新しい視点を身につけることの難しさ(その1)

目安時間:約 6分

新しい視点を身につけることの難しさ(その1)

 講習会でシステム論の説明をしていると、一向に理解してもらえないことがある。説明が下手といえばそれまでだが、どうも話を聞いた上で納得できないと言われる。 

詳しく話を聞いてみると、「(僕の)言っていることが間違っている。間違いを前提に話をしている」などと言われてしまう。

 「どこが間違っているの?」と聞くと、「あなたは伸張反射や原始反射などの亢進を悪いことではないと言っているみたいだ。でもこれらは正常な運動の出現を邪魔するので、まず抑制するべきです!」などと言われる。

 なるほど、ジャクソンの階層型理論や陰性徴候、陽性徴候を基にした神経生理学を学校で教えている。階層型理論では、中枢神経系は、上位、中位、下位レベルと階層を作っていて、伸張反射や原始反射は下位の脊髄レベルの機能であってこれが亢進するのは、上位レベルのコントロールが失われた下位レベルの解放現象だ、みたいな説明がよくされる。

 これは驚くべきことだろう。ジャクソンの階層説は19世紀の後半に提案されたもので、今から130-140年前のものである。単に古いということもあるが、「臨床でもこの説明の矛盾する現象は割と見られているのに、疑問に思わないのだろうか」などと思う。

 一つの例を挙げると、立ち上がると患側下肢が屈曲してしまい、健側下肢だけで立っている患者さんがいる。これは従来「患肢に屈曲共同運動が見られる」などと陽性徴候として説明されてきた。下位レベルの解放現象だ、だから抑制しないといけない、と。

 しかしこんな患者さんの麻痺側下肢にプラスチックの短下肢装具を装着して一度荷重練習すると、たちどころに「屈曲共同運動」なるものは消えて見られなくなることも多い。

 そうすると「足関節が補装具によって正常なアライメントに保たれるので、正しい運動感覚学習によって屈曲共同運動が抑制されるのである」などと説明される。なるほど、頭が良い・・・・(^^;))

 しかしシステム論を基にしたCAMRでは次のような解釈を行う。麻痺側下肢に内反の変形が生まれていて、その内反の足で体重支持しようとすると転倒しそうになる。そこで運動システムが問題解決として、患側下肢を支持に使わないように屈曲しているのではないか。

 つまり運動システム自身が「使わない」という問題解決を図って、屈曲して持ち上げているのではないか。プラスチック装具を装着して荷重するとちゃんと荷重できることが運動システムにわかるので、不使用の問題解決を自らやめて荷重するようになるのではないか。

 こんな解釈もできるはずである。まあ、一つの可能性である。しかし、それについて何ら検討もすることなく、「それは事実に反する」などと反論を受ける。 「ジャクソンの階層型理論は現在の神経学の基礎になっているように、真実だからだ」と言われたりする。

 つまり階層型理論かシステム理論か、「どちらが真実か?」という視点で、「階層型理論の方が真実である」と信じ込んでいるように見える。

 たが基本的に階層型理論にしてもシステム論にしても、運動変化を説明するための仮説に過ぎないものだ。どちらが真実かは僕にはわからないし、どちらの仮説にも矛盾点は見られるし、上手く説明できないところもある。

 だからCAMRでは次のように考えることにしている。臨床家にとって理論とは、ある現象を説明するための道具である。つまりその理論によって現象を理解し、問題解決方法を導くための道具である。

 道具だから使い道に違いがあるのが当たり前である。フォークは刺して食べるのに便利だが、スープを飲むときはスプーンの方が向いている。状況に応じて使い勝手の良いものを選べば良い。

 それに道具だと思えば、真実かどうかを気にすることはない。「このスプーンは真実である」などというのはナンセンスだから・・・・

 だから視野を広めるために、どちらの理論も理解して、状況によって使い分けたらどうかと提案するのだが、なかなかこれは受け入れられない。

 まあ、その気持ちも良くわかる。長い間、同僚や後輩に向かって説明してきたアイデアである。今さら「それは仮説だから真実かどうかはわからない」などと言えるはずもないだろう。これまでの自分を否定することになるからだ。それで、自分がこれまで築いてきた考えや知識を脅かす新しい説明、新しい理論を受け入れることはできないのである。これはまあ自然の感情である。

 ではどうしたら良いのだろうか?何度も説明を聞いて納得する方もいるが、頑として途中から説明を聞くことを拒否する人もいる。「言葉を尽くして説明する」ことも難しくなる。僕も口下手だし、頭も良くないのでなかなか説得力のある言葉にならない・・・・

 今回のシリーズはどんな感じになるわからないが、ともかく思いつくままに考えを巡らしてみようと思う。(その2に続く)

※No+eに毎週木曜日は、別のエッセイを投稿中!最近の投稿「自律的問題解決とは?(その1)」https://note.com/camr_reha

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