生活課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その6)
前回は、患者さんの運動スキル学習がより柔軟に適応性を持って発達するためには運動リソースができるだけ豊富な方が良い、そしてその方法は運動課題を通してという話でした。
それに座位での基礎定位の話を例にしましたが、座っているだけで筋力・筋活動・持久性は改善するかもしれないが、柔軟性はあまり改善しないのでは?と思われたかもしれません。
まあ、確かにその通りです。特に姿勢保持などの静的で身体活動が目立って大きくない運動課題の間はセラピストが直接患者さんの柔軟性を改善する必要があります。
他のエッセイで説明していますが、体を硬くするのは脳性運動障害で基本的に動き出すための問題解決です。しかし時にこの「体を硬くする」作動が暴走して、偽解決となり新たな問題を引き起こします。体が硬くなりすぎて運動範囲が小さくなり、動くことに抵抗が生まれて大きな努力を必要とします。また硬さのために血流なども悪くなり、不快感や痛みが生じたりします。
この硬さとそれに付随する問題を改善するためには、学校で教わるような関節可動域訓練やストレッチ訓練も良いのですが、学校で習うストレッチでは関節ごとや筋群毎に個々に局所的に行っていきますよね。そこが少し弱点です。
全身の軟部組織は繋がっていてお互いに影響し合います。それで身体の一部の柔軟性を改善しても、他の大部分が硬いままであれば、改善した一部の柔軟性も全体の硬さとの相互作用で引き込まれてまたすぐに元の硬さになってしまうからです。それで柔軟性の改善訓練もできるだけ全身的に多要素も同時に行う方が効率的です。
この硬さを改善するのに僕のお勧めは上田法という徒手的療法です。全身の広範囲に多要素・多部位同時に柔軟性を改善します。広範囲に過緊張が低下しますので効果も比較的長続きし、その間に様々な身体活動を行う機会が広がるわけです。
また痛みの問題も筋活動を制限して運動パフォーマンスを低下させます。できればセラピストがマニュアル・セラピーなどの徒手的療法で直接痛みを改善することが求められます。
痛みにしても脳性運動障害後の硬さにしても運動や重心の移動範囲を狭く制限しますし、筋活動の多様さや強さも制限してしまいますので、運動スキル練習の効果を低下させてしまいます。
そして痛みにしても脳性運動障害後の硬さにしても患者さん自身では改善が難しいので、セラピストが直接手を下して痛みや柔軟性の改善を行う必要があります。
ここまでのまとめです。運動スキル学習を進める上で、身体リソースを豊富にすることで運動スキルはより柔軟で適応的、多様に生み出される可能性があります。
また痛みや脳性運動障害後の硬さは、負の運動リソースと呼ばれ、運動パフォーマンスを低下させます。これらは患者さん自身では改善できないことが多く、セラピストが徒手的療法などで関与する必要があります。
筋力や筋活動の多様さ、持久性などは運動スキル創出の適切な課題を通して同時に豊かにすることができます。
もう一つ運動リソース改善にセラピストが多く関われるのは環境リソース(装具や自助具、生活環境など)の工夫と提案です。ここでは長くなってしまうので、これについてはこれだけにしておきます。
次回は、運動スキル学習におけるポイントである課題設定について説明します。(その7に続く)
※No+eに毎週木曜日は、別のエッセイを投稿中!最新の投稿「運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その3)」https://note.com/camr_reha
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