治療方略について考える(その7)

目安時間:約 3分

治療方略について考える(その7)


治療方略:治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策


 さて龍馬君のようなストーリーはセンスの良い、向上心のある、自分の間違いや未熟さを素直に受け入れるセラピストなら、程度の差こそあれ経験しているのではないでしょうか?


 最初龍馬君は学校で習ったように、身体の構成要素を基に因果の関係を想定していました。しかしそれでは上手くいかないのです。つまり腰部周辺の軟部組織だけが原因だとする「機械修理型治療方略」だけでは一時的な変化しか起こせないと気づきます。


 実際の慢性痛にはより沢山の身体部位が関係し合っている、つまり身体内の軟部組織が幅広く影響しあっていることに気づきます。さらに軟部組織のみではなく、身体内の様々な要素、つまり関節内運動や血液循環の低下、神経の圧迫などと関係する要素群に気づきが広がっていきます。これが素朴なシステム論の第一段階です。つまり身体内の様々な部位・要素の相互作用として腰痛という問題が生じると気がつくのです。


 また次にはこの慢性の痛みが、身体の構成要素だけに止まらず、仕事や環境、生活習慣などの相互作用によって生まれていることに気がつきます。痛みはまさに身体だけで作られるのではない。こうなると素朴なシステム論の第二段階です。アプローチする構成要素は身体内に止まらず、仕事環境や運動習慣、生活習慣などに広がっていきます。


 つまり運動システムの作動は機械のように明確で単純ではなく、各部位や要素がお互いに影響を受け合って変化しながら1つの状況、つまり腰痛という状況に落ち着いていくことに気がついたのです。龍馬君は経験を通して、運動システムの作動の性質の一つ、「身体のみならず環境や習慣などの各要素間の相互作用によって問題が繰り返し生まれる状況が作られる」ことに気がついたのです。(その8に続く)

にほんブログ村 病気ブログ 理学療法士・作業療法士へ

治療方略について考える(その6)

目安時間:約 4分

治療方略について考える(その6)


治療方略:治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策 


 こうして龍馬君は痛みの周辺の徒手療法に加えて、より広範囲の柔軟体操やストレッチ、そして腰椎のモビライゼーションなども治療に加えます。もちろんそれによって治療効果は明らかに良くなります。二郎さんが来院してくるのは週1回から2週に1回に減ったからです。痛みが発生するまでの期間が長くなっています。しかし・・・それでも二郎さんは2週に一度は腰痛の治療に通ってこられます。


 龍馬君はより良い治療効果を求める向上心と、自分の問題点を受け入れる素直さを持っています。だからこそ、もっと良い効果が得られるように考え、努力します。そうして次のような結論に至ります。「2週に一度という周期で痛みが強くなってくるのは、きっと生活を送る中で周辺の軟部組織がその位の周期で硬くなるような状況にあるからだ。たとえば二郎さんは仕事で長時間同じ姿勢をとっている。そして運動習慣がなく、体を様々に動かしたり、多様な筋活動をすることがないのだ。だからその同じような状況で過ごすうちにいつも同じ身体の軟部組織に硬さが生じてしまうに違いない。だからこの人が置かれている状況自体を変えねばならないのだ!」


 こうして龍馬君は次の段階に進みます。広範囲で多様な徒手療法に加え、各種の自己ストレッチや運動を含むホームワークを追加します。こうして二郎さんの通院の間隔は更に1ヶ月に1回と伸びます。


 でも龍馬君はまだ満足できません。来院時に二郎さんに聞いてみます。「ホームワークはやっていますか?」「いやあ、できるだけやっているのですが、忙しくなるとついついやめてしまいます」


 「なるほど!」と龍馬君はハタと気がつきます。そこで次のように二郎さんに言います。「実はですね、二郎さんの腰痛の原因は、長時間同じ姿勢でいること、あまり体を動かさないことが原因なのです。だから体が自然に同じ姿勢で固まって痛みの原因になるのです。運動しないので筋肉は細くなり、縮み、癒着してしまうのです。その結果、血流が悪くなり、関節の動きを悪くし、神経を圧迫したりもするのです。そしてどんどん腰椎を含む全身が悪くなっているのです。


 実は僕にはもうこれ以上できることはありません。だからもし二郎さんが本気で腰痛を治したい、これからの人生を健康に過ごしたいのなら、二郎さん自身がやることを決めて実行していかなくてはなりません」


 そうしてこれまでのホームワークに加え、仕事場での姿勢を変えたり、運動をする工夫や日常生活での運動習慣の取り入れ、椅子や照明などの環境設定の工夫等を二郎さんと話し合います。二郎さんも納得して、生活習慣全体の見直しを図ることに熱意を示されました。


 こうしてついに二郎さんは来なくなりました。そんなある日、町で二郎さんと偶然出会います。「腰痛はどうですか?」と尋ねると「先生に言われたように歩行距離を伸ばしたり、階段を使ったり、仕事の合間にラジオ体操とストレッチをするようになって腰もすっかり良くなりました・・・あ、それに聞いてください!ある日股関節が痛くなったんですが、思いついて大股で歩くようにしたんです。そしたらそれまで痛かった股関節が楽になることを発見しました。運動って本当に大事ですね!」と明るく笑いましたとさ!めでたし、めでたし・・・・(その7に続く)

にほんブログ村 病気ブログ 理学療法士・作業療法士へ
CAMRの最新刊

CAMR基本テキスト

あるある!シリーズ

運動システムにダイブ!シリーズ

CAMR入門シリーズ

カテゴリー

ページの先頭へ