新しい視点を身につけることの難しさ(その2)

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新しい視点を身につけることの難しさ(その2)

 前回、「あなたは伸張反射や原始反射などの亢進を悪いことではないと言っているみたいだ。でもこれらは正常な運動の出現を邪魔するので、まず抑制するべきです!」と批判されたことを紹介した。

 前回この意見の矛盾点を説明しようと思っていたが、書き進むうちに別の展開になったしまった(^^;)今回説明してみようと思う。

 最初に簡単な例を紹介する。大森莊藏という哲学者が次のようなことを言っている。

 稲妻がピカッと光って、ゴロゴロと雷鳴がなる様を古代の人達はどう思っただろうか。おそらく「ピカッと光るのが原因で、ゴロゴロ鳴るのが結果である」と考えたのではないか。

 だがこれは間違った因果関係である。本当の原因は雲の中の摩擦電気の放電が原因である。その結果、ピカッと光る稲妻もゴロゴロなる雷鳴の2つともが結果である。つまり古代の人は結果同士に間違った因果関係を想定しただろう。

 もうお気づきだろうと思う。神経生理学者のジャクソンは、「低下・消失した正常な運動」という陰性徴候も「伸張反射や原始反射の亢進」という陽性徴候も、脳の細胞が壊れたことを原因としてうまれた症状である。つまり両者共症状、つまり結果である。

 もしジャクソンの神経生理学を信じているのなら、「亢進した伸張反射や原始反射が、正常運動の出現を妨げている」という因果関係の説明は、結果同士の間に間違った因果関係を想定していることになる。

 この間違った因果関係の想定を信じているので、僕の言っていることは間違いだと信じているらしい。

 ただこの因果関係の想定を信じる臨床的な経験があることも知っている。まさしくCAMRで言っていることだが、脳性運動障害ではまず弛緩状態が観察される。弛緩状態では動けないので弛緩した部分を身体にある様々なメカニズムを使って体を硬くするとい「外骨格系問題解決」という問題解決を図っているわけだ。

 体を硬くすると言うのは弛緩状態から動き出すための問題解決で、それによって支持性が出るし、弛緩部分を1つの塊として引きずってでも動くことができるわけだ。

 しかしこの問題解決にはブレーキにあたるものがない。それでドンドン硬くするという問題解決の作動を繰り返して過緊張状態を起こし、却って運動が低下・消失し、血流が悪くなり痛みや不快感を生んでしまうという新たな問題を生み出してしまう。

 これはCAMRでは偽解決状態と呼ぶ。この過緊張状態は直接の症状ではなく、障害後に運動システムの問題解決の作動が繰り返されすぎた結果として生まれた現象である。

 だからこの過緊張状態を抑えて柔軟性を改善すると、運動範囲が広がり、重心の移動範囲も広がって、よりスムースで大きい運動が現れるわけだ。

 この場合は弛緩状態に対する運動システムの問題解決として体が硬くなり、その結果動きが悪くなっているので、因果関係は成立している。

 だがそれを「正常な運動が出現した」と呼ぶのはおかしい。本来持っている、あるいは残存している運動能力が発揮されたわけだ。

 講義の中ではこんな説明をしているし、動画も見てもらっているのだが、どうも最初に「間違っている」と考えてしまうので、CAMRの考えは全く頭に入っていない様子である。

 思い込みや先入観とは言っても「学校で最初に教えられたことは、とても強力であるなあ!」と感心してしまう次第である。

 まあ、新しい視点を身につけることはやはりむずかしいなあ、ということである(^^;)次回に続くと思います。(その3に続く)

※No+eに毎週木曜日は、別のエッセイを投稿中!最新の投稿「運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その3)」https://note.com/camr_reha

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