システム論の話をしましょう!(その14 番外編)

目安時間:約 8分

システム論の話をしましょう!(その14 番外編)


 今回のエッセイは次回終わる予定ですが、その前に少し伝えておきたいことがあります。


 今回のエッセイはシステム論の3つの分類を通して、リハビリに使えそうなアイデアを紹介しましたが、駆け足だったので有用なのに説明していないアイデアがまだまだたくさんあるのです。特にテーレンの動的システム論とリードの生態心理学に関するものです。(本当はベルンシュタインも説明した方が良いのですが、今シリーズではまったくスルーです(^^;))


 そこで、紹介していないものも含め、今回主なアイデアについて簡単にまとめておこうと思います。(早い話、僕の覚え書きメモです)各アイデアは番号を打ってタイトル、内容をシンプルに記し、その下の矢印以降に僕の感想などを入れています。


 最初の()内にあるテーレンはE. Thelen & L. Smith「発達へのダイナミックシステム・アプローチ 認知と行為の波発生プロセスとメカニズム」よりのアイデア。リードはE. S. Reed「アフォーダンスの心理学 生態心理学への道」よりのアイデア。


1. (テーレン)自己組織化: 行為と認知は創発的なものであり設計されたものではない。自己組織化とは決して魔法ではない。それは私たちの物理的及び生物学的世界のほぼ全てに内在する非線形性ゆえに起こるのである。非線形性(位相変位ないし相転移)は非均衡システムの特徴である


 →非線形とは滑らかで連続した変化ではなく、突然別の相に変化するもの。運動変化は連続したものではなく、ある閾値に達すると別のやり方(質?)の運動に変化する。スポーツのような一瞬一瞬の運動変化であれ、それより長いスパンで起こる運動学習、あるいは運動発達にしても運動変化とは運動の質の変化が非連続に起こる。その時の状況に応じて運動は創発、あるいは選択されるから。


 →脳卒中後に杖歩行をすると、ランダムに起こっていた杖や両脚の振り出しが突然3動作歩行に組織化されたりする。もし最初からセラピストが杖歩行のやり方を支配的に指示しているとなかなか気づかないで、連続した変化と理解するかもしれない


2.(テーレン)課題特定的:運動は(頭の中のスイッチによってではなく)課題によって特定される。課題達成の運動は課題それ自体によって組織化される(関節結合系・筋膜系・筋-腱膜系、循環器系、神経系など異なった系の間には相互の関係性が存在し、課題達成を通じて協調されてくる。ある要素・部位の働き・役割は状況によって変わってくる)


 (リード) 「神経系は機能特定的」:神経系は、選択過程として機能する。行動の分化・変化の生物的基礎は、選択上の諸制約にこそあり、神経のメカニズムにあるのではない。行動の選択圧は環境内での動物の行為の実際の結果に由来するので、内的な神経パターンや動物の運動パターンには由来しない。


 →これは本エッセイ中でも簡単に紹介しましたが、もう一度。神経系は出現する運動の形を決めているのではなく、決めているのは課題である。課題によって自己組織化する。リードは「神経系は選択する?」はて、未だに難しい(^^;)


3. (テーレン)アトラクター: 自己組織化において多数の変化可能な状態の中から一つの形態を選好する。あるいはその選好する形態に引きつけられていく。挙動の変動性が基本的な選好状態である


 →脳卒中後に杖歩行を始めると普通は2動作歩行か3動作歩行かのどちらかに引きつけられる。3動作歩行をする多くの人は、2動作歩行が困難・・・


4. (テーレン)コントロール・パラメータ: 相転移(パターンや運動の相が突然大きく変化してしまう)を起こすパラメータ。


 →原因ではなく条件と考えられる?T-caneでの2動作歩行をしていても、狭い通路に入ると突然3動作歩行に変わる。狭い通路では基底面が狭くなるので、基底面の広さがコントロール・パラメータとなる。


5. (テーレン)安定したアトラクター: 安定したアトラクターは深い井戸にはまったボールで喩えられる。変化が起きにくい状態。一般に運動システムには多重安定性が見られる。


 →健常者の通常の平らな床の歩行は安定しているが、氷の上では突然変化して別の運動相(たとえば体を硬くしての小刻み歩行)に転移する。健常者には井戸がたくさんあり、状況によって選好される。


 →多重安定性は健常者の運動システム。井戸は沢山あって状況によって選好される井戸(運動の相)が変化し、それぞれの井戸はまあまあ深く、安定していると考えられる。脳性運動障害では、井戸の数は少ない、あるいは重度になれば一つの深い井戸?


6. (テーレン)「制御パラメータが閾値に達する」: 非常に安定しているアトラクター状態でさえ「ダイナミックに安定している」。コントロール・パラメータの変化は連続的で、閾値に達すると全体は非線形に変化する(相転移が起こる)


 →脳卒中後の2動作歩行で、次第に狭くなっていく通路を進むとある地点で、2動作歩行が3動作歩行に転移する。


 →重度脳性麻痺で筋力(コントロール・パラメータの一つと考えられる)を強化すると連続的に増加するが、ある点で強化は止まり、相転移の閾値に達することがないということもありうる

7. (テーレン)ノイズ・揺らぎ・不安定性: これらは複雑系の安定性及びシステムの状態を評価するための有効な手段。


 →不安定性が増大すると相転移が起きる前兆とも取れる。ノイズや揺らぎ、不安定性をどんな変数で見ていくのか?運動の軌跡の位相空間図?


8. (リード)基礎定位システム: 基礎定位システムはもっとも基本的な行為システムであると同時にもっとも基本的な知覚システム。変化する運動の中で一瞬一瞬に環境内に安定した姿勢を作り続けるシステム。遂行活動も探索活動も基礎定位システムを基に行われている。基礎定位は他の全ての機能的活動の必要条件。運動とは姿勢が入れ子化したもの


 →パーキンソンや失調症、脳卒中などでバランスのとれない人は、基礎定位システムの能力が低下していると捉えられる。基礎定位システムの下位システムは複数あり、疾患毎に失われるシステムと機能は異なるので、問題解決のやり方は異なってくるだろう


 簡単に羅列するとかなり難しく感じますね(実際に難しいけど)もちろん上記以外にも有用なアイデアはあるのですが、もう多くなりすぎてカットです(^^;)興味のある人はそれぞれの本に当たってみてください。(最終回に続く)

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システム論の話をしましょう!(その6)

目安時間:約 5分

システム論の話をしましょう(その6)
 さて、2番目の分類は「外部から作動を見るアプローチ」です。この代表的なものの一つが「課題主導型アプローチ(Task Oriented Approach 以下TOAと略す)です。このアプローチの基礎となっているのがテーレンらの動的システム論であり、ギブソンの生態心理学です。



 テーレンらによる動的システム論は外部から観察される姿勢や運動の基になっている運動システムの作動を物理学の枠組みから理解しようとします。動的システム論には、自己組織化、アトラクター、コントロール・パラメータ、多重安定性など多くの魅力的なアイデアがあります。これらのアイデアは僕たちが臨床経験を通じて漠然と感じていた運動システムの性質やいくつかの特徴的な運動状態を明確な言葉で表して理解を助けてくれると感じています。



  さて、前回システム論は作動に焦点を当てていると述べました。つまりテーレンらは研究を通して「運動がどのように生まれ、維持され、変化していくか?」といった運動システムの作動を明らかにしているわけです。



 テーレンらは心理学者ですが、正常運動発達を研究しました。それまでは一般に脳の中に正常発達の設計図があり、これに沿って運動発達が起こると考えられていたのですが、テーレンらは数々の研究から運動発達(運動の変化と安定)はあらかじめ決められた設計図はなく、様々な要素の相互作用から自己組織的に起きていると示したわけです。



 もう一つ、生態心理学はアフォーダンスで有名なJJギブソンによって始められ、エレノア・ギブソン(以下、EJギブソンと略す)やエドワード・リード、日本では佐々木正人といった魅力的な心理学者達がいます。テーレンもその著書でエレノア・ギブソンに大きな影響を受けたと書いています。



 生態心理学も脳が感覚を入力し、脳の中に世界像を作り、そしてそれを基に出力つまり運動をコントロールするというそれまでの脳が中心の常識的な考えを否定します。そうではなくて、脳は単なる調整役だというのです。たとえ神経系のない生物でも環境と出会い、うまく関係を築いています。元々そのような能力は生物が本来持っているものです。もちろん神経系はより高度に世界と関係作りをするために役立っているわけですが、それでも進化上は神経系は後から生物に乗っかってきたものです。



 それに知覚とは動くことと言います。動くことによって動物にとっての必要な情報が知覚できる訳です。・・・まあ、そんな感じです。



 テーレンらもギブソンらも心理学者ですが、運動を通して運動変化や知覚、認知のことを研究します。デカルト以来の西欧社会の思い込みの一つである心身二元論(機械の体とそれに乗っかっている心の二つが存在している)の伝統を否定しているのです。あるいは人の体を機械に、脳をコンピュータのように喩えることが間違いだと。生物は機械とはまるっきり違った存在だというあたりが基本になります。
(これらのアイデアについてはここでこれ以上説明することは控えます。正直、僕は未だにわからないことが多いのです(^^;特にアフォーダンスは苦手(^^;詳しく知りたい方はイラストのお薦めの文献に当たってください)



 さて、この両者を基にして生まれた課題主導型アプローチは、またまた僕流に間違いを恐れずに言ってしまえば、以下のようなアプローチです。「運動は適切な課題を繰り返すことによって徐々に課題達成に向けて調整される。つまり運動は課題によって生まれ、成熟する。従って患者にとって必要な課題と課題の実施環境条件を提供することがセラビストの仕事である。セラピストは課題と実施環境を調整し、工夫し、患者にとって相応しく進化させ、提案することで患者にとっての必要な運動適応能力を改善していくことができる」のです。 まあ、このような理論的な説明は往々にして僕たち臨床家には届きにくいものです。臨床家にとっては実際にやってみることでしか、有効かそうでないか実感できないものです。



 実際、僕自身は臨床でやってみて「素朴なシステム論的アプローチ」の有効さに気づきました。そしてこんどはこの「セラピストが患者に『課題』と『実施条件』を通して訓練する」ことを意識して実施して経験してみることにしました。理論というアイデアの「問題解決の道具」としての有効性を自分自身で試してみたのです。そうすると臨床で自分や周りからの経験だけでは学べないような様々な視点に自然に気がつくようになったのです。(その7に続く)

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