患者さんの振る舞いを観察すること その2

目安時間:約 4分

患者さんの振る舞いを観察すること その2 

 前回は、患者さんの起立時の振る舞いから「人の運動システムは、必要な運動課題を達成するために、身体の内外に利用可能なもの(「運動のための資源」=「運動リソース」)を探索する」と運動システムの作動の一部を言語化しました。
 ここで運動リソースという言葉を使ったのは、患者さんは課題達成のために何かを探しては、それを試すような振る舞いをしているように見えたからです。何を探しているのか、ここでは文脈から「運動の資源=運動リソース」と仮定したわけです。
 そうすると運動リソースはあくまでも運動の資源です。筋力や柔軟性が運動リソースになりますが、筋力は結局単なる「力」に過ぎません。どのように利用するかという「課題達成のやり方」である「運動スキル」というアイデアも必要になります。
 そして患者さんが課題達成のために運動リソースを利用した運動スキルを試行錯誤しているのだろうと考えるわけです。
 これはCAMRのオリジナルの考え方ではなく、生態心理学でもリードがリソースとスキルというアイデアを使って人の運動や行動を説明しているのでこれをなぞっています。非常に分かりやすい。構造や各器官の機能の視点とは別の視点から運動システムを説明するための便利なアイデアです。
 この運動リソースと運動スキルのアイデアは、人の運動システムの作動の特徴を説明するのに特に便利です。  
 たとえば人の歩行は、状況に応じて形や歩き方を変化させます。平地では普通に歩いていても、狭い通路は横向きに歩きます。水溜まりではつま先立ちになり、水の浅いところを探しながらひょいひょいと歩きます。寒い冬の朝、凍った路上では背中を丸めてヨチヨチと歩きます。急な坂道を登るときは両手も登る助けに使いますし、漆黒の暗闇では両手を前に伸ばし、片脚を出しては路面を探りながら歩いたりします・・・・
 結局世の中の環境や状況は無限に変化しますし、それに適応して人の運動も無限に変化します。どうして人の運動は無限の状況変化に応じて、適応的に変化することができるのかと問われると、人の運動システムは無限の運動変化を生み出す仕組みを持っているからです。そしてその仕組みとは、人の運動システムは利用可能な運動リソースを豊富に持ち、それらを利用して無限に変化する運動スキルを生み出すことができるからです。
 ではこの視点から、障害を持つということを以下に説明してみましょう。
 運動リソースは身体リソース(身体や身体の持つ性質である筋力や柔軟性など)と環境リソース(環境内の大地や工作物、動物、他人や環境内の持つ性質重力、明るさなど)に分類されます。そして「障害を持つとは、まず身体リソースが失われるあるいは貧弱になることです。そうすると、利用可能な環境リソースが失われる、あるいは貧弱になります。そうするとそれらを利用する運動スキルが消失あるいは貧弱になり、必要な運動課題を達成できなくなること」と説明できます。
 そうすると障害にどうアプローチするかというと、「まずは改善可能な身体リソースをできるだけ改善し、利用可能な環境リソースをできるだけ工夫・改善すること。そしてそれらを利用して必要な運動課題を達成するための運動スキルを生み出し、修正する能力を改善する活動-運動スキル学習を行うこと」という方針が生まれます。
 伝統的にリハビリでは障害毎にアプローチを変えるのが当たり前でしたが、CAMRではどんな障害であれ、「改善できる身体リソースを改善し、利用可能な環境リソースを増やして、それらを利用して運動スキル学習を進めて運動課題達成力を改善すること」がリハビリの仕事ということになります。(その3に続く)

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