スポーツから学ぶ運動システム(その2)

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スポーツから学ぶ運動システム(その2)


 前回はゴルフとテニスなどを例に、人の運動システムは「同じ運動を正確に繰り返すことができない」という特徴があると説明した。今回はどうして同じ運動を繰り返せないのかを考えてみよう。


 ベルンシュタインはまずその理由の一つを、「人の体が粘性や弾性の性質を持っているからだ」としている。たとえるならゴムのような性質を持っているわけだ。僕なりにこれを機械と比較しながら説明してみよう。


 機械はがっしりと安定した金属などでできた躯体が基礎となる。自動車なら非常に頑丈なシャーシが土台となる。車のシャーシは通常走行なら、つまり事故でも起こさない限りほとんど歪んだりはしない。つまりこの頑丈な躯体を全体の基礎として可動部分だけが安定して正確に動くという構造である。


 一方人の体にはそのような頑丈で全体の安定的な構造を形作るような基礎は存在しない。まず人の体はたくさんの骨が柔軟性のない靱帯によって結びつけられた骨格がある。骨同士はある部分はタイトに、ある部分は大きな可動性を持って結びつけられている。 これを筋肉という柔軟性のある器官で包み込んでいくわけだ。筋肉は張力、つまり引く力しか生み出さないので、引く力だけで骨格の形を保ち、支持と安定性、そして運動を生み出す仕組みである。


 そして状況や運動課題によって、作動する筋群はどんどん変化し、支持する部分と可動する部位もまたどんどん役割を交代し、変化していく。同じ部位が状況によって支持したり、可動したりするわけだ。機械と違って作動ははるかに複雑なのだ。


 また柔軟な筋肉で形を成す構造であるから、力の発生によっても外力によっても、その形は全体に常に歪んでしまう。歪んでしまうと言うと聞こえが悪いが、しなやかに柔軟に形を変えながら動いているのである。機械では歪むのは可動部分だけで、基礎となる躯体はまったく変化しないわけだが、人では全身が常に柔軟に変形しているわけだ。


 まあ、人の運動システムは機械と違って柔軟であるというのがまず第1のポイントである。たとえば長さ1メートルの柔らかいゴムの棒で、壁の電灯のスイッチから離れてを押すところを想像してみると容易に理解できるだろう。ゴムの棒では持っているだけで先端が常にユラユラ揺れて押そうとしても毎回開始位置は違うし、異なった運動軌道を描いてしまう。


 実際には人の柔らかい体は呼吸などによって常に揺れて振動しており、その目に見えない小さな振動はゴムの棒に伝わると、1メートル先では大きな揺れになってしまうのである。


 まあ、柔らかい構造は同一の運動を正確に繰り返すことはできないのである。(その3に続く)

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