「運動学習」は「運動の形ややり方を憶えて再現すること」?(その4) 

目安時間:約 5分

「運動学習」は「運動の形ややり方を憶えて再現すること」?(その4) 

 前回は「障がいがある」ということは、「身体リソースが貧弱になり、利用可能な環境リソースも貧弱になる。そして動きの量や多彩さが減ることで運動認知も不適切になり、生み出される運動スキルも貧弱になって、必要な生活課題達成が困難になること」と説明しました。
 そうするとリハビリの目標がはっきりしてきます。第一に「改善可能な身体リソースはできるだけ改善すること。そして利用可能な環境リソースをできるだけ工夫して増やすこと」と述べました。特に身体リソースを改善することと環境リソースを工夫し増やすことは一般にリハビリのセラピストはよくやっていることです。
 必要な生活課題達成のための多彩で実用的な運動スキルは、運動リソース、運動の資源が豊富であればあるほど創造されやすいのです。
 さて運動を無限に変化させる能力を構成する2つ目のものは、「適切な運動認知」です。たとえば健常者は、「目の前の幅50㎝の溝を安全に渡れるか?」と聞かれると多くの人が実際にやらなくても「渡れる」という予期的結果が分かるはずです。中にはいつもなら渡れるけど今日はハイヒールだから無理」と判断するかもしれません。適切な運動認知があればその場の状況からやらなくても結果は分かるのです。
 またできないと判断しても、「でも溝の向こうから手を握って支えてもらえれば渡れる」と答えるかもしれません。つまり体や環境の利用方法が想像できるので予期的に結果が分かるし、上記のように「予期的に課題達成のやり方」を生み出すことができるのです。
 もう一つ、この運動認知は常に体を使い、環境内のいろいろなものを操作したり、環境内で多様に動き回ることによって、適切にアップデートされます。
 風邪などをひいてしばらく寝込んだら、体が硬くなったり、力が出にくくなりますね。この状態でいきなりいつものように溝を渡ろうとしたら、力が入らずに落ちたりつま先を引っかけて転んだりします。
 つまり常に色々に動いて使って初めて運動認知は適切にアップデートされるものなのです。風邪で寝込んだら、その場で少し色々動いてみると、いつもより慎重に安全に溝を渡るための運動スキルが生み出されるはずです。
 片麻痺のように、身体の半分が弛緩状態になるような非常に大きな身体変化が起こると、筋力などの身体リソースは広範囲に貧弱になります。すぐには動けないので体がどのように変化したかの運動認知をアップデートすることもできません。よく見知っていた体が未知の身体になってしまいます。
 健康だった頃のやり方、運動スキルは役に立たなくなります。その結果、それまでできていたことができなくなります。未知の体では適切に動けないのです。
 だから変化した体で、実用的な運動スキルを新たに創造する必要があります。そのために、改善可能な身体リソースはできるだけ改善します。利用可能な環境リソースは工夫してできるだけ増やします。
 そして同時に運動スキルを生み出すための適切な運動認知にアップデートする必要があるのです。どのように行うかというと、基本的には様々な身体活動や身の回りの利用可能な環境リソースを探して使ってみることで行われます。
 「自分の体に向き合う」ために、特定の身体活動を集中して繰り返すことをするセラピストもいますが、「同じことを何度も繰り返さないと理解・実行できないほど運動システムは低性能」と考えておられるようです。でもこれはむしろ逆効果です。
 人の体は意外に高性能です。少し動いたり触ったりするだけで色々理解します。できるだけ多様な環境・状況の中で、できるだけ多彩な動きを生み、周りのものに触れて利用する活動を通して、「自分の体と環境内の様々なものとの関係性を理解すること」こそが運動認知には重要です。体の動きを通して環境を知り、環境を通して自分の体のことを知っていくのです。(その5に続く)

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