脳性運動障害の理解を見直す(その9 最終回)

目安時間:約 5分

脳性運動障害の理解を見直す(その9 最終回)

 ここまでのまとめです。

 90年以上前に神経生理学者のジャクソンは、階層型理論を提案し、脳性運動障害後の現象を陰性徴候と陽性徴候に分類しました。仮定した神経系の構造と働きを基に仮説としてそれを提案したわけです。

 しかし多くの研究でジャクソンの仮説は否定される部分も多いのです。それにも関わらず未だにリハビリはジャクソンの仮説を中心に動いています。大変なことではないでしょうか?

 少なくともより納得のいく理論が必要です。それの一つがCAMRです。

 CAMRでは人の運動システムの作動の特徴から運動システムを理解します。その作動の特徴をCAMRでは以下の四つが主に重要なものだと考えています。

 ①自律的課題達成

 ②自律的問題解決

 ③状況性

 ④課題特定性

 特に②の自律的問題解決の視点から見ると、脳性運動障害後の主症状はジャクソンのいう陰性徴候です。つまり弛緩性麻痺が主症状です。弛緩状態が広範囲にあるので人は動くことができなくなります。そうすると弛緩状態の部分を硬くして動こうという自律的問題解決の作動が起きます。

 陽性徴候に当たる伸張反射の亢進や過緊張、原始反射の出現は弛緩状態の部分を硬くして動き出すための問題解決だろうと考えられます。

 しかし問題解決といってもその場しのぎの活動です。やがて繰り返されすぎて様々な偽解決状態を生み出してしまい、障害像をより複雑に見せているわけです。(これについてはこのシリーズのここまでのエッセイで説明しています)

 対してCAMRでは、「脳性運動障害後に見られる現象=元々の症状(広範囲の弛緩)+自律的問題解決の作動+偽解決状態」と考えています。こうするとそれまでのジャクソン神経学で見られたいろいろな矛盾が上手く説明できるようになります。

 このようにCAMRの仮説を提案すると、「その理論が真実であることを証明してみろ」という人が出てきます。もちろんこれは、と言うよりどんな理論も真実ではありません。

 というのも理論とはある現象をある視点から説明しているアイデアに過ぎないものです。ジャクソンの階層型理論も一つの仮説であり、アイデアに過ぎないものです。一つの視点から説明しているだけのアイデアが真実であるなどと言えるものではありません。

 だからどんな理論もアイデアに過ぎないし、どんな理論も真実であるはずがありません。

 それでCAMRでは理論は問題解決の道具であると考えています。ある問題の現象を理解・説明し、解決法を導くためのアイデア、つまり問題解決の道具です。 道具であれば得意・不得意があります。スプーンはスープを食べるには良いですが、うどんを食べるのには向きません。その時は箸が便利ですよね。それで道具は一つではなく複数持っていて状況によって使い分ける方が便利です。

 学校では要素還元論という考え方や因果関係という考え方で問題解決を図ることを学んでいます。こんな言葉は知らなくてもそれらの考えに基づいて問題解決の方法を学んでいるのです。

 障害学はその一例です。障害毎に現象を理解し、その問題と原因を挙げて解決法を生み出すわけです。

 そして学校で習う問題解決の道具に加えてCAMRの問題解決の道具の二つを持てば、状況に応じて使い分けができて、問題解決の能力が上がる訳です。どちらの道具にも強みと弱味があり、それぞれがお互いの弱点を補い合います。

 是非ともCAMRの問題解決の道具も学んで身につけることを勧めます。脳性運動障害像がこれまでとは違って見えます。患者さんは自律的に問題解決を図り、独自の課題達成方法を生み出しておられます。その姿に感動をおぼえたりします。それで、ではセラピストはどうするべきかという新しい発想が生まれるのです。(終わり)

※毎週木曜日にはNo+e仁別のエッセイを投稿しています。最新作は「状況変化の技法ね(前編)」https://note.com/camr_reha/

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