脳性運動障害の理解を見直す(その7)
今回は「骨靱帯性問題解決」を紹介します。
通常、脳性運動障害では麻痺側下肢は弛緩性麻痺が出現するため、支持性が失われてしまいます。
この場合、以下の3つの問題解決の状態が見られるようになります。
1つは健側中心に立ち上がるようになります。患側下肢を使わない、あるいは最低限しか使わなくなります。つまり前回説明した「不使用の問題解決」ですね。
2つ目は弛緩部分の筋肉を硬くして支持性を生み出します。伸張反射や原始反射と言われる活動を強める、あるいはキャッチ収縮という筋固有の硬さを維持する活動を盛んに行って筋群を硬い状態に保ちます。これで支持性を獲得して歩けるわけです。
つまり以前説明した「外骨格系問題解決」ですね。
「不使用の問題解決」でも患側下肢がいつのまにかこの外骨格系問題解決によって支持性が生まれていることがあるのですが、使われないために運動システムにその存在が気づかれないのです。そのためにずっと使われないままに過ごしてしまうことで不利益が生じるのでした。
この場合、患側下肢を使ってもらい「この脚はかなり使えるよ」と運動認知のアップデートを行うと、この問題は改善するのでした。
3つ目が今回の「骨靱帯性の問題解決」です。これは関節や骨・靱帯の制限を利用して支持性を生み出すもので、代表的なものに「反張膝」があります。その他に「はさみ足歩行」は大腿骨同士をくっつけて一体にして支持性と安定性を生み出します。筋ジストロフィー症の子どもたちの歩行も全身の靱帯・関節の制限を利用して体全体の支持性を生み出します。
脳卒中片麻痺後には、麻痺側の膝を半伸展位で保持する練習を繰り返すと外骨格系問題解決が発達して支持性が生まれてきます。しかし何も考えずに立っていただいていると、この反張膝で立たれるようになることがあります。反張膝初期には膝折れが起きやすいのです。
しかしこの反張膝を初期に修正しないと、次第に反張膝を保持する全身の運動スキルが発達してきます。よくあるのは反張膝で支える場面で同側の股関節を屈曲し、重心線を膝関節の前方に維持して反張膝を保持するようになります。そうすると、膝折れも見られなくなり一歩一歩腰を後ろに引きながら歩かれるようになります。
いったんこのような運動スキルが発達すると反張膝歩行のスキルを変化させることは非常に困難です。容易に支持性を獲得でき、安定して歩行するためにこれ以上に良い選択肢がなくなってくるのです。
通常下り坂や患側下肢が少し高い段に乗って体重支持すると膝折れが起きやすいものですが、全身の対応で膝折れを維持し続けてしまいます。そうすると外骨格系の支持で体重を支えるより安心感が大きいようで、運動システムはそこから変化しなくなります。
もちろんこれで安全に歩くという課題を達成できるので問題ないと言えばないのですが、歩容が独特になってしまうので患者さん自身が嫌がられて歩容の修正を希望されたりもするのですが、やはりここからの修正は困難です。
意識的には「反張膝歩行を治そう!」と思っていても、運動システムはある程度意識から自立して活動します。無意識に「より安全で楽な運動スキルを選んでしまう」ので、変化しなくなるわけです。
これを防ぐためには初期の立位訓練開始時より、麻痺側の膝関節をやや屈曲した状態で体重支持する練習を繰り返して外骨格系問題解決を促していくことです。方法は患者さん毎に多少違っているのですが、コツをつかめばそれほど難しいことではありません。初期からこの半伸展位での荷重を行っていると、反張膝になることなく体重を支えて実用的な歩行を獲得できます。(その8に続く)




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