スキル」と一緒になることで、状況に応じた運動が発現します。いろいろな経験を繰り返す中で、運動スキルは洗練されるとともに初めての課題に対しても見通しを立てられるようになります。初めての状況下でも結構上手く運動問題を解決しますよね。



特徴その4
「セラピストは課題を設定する」



 このように運動を捉えてみると、運動のやり方を教えることはできないことに気づきます。セラピストが正しい方法を教えてクライアントがそれを学習するのではないのです。クライアントが主体的に試して練習できるように、セラピストは挑戦的で達成可能な、現実的な課題を提供するのが役割となります。



 駆け足のCAMR概観でした。ちょっとオーバーしましたかね?



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆


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スポーツから学ぶ運動システム(その6)

目安時間:約 7分

スポーツから学ぶ運動システム(その6)


 昔リハビリの養成校の教官をしていた時、三つ玉のジャグリングを運動学習の課題として使うために自分でも練習していた。最初は課題達成のために視覚情報が重要な役割を果たしているのは間違いない。見ないととてもできないからだ。しかし慣れてくると短い間なら見なくてもできるようになるのである。つまり視覚に頼らなくてもいつのまにか身体感覚だけでジャグリングができるようになる。


 どんな運動でも全身を使うものだ。従ってどんな運動学習においても常に全身のボーンスペースを通して運動課題を達成するための知覚情報の利用方法を学習していることになる。つまりスキルが熟練するとは、多種類の知覚情報を基に課題達成のための運動スキルの実施が可能になるということだろう。つまり視覚情報でもできるが、視覚情報がなくても一時的には固有各情報などでもコントロールできるようになるということだ。


 さて、これまでをまとめると、運動学習とは次のように理解することができる。


 新しい運動、新しい課題達成方法を学習するためには、まずその課題達成方法がある程度安定してできるような協応構造を探索し、試行錯誤し、安定させる必要がある。これが第一段階。(協応構造探索の段階。ある程度安定した運動を生み出せる段階)


 そしてその安定した協応構造を基に、課題達成時の知覚情報を利用して、課題達成を状況に応じて柔軟に変化させて課題達成の方法をその時、その場で生み出すための知覚情報の予期的利用に関するスキルを磨き上げて行くのである。これが第二段階。状況は常に変化するため、運動スキルの維持にも継続した練習が必要。


 たとえばバスケットボールのフリースローを例にとって考えてみよう。あなたは初めてバスケットボールを持ち、ゴールに向かって投げることになる。経験者のフォームを真似て、右手でボールを下から持ち、左手で側面を支えて、頭の前でボールを構えてみる。そして投げてみる・・・ボールはまっすぐには飛ばないし、全然ゴールにも届かない。手脚の動きもぎこちなく、バラバラに動いている感じである。


 経験者が「手だけでなく、膝を使って全身で伸び上がるように」と手本を見せてくれる。そこで真似をしてみると飛距離は伸びて、ゴール近くまで届くようになる・・・・しばらくすると手首を使うように言われてこれまた真似をして始めてみる・・・・最初は腕をメインに使って、体の動きや手首の動きもバラバラだったが、次第に下半身のバネと手首が連動して、一つの動きとして安定してくる。つまり協応構造が芽生えてくる。


 こうしてこのフォームでボールを投げ続けると、次第に体が自然に動くようになりゴールにボールが当たることも増えてきた。一人一人の運動システムの物理的性質は異なっているので、人とは違ったあなたらしいフォームができてくる。これが協応構造のできあがってくる過程だ。


 しかしボールはなかなかゴールに入らない。ボールがただゴールに届くだけではダメなのだ。あなたは全神経を集中してゴールに向かうようになる。それまでは自分の体の動かし方が気になっていたのだが、やがて体にはそれほど注意が向かなくなる。これまでの運動学習理論では「自動化の過程」と言われたものだ。 体の動きが気にならなくなると、自然と注意はゴールとゴールに向かうボールに向くようになる。上手くゴールできたときの体の感覚にも気がつくようになる。ひたすらこれを繰り返す。


 フリースロー練習だけでは物足りなくなってくるので、コート上の様々な角度、距離からもシュート練習を行う。最初は上手く行かないが、やがて距離や角度が異なってもそれなりにゴールに近いところにボールをコントロールできるようになる。これをひたすら繰り返す。


 こうして1球目には失敗しても、2球目、3球目にはゴールする確率が高くなってくる。結果を見て修正することができるようになったのである。これが「課題時の知覚情報の予期的利用」のスキルである・・・・ さて、これらの中で経験者のアドバイスと呼ばれるものが、CAMRではセラピストが現場で使う「運動課題」となる。CAMRではセラピストは課題の提案が、一つの重要な役割である。課題は言語、身体模倣、徒手を含む介助、環境設定を通して伝えられる。


 そして一人一人の運動システムの物理的性質は異なっているため、セラピストは対象者の物理的性質を探索し、試行錯誤しその個人に合った運動課題を修正する必要がある。


 以前は運動学習では「一つの正しい運動を繰り返す」ということも言われていたが、実際には「繰り返し」と「試行錯誤」がその本質である。(その7に続く)


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