CAMR(カムル)が他のアプローチと全く違うところ(後編)

目安時間:約 7分

 さて、前編・中編でそれぞれ「状況性」と「自律性」といった運動システムの作動の特徴を説明してきた。運動システムには他にも「創発性」、「課題特定性」、「探索利用性」という重要な作動の特徴があるがこのシリーズでは最後に「創発性」という作動の特徴を紹介したい。

 「創発性」はCAMRで言い出したものではなく、CAMRが基にしているベルンシュタインや生態心理学、動的システム論などで説明されてきたアイデアである。

 創発性の意味をAIのジェミニで引いてみると一般によく言われている説明なので、以下に引用する。「創発(そうはつ、英語:emergence)とは、個々の部分や要素の単純な足し算(総和)からは予想できないような新しい性質や秩序が、全体として自発的に現れる現象のこと」さらに「人の運動は創発の典型例であると言える。人の動きは脳からの命令だけで作られるのではなく、身体、環境、タスクの相互作用によって自発的に湧き上がる(創発する)現象として捉えられる」とのこと。

 たとえば、歩くスピードを徐々に上げていくと、ある瞬間に意識しなくても自然と「走る」動きに切り替わる。これはエネルギー効率の良いパターンを運動システムが自発的に選択したからと説明される。ただこんな説明を聞いても、「それがどうした?何の説明になってるのか?」となかなか納得できるものではないことはよく分かっている。僕自身がそうだったからだ。

 だからもっと現実的な例を基に説明してみよう。

 従来のリハビリのセラピストの運動システム観というのは、前編で述べたように機械をモデルに理解しているところがある。どのような仕組みで運動を生み出しているかを理解する時に、その当時最新のコンピュータによるプログラム制御のロボットをモデルに理解することはごく自然なことである。

 そして脳はコンピュータに喩えて理解される。コンピュータ制御のロボットでは、運動はプログラムによって生み出されるので、脳内にも運動のプログラムがあるに違いないと考えるのも自然である。

 脳性運動障害では、脳内の運動プログラムが壊れる、消失するので正しい運動ができなくなると考える。それでセラピストが正しい運動を運動感覚入力によって脳に教えて、新たに脳内に正しい運動のプログラムを入力するのだ、という考えが出てくるのもまた自然である。まさしく人をプログラム制御のロボットのように理解している。だからセラピスト自身を「脳にプログラムを入力するプログラマー」のように考えてしまうのだろう。

 一方で最近のAIロボットはなかなかに凄い。現在のAIロボットは人に比べて運動の数は限られているものの、まるで人の様に状況に応じて多様に自然な動作をする。しかしAIロボットのコンピュータにそれぞれの運動をするためのプログラムを入れているわけではない。そんなプログラムは複雑すぎて莫大な量になって作れない、手に負えないからだ。

 実際にはAIロボットは、自分で一から運動課題の達成方法を学んでいるのである。たとえば臥位から立ち上がる方法を自分で学んでいる。

 その方法はコンピュータの仮想空間の中で、ロボットの物理的・機械的性質を持った仮想ロボットに、「倒れては起き上がる」課題を与えるのである。コンピュータは文句も言わず(^^;)、短い時間で何十万回、何百万回と倒れては、動けるように動いて立ち上がりに繋がりそうな運動が偶然現れる。つまり課題達成のための運動スキルが「創発」したのである。

 AIはそんな風に仮想空間内で、自分のできる運動が環境内の重力と床の間でどのような結果を生み出すかを試行錯誤して、発見、修正、学習しているのである。そんな試行錯誤を重ねて立ち上がりの方法を多様に身につけたのである。

 どうしてこんなことをするかというと、無限に変化する環境・状況の中で、人の運動システムのように無限に運動変化を起こして、適応的に振る舞うためには、自らそのやり方を探索・発見・修正していく「人の運動システムの創発性」という作動の特徴を真似るしかない、というのが理由である。

 一方でリハビリのセラピストは、未だに「運動システムは旧型のプログラム制御のロボットである」という認識に留まっていて、何とか脳内に正しい運動のプログラムを入力しようと足掻いているのではないか?

 元々セラピストは、AIロボットを作る工学者のように、機械ではなく人の運動システムの作動を正面から理解すれば良かったのだ。

 しかし従来のリハビリは、人が動く仕組みのメカニズムをプログラム制御のロボットをモデルに理解してきた。残念ながら人の運動システムのモデルにするにはそれは低性能すぎる。どうせモデルにするならAIロボットである。これはちゃんと人の運動システムの作動の理解をモデルにしているからである。

 では人の運動システムの「創発」という作動の特徴から考えて、リハビリではどうするかと考えてみる。

 セラピストにまず必要なのは魅力的で適切な課題を工夫・設定することである。それによって患者自身に自発的に動けるように動いていただきながら、その中からより安全で効率的な運動スキルを探索・発見・効率化・熟練していただくことを助けることではないか?(詳細は勉強会で具体的な例を多数用いて説明したい)

 以上、簡単だがCAMRと他のアプローチの異なる点を説明した。人を「動く仕組み」だけではなく、「作動の特徴」からも理解すると、これまでとは異なった身体観、障害観、人間観が生まれてくる。これによってアプローチもこれまでとは異なった新しいものが自然に生まれてくる。そして「動く仕組み」の理解と「作動の特徴」の理解を組み合わせると、視野が一気に広がってリハビリの仕事はもっと、もっと面白くなってくるのですv(^^)(終わり)

 8月(2026年8月27日木20時~21時)のオンラインのCAMRの勉強会の申込みは以下のURLから。まだ間に合います(^^)
https://u.miura1991.com/p/camr-new

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