システム論の話をしましょう!(その4)

目安時間:約 4分

システム論の話をしましょう(その4)
 「多要素多部位同時変化方略」は痛みだけでなく他の様々な障害の治療でも有効になります。たとえば尻餅転倒を繰り返す場合は、観察してみて「後方重心である」と気づくと、身体各関節の状態や全体のアライメント、筋力のアンバランス、痛み、基礎疾患などの全身の多要素の影響を考え、できる範囲で同時にアプローチしたりします。



 先の慢性痛の話に戻りましょう。この「多要素多部位同時変化方略」によって以前より効果的に痛みにアプローチできるようになったのですが、それでも慢性痛の患者さんは繰り返しセラピストの元に通ってくるのです。それは患者さんが完全な治癒を求めたり、あるいはまた我慢できなくなるほどの痛みを繰り返し経験するからです。



 そこでセンスの良いセラピストならさらに次の段階に進みます。「そもそもどうしてこの方は短期間に体を硬くして痛みの原因を作ってしまうのか?」どうも生活習慣や環境、仕事内容に関係がありそうです。こうして運動システムに関わる要素群は身体に限定されないで、環境や習慣、性格、教育、文化・社会の価値観にまで広がっていきます。



 実際詳しく調べてみると仕事で同一姿勢を長く保持したり、プライベートでもテレビゲームで時間を費やし、ほとんど運動習慣がなかったりします。これでは痛みを繰り返してしまいますよね。そこでこんどは多要素多部位への徒手療法に加えて、アクティブな運動課題をホームワークとして出したり、痛みが発生する機序を詳しく説明したり、椅子や机、照明などの環境を改善したり、痛みを改善するには「手頃な運動習慣を持つこと」を勧めたりするようになります。



 これが素朴なシステム論的アプローチの第二段階になります。第二段階では運動システムを皮膚に囲まれた身体に限るのではなくなります。運動システムとは、身体と物理的環境や社会・文化的な環境と相互作用する大きく複雑な関係性の上に成り立つシステムであると考えるようになるのです。(実際に言葉として意識している人は少ないと思いますけどね)



 最初の段階(身体各部位・各要素が相互作用し合う)、第2の段階(身体は環境内での多様な要素と相互作用し合う)のこの二つの認識を基にしたものが「素朴なシステム論的アプローチ」です。



 たとえシステム論を習っていなくても真面目に考えているベテランやセンスの良いセラピストはこのレベルに自然に達するものです。「たくさんの要素が相互作用し合って痛みが生じ、その痛みの状態は安定している。だから痛みの安定した状態をまず壊すには?」という視点に自然に気がついているのです。結構周りから「やり手」と思われているセラピストは、言葉にはならなくてもこのような幅広い視点と学校で習ったのとは異なる治療法略を自然に身に付けているものです。



 さてCAMRではむしろここがスタート地点となります。ここから先に進むには科学的・哲学的な視点も必要になってくるので経験だけでは到達できないレベルとなります。(その5に続く)


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システム論の話をしましょう!(その3)

目安時間:約 3分

システム論の話をしましょう(その3)
 社会一般では、問題解決のためには問題の原因を明らかにし、原因と問題の間に因果の関係を想定します。そして原因をなんとかするのが標準的な方法であると前回述べました。これは医療あるいはリハビリの世界でもおなじです。



 たとえば学校で習ったように、痛みがあればすぐに身体構造に原因を探し、ある部位の筋膜の癒着だとか関節内運動の低下だとかある筋の過緊張だとか、神経の圧迫だとかに原因を探します。つまり評価を通して原因となる部位と要素を明らかにすると、その特定された要素や部位のみに徒手療法などで働きかけます。



 そしてこれによって痛みを改善すると、患者さんは痛みが楽になったと喜ばれます。セラピストは「また痛くなったら来てくださいね」と送り出します。しかし1週間後には「先生、また痛くなったんです」と帰ってきます。調べてみるとまた前回と同じ原因なのですぐに治療、「また痛くなったら来てください」と送り出す・・・と慢性痛ではこれを繰り返すこともよくあります。



 でもこれでは一時的に痛みを軽くしているだけでちっとも根本的な問題解決になっていないと考える様になりますよね。(もちろん1回きりで良くなることもあります。これには特定の条件が必要ですけどね)



 そして経験を積んだり勘の良いセラピストは、一要素・一部位を原因にした単純素朴な因果関係だけではうまく解決しないと考える様になります。膝関節のモビライゼーションだけでは周辺の筋膜の萎縮や癒着によってまたすぐに動きの悪い状態に引き戻されてしまうのかもしれない。つまりある部位の筋膜の癒着は、周辺の他の関節内運動や他の部位の筋活動にも影響を与えあうのが当然ではないかと考えます。単純な一要素・一部位を原因とした因果関係ではなく、もっと広範囲な部位で様々な要素が関係していると考えるようになります。それで膝関節の痛みを治すために、下位では足部の関節モビライゼーションや足趾のストレッチやリリース、上方では股関節や腰部、更に頸部や上肢のリリースをしたり各部位の動きをよくしたりと多要素、多部位に同時に働きかけるようになります。



 これが素朴なシステム論的アプローチの第一段階です。これはCAMRでは「多要素多部位同時変化方略」と言いますが、このレベルに達すると痛みや脳性運動障害に対する治療効果もこれまでとは異なった手応えを感じる様になると思います。でもまだまだ第一段階に過ぎません。(その4に続く)

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