人の運動の特徴を問われたら・・・(その6)

目安時間:約 7分

人の運動の特徴を問われたら・・・(その6)


 前回は脳性運動障害によって身体の部分あるいは全体に弛緩した状態になることが脳性運動障害のスタートの状態ではないか、と述べた。


 そして弛緩状態では重力に対して適応的に動くことができないので、弛緩した部分を持続的に硬くしていくという問題解決を運動システムがとっていると考えられる。


 確かに硬くすることでコントロールが容易になることがメリットなのだが、残念ながら元々あり合わせのものを使った応急的な問題解決である。


 弛緩した筋群が少しでも硬くなって支持などに使えるようになると、そのメカニズムは有利であるので繰り返される。というより、運動システムはまずはできることを繰り返していくしかないわけだ。結果、際限なく繰り返して使うため、しばしば硬くなりすぎてしまう。そして運動範囲や重心の移動範囲が小さくなり、時には動けなくなるくらい硬くなる。さらには拘縮になったり、知覚異常や痛みを生み出したりもする。


 こうなると本来問題解決だったものが、新たな問題を生み出してしまう。このような問題解決が新たな問題を生み出すような状態は、CAMRでは「偽解決」と呼ぶ。


 軽度~中等度麻痺では、筋力もある程度残っているので、硬くなった部分を何とか利用して色々な生活課題を達成するわけだ。しかし、硬くなりすぎると運動範囲や重心の移動範囲が制限され却って動きにくくなってしまう。つまり偽解決の状態になる。


 リハビリの徒手的療法、たとえば上田法等でこの硬さを減少させると、運動は大きくスムースになるため、「この硬さが健常な運動の出現を邪魔していた」と誤解しがちだった。でも実際には、本来の障害ではなく、偽解決の状態を改善していたわけだ。


 弛緩状態の体で動くためには、弛緩状態の筋群を硬くすることが必須である。だから硬くすること自体が悪いとは言えない。しかし硬くなりすぎることが、逆に新たな問題を引き起こしていたし、見た目の現象もより複雑になったわけだ。 実際にボトックスなどで過緊張を落としすぎると元の弛緩状態が露わになって動きにくい、動けなくなってしまうこともよく知られている。


 また重度の麻痺では、たとえ体を硬くしても元々動ける部分が少ない。だから硬さを更に増してなんとか動こうと際限なく硬くすることを繰り返す。だから重度では全般的に強い硬さだけが目立ってしまう。こういった方をボトックスや上田法などで柔らかくしても、重度の弛緩状態が露わになるだけである。


 とは言え、強い過緊張状態は、呼吸状態や血液循環を低下させ、変形を起こし、痛みを引き起こして患者さん自身を苦しめるため、リラックスできることは非常に重要で意味がある。リラックスできれば、呼吸が楽になり、痛みが治まり、周りや身体の状態をモニターしたり必要な反応を生み出したりすることに集中できるからだ。


 つまり軽度~中等度の麻痺の方では、偽解決の状態を改善し本来持っている運動範囲や重心の移動範囲を十分に利用できるために「偽解決による必要以上の硬さ」を軽減させることが必要。そして重度の麻痺の方にはリラックスしていただくために、強い硬さを改善する上田法などの徒手的療法は必要なのである。


 しかし硬さを軽減させるだけでは不十分である。硬さを改善してもまたしばらくすると硬くなってしまう。運動システムの自律的問題解決の作動である「硬さを生み出す」ことは停止しないからだ。だから偽解決は繰り返されてしまう。つまり繰り返し硬くなる。


 従って上田法などで硬さという状態を改善した後は、これまで述べたように筋力、持久力などの身体リソースや身体と周囲の状態を知る情報リソース等、また身近な生活課題を達成するために有利な装具や補助具などの環境リソースを提供し、それらの運動リソースを十分に使いこなすための運動スキル学習を進めていくことが重要である。


 特に硬さを増す問題解決は、もともと筋力の弱さを補うための問題解決方法である。軽~中等度の麻痺では、筋力改善の可能性もあるので過緊張を軽減した後で筋トレを行う方が良い。筋力が少しでも強くなることで、硬くする問題解決方法へ依存することも減ってくる、つまり持続的な硬さの状態が軽減してくる。偽解決の状態を防げるわけだ。


 実際に尖足で歩いている子どもさんの筋力強化をすると尖足が改善、あるいは見られなくなるなどは現場でよく知られている。脳卒中後の患者さんも屋外歩行を続けている患者さんでは硬くなることが抑えられていることが臨床家の実感としてよく話される。筋力の改善によって運動システムが「硬さstiffnessの自律的問題解決」に頼らなくても動けるようになったからと考えられるのである。


 自律的問題解決は通常、あり合わせの運動リソースをなんとか使って行われるため、このような偽解決の状態を伴うものなのである。(その7に続く)


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