システム論の話をしましょう!(その14 番外編)

目安時間:約 7分

システム論の話をしましょう!(その14 番外編)

 今回のエッセイは次回終わる予定ですが、その前に少し伝えておきたいことがあります。

 今回のエッセイはシステム論の3つの分類を通して、リハビリに使えそうなアイデアを紹介しましたが、駆け足だったので有用なのに説明していないアイデアがまだまだたくさんあるのです。特にテーレンの動的システム論とリードの生態心理学に関するものです。(本当はベルンシュタインも説明した方が良いのですが、今シリーズではまったくスルーです(^^;))

 そこで、紹介していないものも含め、今回主なアイデアについて簡単にまとめておこうと思います。(早い話、僕の覚え書きメモです)各アイデアは番号を打ってタイトル、内容をシンプルに記し、その下の矢印以降に僕の感想などを入れています。

 最初の()内にあるテーレンはE. Thelen & L. Smith「発達へのダイナミックシステム・アプローチ 認知と行為の波発生プロセスとメカニズム」よりのアイデア。リードはE. S. Reed「アフォーダンスの心理学 生態心理学への道」よりのアイデア。

1. (テーレン)自己組織化: 行為と認知は創発的なものであり設計されたものではない。自己組織化とは決して魔法ではない。それは私たちの物理的及び生物学的世界のほぼ全てに内在する非線形性ゆえに起こるのである。非線形性(位相変位ないし相転移)は非均衡システムの特徴である

 →非線形とは滑らかで連続した変化ではなく、突然別の相に変化するもの。運動変化は連続したものではなく、ある閾値に達すると別のやり方(質?)の運動に変化する。スポーツのような一瞬一瞬の運動変化であれ、それより長いスパンで起こる運動学習、あるいは運動発達にしても運動変化とは運動の質の変化が非連続に起こる。その時の状況に応じて運動は創発、あるいは選択されるから。

 →脳卒中後に杖歩行をすると、ランダムに起こっていた杖や両脚の振り出しが突然3動作歩行に組織化されたりする。もし最初からセラピストが杖歩行のやり方を支配的に指示しているとなかなか気づかないで、連続した変化と理解するかもしれない

2.(テーレン)課題特定的:運動は(頭の中のスイッチによってではなく)課題によって特定される。課題達成の運動は課題それ自体によって組織化される(関節結合系・筋膜系・筋-腱膜系、循環器系、神経系など異なった系の間には相互の関係性が存在し、課題達成を通じて協調されてくる。ある要素・部位の働き・役割は状況によって変わってくる)

 (リード) 「神経系は機能特定的」:神経系は、選択過程として機能する。行動の分化・変化の生物的基礎は、選択上の諸制約にこそあり、神経のメカニズムにあるのではない。行動の選択圧は環境内での動物の行為の実際の結果に由来するので、内的な神経パターンや動物の運動パターンには由来しない。

 →これは本エッセイ中でも簡単に紹介しましたが、もう一度。神経系は出現する運動の形を決めているのではなく、決めているのは課題である。課題によって自己組織化する。リードは「神経系は選択する?」はて、未だに難しい(^^;)

3. (テーレン)アトラクター: 自己組織化において多数の変化可能な状態の中から一つの形態を選好する。あるいはその選好する形態に引きつけられていく。挙動の変動性が基本的な選好状態である

 →脳卒中後に杖歩行を始めると普通は2動作歩行か3動作歩行かのどちらかに引きつけられる。3動作歩行をする多くの人は、2動作歩行が困難・・・

4. (テーレン)コントロール・パラメータ: 相転移(パターンや運動の相が突然大きく変化してしまう)を起こすパラメータ。

 →原因ではなく条件と考えられる?T-caneでの2動作歩行をしていても、狭い通路に入ると突然3動作歩行に変わる。狭い通路では基底面が狭くなるので、基底面の広さがコントロール・パラメータとなる。

5. (テーレン)安定したアトラクター: 安定したアトラクターは深い井戸にはまったボールで喩えられる。変化が起きにくい状態。一般に運動システムには多重安定性が見られる。

 →健常者の通常の平らな床の歩行は安定しているが、氷の上では突然変化して別の運動相(たとえば体を硬くしての小刻み歩行)に転移する。健常者には井戸がたくさんあり、状況によって選好される。

 →多重安定性は健常者の運動システム。井戸は沢山あって状況によって選好される井戸(運動の相)が変化し、それぞれの井戸はまあまあ深く、安定していると考えられる。脳性運動障害では、井戸の数は少ない、あるいは重度になれば一つの深い井戸?

6. (テーレン)「制御パラメータが閾値に達する」: 非常に安定しているアトラクター状態でさえ「ダイナミックに安定している」。コントロール・パラメータの変化は連続的で、閾値に達すると全体は非線形に変化する(相転移が起こる)

 →脳卒中後の2動作歩行で、次第に狭くなっていく通路を進むとある地点で、2動作歩行が3動作歩行に転移する。

 →重度脳性麻痺で筋力(コントロール・パラメータの一つと考えられる)を強化すると連続的に増加するが、ある点で強化は止まり、相転移の閾値に達することがないということもありうる

7. (テーレン)ノイズ・揺らぎ・不安定性: これらは複雑系の安定性及びシステムの状態を評価するための有効な手段。

 →不安定性が増大すると相転移が起きる前兆とも取れる。ノイズや揺らぎ、不安定性をどんな変数で見ていくのか?運動の軌跡の位相空間図?

8. (リード)基礎定位システム: 基礎定位システムはもっとも基本的な行為システムであると同時にもっとも基本的な知覚システム。変化する運動の中で一瞬一瞬に環境内に安定した姿勢を作り続けるシステム。遂行活動も探索活動も基礎定位システムを基に行われている。基礎定位は他の全ての機能的活動の必要条件。運動とは姿勢が入れ子化したもの

 →パーキンソンや失調症、脳卒中などでバランスのとれない人は、基礎定位システムの能力が低下していると捉えられる。基礎定位システムの下位システムは複数あり、疾患毎に失われるシステムと機能は異なるので、問題解決のやり方は異なってくるだろう

 簡単に羅列するとかなり難しく感じますね(実際に難しいけど)もちろん上記以外にも有用なアイデアはあるのですが、もう多くなりすぎてカットです(^^;)興味のある人はそれぞれの本に当たってみてください。(最終回に続く)

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システム論の話をしましょう!(その4)

目安時間:約 4分

システム論の話をしましょう(その4)
 「多要素多部位同時変化方略」は痛みだけでなく他の様々な障害の治療でも有効になります。たとえば尻餅転倒を繰り返す場合は、観察してみて「後方重心である」と気づくと、身体各関節の状態や全体のアライメント、筋力のアンバランス、痛み、基礎疾患などの全身の多要素の影響を考え、できる範囲で同時にアプローチしたりします。



 先の慢性痛の話に戻りましょう。この「多要素多部位同時変化方略」によって以前より効果的に痛みにアプローチできるようになったのですが、それでも慢性痛の患者さんは繰り返しセラピストの元に通ってくるのです。それは患者さんが完全な治癒を求めたり、あるいはまた我慢できなくなるほどの痛みを繰り返し経験するからです。



 そこでセンスの良いセラピストならさらに次の段階に進みます。「そもそもどうしてこの方は短期間に体を硬くして痛みの原因を作ってしまうのか?」どうも生活習慣や環境、仕事内容に関係がありそうです。こうして運動システムに関わる要素群は身体に限定されないで、環境や習慣、性格、教育、文化・社会の価値観にまで広がっていきます。



 実際詳しく調べてみると仕事で同一姿勢を長く保持したり、プライベートでもテレビゲームで時間を費やし、ほとんど運動習慣がなかったりします。これでは痛みを繰り返してしまいますよね。そこでこんどは多要素多部位への徒手療法に加えて、アクティブな運動課題をホームワークとして出したり、痛みが発生する機序を詳しく説明したり、椅子や机、照明などの環境を改善したり、痛みを改善するには「手頃な運動習慣を持つこと」を勧めたりするようになります。



 これが素朴なシステム論的アプローチの第二段階になります。第二段階では運動システムを皮膚に囲まれた身体に限るのではなくなります。運動システムとは、身体と物理的環境や社会・文化的な環境と相互作用する大きく複雑な関係性の上に成り立つシステムであると考えるようになるのです。(実際に言葉として意識している人は少ないと思いますけどね)



 最初の段階(身体各部位・各要素が相互作用し合う)、第2の段階(身体は環境内での多様な要素と相互作用し合う)のこの二つの認識を基にしたものが「素朴なシステム論的アプローチです。



 たとえシステム論を習っていなくても真面目に考えているベテランやセンスの良いセラピストはこのレベルに自然に達するものです。「たくさんの要素が相互作用し合って痛みが生じ、その痛みの状態は安定している。だから痛みの安定した状態をまず壊すには?」という視点に自然に気がついているのです。結構周りから「やり手」と思われているセラピストは、言葉にはならなくてもこのような幅広い視点と学校で習ったのとは異なる治療法略を自然に身に付けているものです。



 さてCAMRではむしろここがスタート地点となります。ここから先に進むには科学的・哲学的な視点も必要になってくるので経験だけでは到達できないレベルとなります。(その5に続く)


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