「歳のせい」と言う勿れ(その5)203週目

目安時間:約 8分

「歳のせい」と言う勿れ その5 第203週


 さて今回は5番目の治療方略「偽解決解消治療方略」です。


⑤偽解決解消治療方略


 人の運動システムは、必要な課題達成に問題が起きると、自律的に何とかその場で問題を解決して課題を達成しようとします。そこが機械と違うところです。おじいさんの古時計の針は壊れると止まったままです。元々決められた作動しかしません。もっとも1日2回は正確な時刻を指すことにはなりますけどね(^^;)


 さて、たとえば足関節が硬い人が、ある日、健康のためにジョギングを始めます。体を動かすのは気持ちが良いものです。


「あー、すがすがしい!これは毎日続けよう!」と雨の日以外はジョギングを続けます。


 ところがアスファルト道路は大きな傾斜ばかりでなく、微妙な起伏や傾斜があります。体を重力と大地の間で安定させるためには、この大地の大小の起伏に上手く体、特に足部を適応させる必要があります。しかし足部と足関節が硬いために柔軟に変形して大地をつかみ、適応することができません。


 まあ、バランスを崩しやすくなります。足関節で数ミリの傾きでも頭の先では大きなブレになります。


 この運動問題を解決して課題を達成するために、人の運動システムは、膝や股関節の過剰使用で反応するような運動スキルを発達させます。すると膝関節や股関節に過剰にストレスがかかり、痛みを発生することになります。


 つまり足部の硬さでバランスがとりにくいという問題解決のために新たに生み出した膝の運動スキルが、更に新たな膝の痛みという運動問題を生み出してしまうわけです。このように新たな運動問題を生み出してしまうような問題解決を「偽(にせ)解決」とCAMRでは呼びます。


 膝OAの方もそうで、最初に膝痛が起き始めたときに、「痛い脚への荷重時間を短くする」といった問題解決を図るようになります。荷重時間を短くするのはCAMRでは「不使用の問題解決」と呼ばれます。患側下肢での支持をできるだけしない、つまり使わないようにするからです。(これらについて詳しくは拙書「リハビリのコミュ力」か「脳卒中あるある」を参照ください)


 確かにこの不使用の問題解決で少しは楽に歩けるようです。そして「ましな結果が得られる」のでこの運動スキルを自動的に繰り返すようになります。しかし長い距離、期間を歩けば自然に膝や他の関節への負担は大きくなり、足関節や膝関節の痛みは徐々に強まります。結果、次には過剰に杖をついてますます荷重しなくなったり、むしろ動かなくなったりという問題解決に移行していきます。


 このシリーズの最初で紹介した膝痛の方の例では、実はこの不使用の問題解決が使われていました。その結果、ますます動かなくなり、患側下肢を使わなくなっていました。


 元々の膝痛に加えて、偽解決の状態が加わるので状況はより複雑になるのです。


 さて、「偽解決の状態を発見し、偽解決の問題解決に代わり、より適応的な運動スキルを探索・発見・改善の方針を出すのが「偽解決解消治療方略」です。様々な偽解決の状態を理解して、その解消方法を示唆します。


 「不使用問題解決」の場合は、問題が起きないように少しずつ、できるだけ使って課題達成するという方針を持ちます。


 たとえば不使用に対して、「多要素多部位同時治療方略」で、足関節が硬い場合は、周辺の軟部組織のリリースやモビライゼーション、更に全身の大関節の柔軟性という運動リソースを時間の限り改善します。次に「課題達成治療方略」で改善した足関節及び全身の柔軟性を利用して、「十分荷重しても痛みが起きないような歩き方を探して、繰り返す」という「課題設定」と「実施条件」を通して、患側膝を痛くないように荷重・重心移動する運動スキルを探索してもらい、繰り返し、熟練して頂くようにします。


 ともかく「痛みの起きないように」という課題設定の下、痛みのない歩行のための運動スキルの探索、発見、熟練を促すようにします。意外に痛みを生み出さない工夫は沢山あるものです。どれか一つ、工夫が見つかるとそれをきっかけに解決が進みます。


 これが上手く行くと、痛みを生じるような歩行スキルから痛みを生じない歩行スキルへと自然に運動スキルが切り替わります。


 セラピストは、常にいろいろ考えては試行錯誤を行って、自分なりに使える方法をたくさん準備しておくと問題解決の能力が高まります。地道な努力の繰り返しですが、やはりとても大切なことです。


 以上のように、CAMRでは常に五つの治療方略を同時に、適宜用いて、患者さんの運動問題を解決し、生活課題達成力を改善していきます。


 五つの治療方略は最初から完全に使おうと思わなくても良いのです。意識しながら少しずつやっては見直して行くことが大事です。各治療方略についての詳しい技術やマニュアル、実施上の工夫もいずれ公開していく予定です。コロナが収まれば講習会などを通じてお知らせできると思っています。早くコロナが収束すれば良いですね(^^)


 今回は「歳のせいと言う勿れ」というテーマで老化・加齢と運動問題について述べるつもりでしたが、すぐにCAMRの治療方略と治療技術の話になってしまいました(^^;)今書いている別の原稿に引きずられてしまいました(^^;)反省です。 またシリーズを変えて、老化と運動問題については述べていきたいと思います。加齢についてのシステム論の視点は、学校で習ったりするものとは異なった視点を教えてくれます。楽しみにしておいてくださいね。(終わり)


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


【あるある!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」


【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①


【CAMR入門シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①

西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②

西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③

西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④

西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤


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