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今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(その6:最終回)」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMR超入門 よく目にする光景(その6:最終回)2014/2/7
人の運動は状況に応じて変化します。たとえば家の中を歩くときあなたはリラックスして歩きます。しかし急に停電になって部屋が真っ暗になるとあなたは身体を硬くし、足や手で回りを探りながら歩きます。氷の上ではおそるおそる足を進め、向かい風に向かって身体を前のめりにして歩きます。狭い場所では横向きになって通り過ぎます・・・
つまり人は状況が変わってもなんとか「歩行」という機能を維持しようとします。
一方オモチャのロボットは平らなテーブルの上では歩いているように見えますが、ちょっとしたこと、たとえば十円玉を踏んで倒れたりします。そして先ほどまで歩いていたと思われる運動を正確に繰り返します。
結局人の運動システムは、状況に応じて形を変えてでも、必要な機能を自律的に維持するという性質を持っています。逆にオモチャのロボットは、機能を維持するのではなく特定の運動の形を維持するシステムです。同じように「歩いている」といってもシステムはまったくの別物です。
だから歩行訓練のために「形を憶えてその形を再現する」などという訓練目標はもともと人の運動システムには向いていないのです。歩行の特定の形の再現を求めることは、人の運動システムをオモチャのロボットのように考えているからです。
「状況変化に応じて形を変えてでも機能を維持できる」ことを訓練の目標にしなくてはいけません。そのために何をするべきか、何ができるかを考える必要があるのです。そしてCAMRはこの文脈から生まれたアプローチです。
システム論を知るということで世界観が変わりました。システムを形や構造ではなく機能で見ることでCAMRは生まれてきました。(これらのアイデアについては上田法ジャーナルに掲載したエッセイをHPに載せています)
唐突ですが、CAMR超入門はこれで最後です。最初の方から何が「超」でなにが「入門」なのか良く考えずに書いていたので、最後まで「超」でも「入門」でもなかったですね。申し訳ない。ここまで付き合ってくださった皆様、ありがとうございました。
文責:西尾幸敏
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④
西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤
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意欲のない人(その10 最終回)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
携帯電話の向こうから裕美さんはいつもの勢いで話し始めた。
「娘さんから話を聞いた?ごめんなさいね、うちの先生の勘違いでね・・・娘さんと別れた後ですぐに先生のところに行って話をしたのよ。どうも先生、おかあさんを認知症の方だって思い込んでたみたいで。娘さんから薬の副作用の話を聞く前に、失禁は認知症のせいだって言っちゃったんだって。私からおかあさんの説明をしたら納得して凄く反省していたわ。早速色々調べてたわ……
でね、どうも直接失禁の原因と明確に言い切れる薬はないようよ。もちろんいろんな組み合わせもあるからなんとも言えないらしいけど。でも最近の状態を私が詳しく伝えて、不要と思える薬もあるし、少し検討して薬の内容を整理してもらえることになったわ!まだいろいろ話もあるだろうけど、またね!」
機関銃のように話しまくって電話は切れた。
どうやら薬の副作用の件は期待外れだった。少しガッカリしたが、まあ、薬も少し変更されるそうだし、これで計画した大半の状況変化の手段をやり終えたな、と安堵のため息をついた。しばらくはひたすら待つだけだ。
2週間後、おかあさんは新しいデイサービスに通い始めた。この頃、一人で過ごされるときに一度も失禁がない日が見られるようになったとのこと。以前のような状態に戻ってきたようだ。
それからまた2週間後、裕美さんと一緒にまたお家を訪ねた。室内はまったく別の部屋かと思うくらいきれいになっている。テーブル回りは基本的に配置や置いてある家具は変わっていないのにまったく別の印象だ。以前は尿臭が漂っていたが、今は臭いもしない。カーペットが同じ色調だが新しくなっている。
娘さんの旦那さんの手作りの着替え用の椅子や蓋付きゴミ箱なども使いやすそうだ。見かけも良い。
以前の手すりは壁との隙間が狭く使いにくかったが、新しく壁から大きく張り出した手すりがついていて、今ではおかあさんはそれを使って歩いたり体操をしているそうだ。この手すりも着替え用のコーナーも以前、娘さんと計画したものだ。その時は業者さんに入ってもらうと話していたが、結局旦那さんがおかあさん達と相談しながら作ったとのこと。
その娘さんの旦那さんも今日は来ていた。明るく挨拶してこられたのでこちらもできるだけ愛想良く挨拶を返す。「良い人で良かった。今回の件はお父さんの参加が大きかった」と心の中で感謝した。
娘さんが嬉しそうに話す。
「これまでは週2回2泊してたんですけど、おかあさんと相談して週2回、日帰りで来ることになったんですよ。また以前のように一人暮らしをする気力が出てきたみたいでよかったです。全部先生のおかげです」
「いえいえ、頑張られたのはあなたと旦那さんのお二人です。本当にご苦労様でした」何とか機会を捉えてお二人を労うことができたので少しホッとした。
しかし正直驚いた。旦那さんの参加や薬の変更、デイサービスにも少しずつ慣れて楽しく過ごしているという。なんだかトントン拍子にいろんなことが進んでいて、こちらが面食らってしまう。
裕美さんも俺を紹介したことで娘さんからすごく感謝されていた。どうやらこれで俺も面目を保てると思った。
娘さんと旦那さんと裕美さんで、ワイワイ賑やかに話をしている。旦那さんの部屋の模様替えの奮闘話らしい。
俺はそばで聞くともなしにこんなことを考えていた。「今回はラッキーだった。ちょっと押しただけで、幸運にもいろんな良いことが雪崩の如く起きたんだな・・・・いや、俺は今回ばかりか、いつも幸運に恵まれている。いつも何か幸運が起きて上手くやってきたな・・・・ところで今回は何が原因でこんなに上手くいったんだ?部屋替えか、新しいデイサービスか、ささやかな体操か、薬の変更か?・・・・・まあ、良い。どうせ考えてもわからない。
だがこのおかげでいつも最後はモヤモヤもする。いつも何が効果的だったかはわからない。ただ一度にたくさんのことをやってみたというだけだ。問題は解決しても、すっきりしないのは『犯人はお前だ!』という推理小説でお馴染みの結末がないからだな。皆が胸ときめかせるあの瞬間がないのだ。システム論を基にした状況変化のアプローチは、いつも最後、こんな感じになってしまう。リハビリ探偵と呼ばれても、こんな話では誰も面白がらないし、小説にはならないだろうなと思う・・・・まあ、良い。リハビリ探偵の役割は、犯人、つまり問題の原因を見つけることではなく問題そのものを解決することだからな・・・」
「ねえ、新畑さん!」と裕美さんが突然話しかけてきて、我に返った。「ああ、そうですね」と何が何だかわからないまま間抜けに答えた。「まあ、新畑さん!また人の話を聞いてなかったわね!」と裕美さんが怒ったように言う。可愛い人だ。そして俺も話の輪に加わった。(終わり)
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今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(その5)」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMR超入門 よく目にする光景(その5)2014/1/29
システム論を知ってから、もう一つ新たに気がついたことがあります。それは根本的アプローチを追求する中で、いつのまにか自分が理想に囚われていたことです。健常者の歩行をモデルに繰り返し、「いつか健常者の歩行ができるように」という理想的な目標に囚われていたのです。
その目標はその当時、僕自身にも達成可能が疑わしいものでした。でも「目標は根本的な解決を目指す。それは困難で簡単な道のりではない。日々の努力を何年にもわたって続ける必要がある」と考えたりしていました。友人から「そんなことできないだろう」と言われると「それがどうした?諦める奴はそこでお終いなんだよ。俺は諦めが悪いのさ(どう、俺ってタフだろう?)」などと内心思っていました。
そしてクライエントに諦めないで努力を続けるよう励ましていました・・
でもシステム論を知ってから、健常者の歩行に近付くことこそ良いことだという思い込みはおかしいと思うようになりました。それは熊谷さん(「リハビリの夜」の著者。当ページのノートでも紹介中)が言うように多数派から少数派への同化思想だったのかもしれません。「障害者が努力して健常者に近付いてくることが当たり前」という考えに囚われていたのかもしれません。
この考えに囚われていると、自然に努力のほとんどをクライエント自身に求めてしまいます。身体機能の低下から起きたADL問題なら、できるだけ身体機能を改善して、クライエント自身にADL問題を解決して欲しいと考えます。
また「高い理想を持ち続け、諦めないで努力する過程に価値がある」と考える傾向があります。だから達成できなくても、「俺は素晴らしい目標に向かっているのだ」というそれなりの満足感があるのです。また達成できない理想を実現可能な目標に引き下げようとすると、そのこと自体を「敗北」と感じてしまいます。
しかし「理想は簡単に達成できないから・・」と解決を先延ばしにすることは、実はクライエントにいつまでも問題を抱えて我慢してください・・と言っているようなものです。
本当はクライエントは「問題を早く解決してください」と言ってきているのだと思います。それなのにセラピストの理想をクライエントの理想と勘違いし、押しつけ、励まし、いつまでも問題解決を放っておいたのだと思います。とても反省しています。
今では僕の仕事はまず問題解決だと思っています。問題解決は途中の努力や掲げた理想は無意味で、結果こそが求められます。努力を続けたところで、実際に問題が解決されなければ、クライエントはずっと問題を抱えたままだからです。
問題を先延ばしにすることはできません。通常なら誰しも問題は早く解決したいものです。だからできるだけ早く解決できるよう手助けしたい。
さらにクライエントの望むような問題解決は不可能なことも多い。この場合「それは無理ですよ」と答えて済ますわけにはいかない。クライエントが希望する問題解決が無理でも、なんとかその苦労を軽減できるような他の解決案を提案しなくてはいけない。他の実施可能な手段を考え出したり、目標を達成可能な形に修正もします。問題解決にとって重要なのは「問題を少しでも早く、少しでも軽くするという結果を出すこと」なのです。
しかしその道は困難で、上手くいかないことが多いです。でも以前のように「理想の世界」へ逃げこむわけにはいかないのです。(その6に続く)
文責:西尾幸敏
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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意欲のない人(その9)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
翌日、娘さんに電話を入れた。
「新畑さん、色々教えてくださって本当にありがとうございました!」声が弾んでいる。
昨晩裕美さんから聞いていた内容だったが、一通り聞いた。
「何度もありがとうございました」といわれる。
その後やっと内科受診の結果を聞くことができた。
「それがダメだったんですよ」と答える。彼女の声は沈んでしまった。
「母の失禁の話をしたら、『それは歳だから仕方ないです。認知症があるのでこれからもずっと続くでしょう』って言われてしまって」
「ああ、それはひどい。おかあさん、認知症なさそうですもんね。これまで見てもらっていた先生なんですか?もし良ければ、他の内科なりを受診してみたらどうでしょうか?」と提案してみる。
「それがずっと診ていただいている先生で。良い先生なんですよ、母も信頼していて・・・だから先生を変えるというのはちょっと・・・それにケアマネさんもその病院からきておられるんです・・・・ケアマネさんもとても良い人で頼りになるんです。だから病院を替えるのは良くない気がして」
やれやれ、やはりこんなことになってしまう。原因を探してその原因にアプローチしようとしても現実にはなかなかうまく運ばない。特に俺のように飛び込みで馴染みのない地域や施設で仕事をすると、元々の人間関係ができていないのでこの手の「連携の壁」がいつも問題になる。
俺は元々人付き合いが苦手だ。初対面ではあまり話ができないし、仕事上の関係を作るにしてもかなり時間をかけないと話ができない。見ず知らずのところへ飛び込んで話をする関係を作るなんて考えただけで億劫になる。
こんな行動力のない人間が、問題解決の依頼を受けるなんて仕事をしていることが不思議である。まあ、望んだわけではなく成り行きでこうなってしまったのだ。
娘さんが続ける。
「それでも、ここまでで少しずつ母に変化が出てるんです。今日も私が言わなくても自分から2回トイレに行きました。でもどうしても半分くらいは漏れちゃうみたいで。でも先生に言われたようにそれについてはうるさく言わないで、トイレに行ったこと自体を喜ぶようにしています」声に元気が出る。
「ええ、そうですね・・・」と答えたものの後の言葉が続かない。次はどうすれば良いのか?
「ええと・・・裕美さん、あ、ケアマネさんですけど、彼女には受診の結果、もう話されたんですか?」
「ええ、受診が終わってすぐにとなりの事務所で会いましたので」
そうか、もう話したのか・・・確か、以前、裕美さんが「うちの先生、本当に良い人だし、熱心なんだけど、頭がちょっと硬くて困ったりするのよね」なんて愚痴っていたのを思い出す。
その後、
「今は状況変化がうまくいっているのでこのまま続けてください、また1週間後に連絡します。困ったときはいつでも連絡してくださいね」と話して電話を切った。
さて、困った!・・・困った!まずは裕美さんに相談すれば良いのだが、問題が裕美さんの雇い主となれば・・・・
それともいっそのこと、第二プランの精神科受診を勧めてみるか?もしかしたらその先生が物わかりが良くて、薬の検討をしてくれるかも・・・・などと考えてみる。どうも俺は自分に都合良く考える癖がある。こんなことだからよく失敗してしまうのだ。
行動力もないし、コミュニケーションの能力も低いし、判断力も良くないし決断力もないし、人付き合いも良くない。なんでこんなことをやってるんだろう、とつくづく思う・・・・まあ、引き受けたんだから仕方ない。
おかあさんの振る舞いの変化は起きているが、失禁に伴う生活問題の改善は少々だ。これが現在の状況だ。内科の主治医が問題だが、裕美さんの雇い主である。やはり精神科の受診を勧めてみるのが一番楽な状況変化の方向性か?それとも・・・・・・ 俺はしばらく考え込んだが、結局ケアマネの由美さんに電話して、とりあえず相談してみることにした。できれば医師を説得してくれるようお願いもしたい。裕美さんに余計なお願いをするのは気がひけるが仕方ない。スマートフォンを手にした途端、着信音が大きく鳴ったのでびっくりした。画面を見ると裕美さんからだ・・・(その10に続く)
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CAMR超入門 よく目にする光景(その4)2014/1/25
「根本原因にアプローチしている」という満足がある一方で、「本当にこれで良いのか?これしかないのか?」と思っていた頃にシステム論に出会いました。しかしシステム論に出会ったときの最初の印象は戸惑いでした。
システム論で言っていることを、身の回りの身近な生活経験に置き換えてみるととても当たり前のことでした。たとえば「人の歩行の形は状況に応じて変化する」と言うことです。たとえば人混みの中を急いで進むとき、人の歩行の形は一瞬一瞬に変化します。横向きになってすり抜け、歩幅やリズムを急激に変化させます。当たり前のことすぎます。こんなことは既によく知っていて、言葉にすらする必要がなかったのかもしれません。だけど改めて言葉にしてみると、とても戸惑いました。
というのも僕達は一方で「人の歩行には正しい形がある」と学校で習ってきているのです。これもまた至極普通のことと感じていました。健康な人は皆一様に似たような歩き方をします。また多少の状況変化があってもその人らしい歩き方を維持します。歩行に関して決まったの枠組みのようなものが見てとれます。だからなんとなく健常者には基準となる「正しい歩き方の姿形」があるのだと思っていました。
だから障害を持った人を見ていると、健常者の正しい歩行の形から「ずれてしまっている」と考えてしまいます。だから健常者の正しい歩行の形にできるだけ近づけようとします。もちろん障害を持った人がそれを望むから、と言うのもあります。大抵皆さん「元気な時のように普通に歩きたい」と言われるのですから。
実際片麻痺の方の分回し歩行を見ると「健常者とは違う異常な歩き方」と感じ、その方から「普通に歩きたい」と言われれば、できるだけ健常者の歩き方に近づけないか、と試みていました。たとえば「このタイミングでこの部分の筋肉が働いていない。なんとかこのタイミングでの筋の活動性をあげられないか」とかです。まあ、長い目で見ると形を治すのは上手くできませんでした。安定性や歩行速度を上げることはできるのですが。
ただそのうち、システム論の見方の方が自然に僕の中で強まってきました。次第に麻痺のある方が、健常者とは違う歩き方をするのは当たり前と思うようになってきました。だって健常者だって腰痛があれば、できるだけ痛くないように歩行の形を変えます。なぜ麻痺のある方が健常者と同じ歩き方をしないといけないのか、と。
そうすると今まで「異常」と思っていた歩行の形が実は数ある正常な歩行の中の1つに思えてきます。人というのは片麻痺になってしまうと、残った運動リソースを利用してそのような運動スキルを発達させるのだ、と。それは異常なことではなく、とても自然のことである、と思うようになってきました。(その5に続く) 文責:西尾幸敏
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