患者さんの振る舞いを観察すること(その1)

目安時間:約 4分

 脳卒中後初めて車椅子に乗られてリハビリを開始するときのことを考えてみましょう。
 たとえば「立ってみましょう」と声をかけると、健側の上肢で車椅子の肘掛けを持って上体を前方に傾けたり、両脚を置き直したり、お尻をもぞもぞと動かそうとしたり、またまた片手を前方にさまよわせて、「何かつかむものがないか」と探したりされるように見えます。そしてどうもできそうにないと分かるとそれらの試行錯誤を止めて動かなくなられたり、「できない」と言われたりします。
 いずれにしても患者さんは、セラピストの出した運動課題を達成しようとされているので、短い時間ですが様々な試行錯誤をされます。そして「できる」とか「できない」といった結論を出されます・・・
 CAMRでは、上記のような多くの患者さんに共通に見られる振る舞いを観察して、その振る舞いの意味を言語化することから始めました。たとえば上記の振る舞いは、次のように言語化されました。「人の運動システムは、必要な運動課題を達成するために、身体の内外に利用可能なもの(「運動のための資源」=「運動リソース」)を探索する」のです。
 弛緩麻痺の軽い方であれば、力も出やすく運動範囲も重心の移動範囲も大きいので、ほんの少しの試みで立たれたりされます。健側の下肢の力で体が浮き上がるし、健側の上肢で肘掛けを押しつけたり、前方への重心移動もできます。「なんとか立てそう」と予期的に理解されますので、すぐには諦めませんし、何度か試した後になんとか立たれたりします。
 少しばかり動くことで、身体の内部に立つための利用可能な筋力や柔軟性、それに重力と床の間でなんとか体をコントロールする能力があることがわかって、それらの使い方を試行錯誤しながら立つという課題を達成されるのです。
 逆に弛緩性麻痺が重いと、どうにも身体の中に利用可能な筋力が見つからないのです。それですぐに「これではどうにも動けない」という結論になってしまうようです・・・・
 そんな風な観察を続けて、人の運動システムの作動の意味やその様子を想像していきます。他にもたくさんの観察を基に、人の運動システムの作動の特徴をまとめて理解することでCAMRはできあがりました。そして次第にリハビリでやるべきことがはっきりしてきました。
 たとえば片麻痺は大きな身体変化を起こします。半身に弛緩性の麻痺が起こります。弛緩性麻痺の部分は筋肉が緩んで水の袋のようになります。良い方の半身に水の袋のような麻痺の半身がぶら下がるため、良い方の半身を悪い方に引っ張ります。麻痺の体が重りになったり、ブラブラ揺れて体を不安定にします。力が入らず、支えたり思うように体を動かしたりできなくなります。それまで良く知っていた自分の体が未知の身体になってしまうのです。
 だからリハビリで最初にやるべきことは、まず変化した体のことをよく知ることです。どうやるかというと、まずは様々に動いてみることです。様々な課題を通して「できる」こと、「できない」ことを少しずつ探索します。(その2に続く)

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