毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その9)

目安時間:約 5分

毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その9)

 前回は外骨格系動物のように体を硬くする問題解決が、脳性運動障害後の弛緩した体で動き出すためには必要だと述べました。しかし外骨格系問題解決は、筋緊張の亢進を直接抑制するメカニズムがあるわけでもないので必要以上に繰り返され、硬くなりすぎて動きにくくなり痛みなど新たな問題が生まれやすいのです。

 そして伝統的に、伸張反射の亢進や筋肉が硬くなることは、ジャクソンが陽性徴候として分類した「症状」として考えられてきました。

 それでこの硬くなりすぎて動けないとか、不快感や痛みとなって苦しいとかいう現象が、脳性運動障害における「主な症状」として誤解されることが続いてきました。

 というのも脳卒中後の片麻痺や脳性麻痺の患者さんの中で、比較的軽~中等度の方に対して上田法のような徒手的療法を実施すると、運動範囲や重心の移動範囲が広がり、動きが大きく速くなり、また「楽に動ける」という患者さんの主観的意見として聞かれることも多いからです。

 それで「やはり硬くなりすぎることが正常な運動の出現を邪魔していたに違いない」という大きな誤解を生んだのではないかと考えられます。

 しかし一方で、重度麻痺の方の過緊張が低下すると、より弛緩状態が明確になります。中等度麻痺の方でも、ボツリヌス療法で緊張が低くなりすぎると支持性がなくなり、歩けなくなったりもします。

 そもそも脳卒中の発症直後は麻痺の領域は弛緩状態です。脳性麻痺でも新生児から数ヶ月は弛緩状態で過ごします。その後末梢の方から硬さが生まれてくることが多いようです。

 だから脳性運動障害の症状の実相はジャクソンの言う陰性徴候、つまり弛緩麻痺だろうと思います。前回外骨格系問題解決で説明したように、弛緩状態では動けないので身体にある筋肉を硬くするメカニズムを総動員して筋肉を硬くし、支持性や運動に利用していたわけです。だから硬くなることは、障害後に運動システムが選んだ弛緩状態に対する問題解決と考えられます。

 そして、硬くなることは障害後の運動システムの作動なので、過緊張は上田法のような徒手療法やお湯につけることで改善されるわけです。症状であれば、お湯につけたくらいで改善・消失する症状というのは変なことです。障害後の運動システムの作動だからこそ変化するのでしょう。(特にここでよく取り上げるキャッチ収縮はタンパク質による現象で、体温以上に温度が上がると解けることが分かっています)

 ちなみに上田法で過緊張を落とすとクローヌスなどの伸張反射の亢進が見られるようになります。過緊張状態はキャッチ収縮など筋の粘弾性プロパティの変化が前面に出ている状態で、背景では筋の収縮を高めるために伸張反射の活動亢進は続いているのでしょう。

 もし「必要以上の硬さは、外骨格系問題解決の偽解決状態である」ということを理解していれば、軽~中等度の麻痺で、過緊張を落とすと動きが良くなる現象は、過緊張の改善によって偽解決状態を改善していると理解できるわけです。単純に過緊張を改善して「脳性運動障害の治療をしている」と考えていると、治療はそこで止まってしまいます。

 実際にはどんな障害にしろ、運動リソースを増やして運動スキルを多彩に柔軟に創造的にする運動学習は必ず必要です。それこそが運動システムの状況性という優れた特徴を生み出す基であるというのは、このシリーズの「その3」で述べた通りです。

 それで筋肉が硬過ぎる、つまり過緊張を改善した後、運動リソースを豊富にし、運動スキル学習まで進んで初めてリハビリの治療と言えます。硬さを改善しておしまいということではありません。

 また他の問題解決でもこの「偽解決状態」という問題がついて回ります。このことを良く知って偽解決状態についてよく学んでおくことが脳性運動障害を理解する鍵になります。

 次回は「不使用の問題解決」について説明します。(その10に続く)

にほんブログ村 病気ブログ 理学療法士・作業療法士へ

コメントフォーム

名前

メールアドレス

URL

コメント

トラックバックURL: 
CAMRの最新刊

CAMR基本テキスト

あるある!シリーズ

運動システムにダイブ!シリーズ

CAMR入門シリーズ

カテゴリー

ページの先頭へ