人の運動の特徴を問われたら・・・(その7)
今回は「自律的問題解決」という特徴のまとめである。前回までで、脳性運動障害後に起こる「硬さstiffnessの問題解決」を例に、自律的問題解決が通常、あり合わせの運動リソースをなんとか使って行われるため、過緊張のような偽解決の状態を伴うものであることを説明した。
運動システムは、必要な課題達成に問題が起こると、自律的問題解決という作動によって問題を解決して必要な課題を達成しようとする性質がある。この問題解決がうまく機能する場合もあるが、残念ながら偽解決の状態に陥ってしまうことも多い。
運動システムの自律的問題解決は、あり合わせの運動リソースを使って行われるため、必ずしも上手く機能しないことも多い。また少しでも上手く行きそうならそればかりを繰り返してしまうこともある。結果、偽解決の状態になるわけだ。
さて、ここまでで例に挙げたこの「硬さの自律的問題解決」はCAMRでは「外骨格系問題解決」と呼ばれる。 CAMRでは人の運動システムでは、「外骨格系問題解決」を含めて以下の6種類の問題解決方略があると考えている。
①探索利用スキル
②外骨格系問題解決
③不使用の問題解決
④骨靱帯性問題解決
⑤健康時の問題解決
⑥安心確保の問題解決
各問題解決方略には、それぞれ特徴的な偽解決の状態が起こりうる。詳しくは拙書「リハビリのシステム論(前・後編)-生活課題達成力の改善について」を参照してほしい。
さて、このような偽解決の状態から抜け出すことは、もう患者さん自身では難しい。自律的問題解決の作動は、本人の意識とは独立して起こるので、患者さん自身なにが起きているのか理解することはできない。患者さん自身が、自律的問題解決による現象を、障害の症状と理解してしまう。だからコントロールもできない。
そこでセラピストの役割が重要になる。患者さんが運動課題を通して、偽解決の状態に陥らないようにする必要があるし、もし偽解決の状態に陥っていたら、そこから抜け出す方略を立てて助ける必要がある。
偽解決の状態は、運動システムが持っている能力を発揮し、生活課題達成力を改善していくことを邪魔するからである。まず偽解決の状態から抜け出さないと本来の能力を発揮することは難しい。
だからセラピストは人の自律的問題解決の作動とその後に起きる偽解決の状態についてよく知っておく必要がある。そうすると以下のような解決例も出てくる。
たとえば体が硬くなることで悩んでいて、何年も病院巡りをする患者さんがいた。そこでまず上田法を実施して体の硬さが取れることを実感してもらう。「軽く動けるわい」と喜ばれる。
そして「あなたの体は、麻痺(弛緩)した身体で動くために頑張って硬くしてるんですよ。でもじっとしていると体は仕方なくこの硬くするという解決方法を繰り返すだけです。他にやりようがないからです。
しかしできるだけ多様に動いていると、力がついてきて、この硬さの問題解決に頼ることがなくなります。動いていると硬くなることに頼らなくなるんです。だから無理しない程度に動き続けることは大事です」と説明すると、自ら積極的に動いて、「確かに動くと以前のように体が硬くならなくなったわい」とこの作動の意味を納得されたようだ。
さらに「どうも最近、背中に余分な硬さがあって、これだけが不快じゃからこれを上田法で取ってくれ」などと言われるのである。硬くなること自体は問題解決という「基本的に価値のあること」とリフレイミングされてあまり悩まなくなったとも言える。(次回最終回に続く)
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