「代償運動」って本当に悪い?(その1)

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「代償運動」って本当に悪い?(その1)


 「代償運動」の「代償」の意味は、広辞苑によると「(比喩的に)ある目標を達成するために払う犠牲や損害」とか「本人に代わって弁償代弁すること」とか「直接実現できない目標を他の類似したものにおきかえて欲求を充足させること」などがある。そうなると「代償運動」で意味されるのはおおよそ「(犠牲や損害を伴う)問題のある運動」だったり、「本来の運動ができないので代わりの運動」といった意味になるのだろう。つまり「あまりよろしくない運動」というイメージである。


 実際、学校を卒業したばかりの新人さんなどに聞くと、やはり「代償運動は悪いことなのでやめさせた方が良い」などと答える。


 いや、新人さんばかりでなくベテランセラピストの中にも「代償運動は今は良くても、特定の部位に過剰な運動を強いることでやがて歪みを大きくし、変形・痛みなどの原因になるから、なんとしても修正するべきである」とか「本来の正しい運動をできるように修正するべき」などという方もおられる。


 「そうか、そんな風に考えると代償運動は悪いものに違いない」と思う。


 たとえば歩行時に膝に痛みを訴える方がいる。最近屋外歩行を始めたら、膝が痛くなったと言われる。近医を受診したら「変形性膝関節症」の診断名がついた。若いセラピストは困ってしまう。「膝が変形したのだから仕方がないとは思うが、何とか膝をよくできないものか?」といった相談を受けることも多い。


 こんな時はあまり詳しい説明はしないで、「まず足部の小さな関節のモビライゼーションと足関節のストレッチを十分にしてみて。それでダメなら言って」などと伝える。


 そうすると最初のアプローチで「膝の痛みが軽くなった、良くなった」と経験することも多い。「全身の各部位は影響し合う」ということを実際に経験するには良い機会だと思っているのでそうしている。


 すると若いセラピストが「あれで膝が良くなったんですね」などと言う。まあ、単純・素朴にそんなことを言う。


 こんな時に「代償運動」という言葉は便利かも知れない。以下の通り。


 「いや、厳密に言うと膝を治したわけじゃない。あくまでも膝痛の原因の一つとして考えて欲しいが、この方の全身の動きを見ると硬くて各関節の動きは小さくてやや小刻みな歩き方をされる。こんな方は特に足関節や足部の柔軟性などが低下していて、大地の凹凸を上手く足部で吸収できていないことが多い。それでは歩行が不安定になるよね。


 そして最近になって屋外歩行を始められた。それで大地からの起伏を吸収して体幹を安定させるために足関節の代わりに膝関節が頑張って過剰に働いて負担がかかっている可能性がある。つまり足関節がうまく機能していないから、膝関節での『代償運動』で揺れを吸収している。


 そこでまずは足関節と足部の柔軟性を改善してみる。すると足部が大地のデコボコに上手く適応するようになるので、膝の『代償運動』が過剰に使われなくなり、痛みが軽くなった可能性がある。これがダメならまた次のポイントへアプローチする」


 などと説明する。こうするとやはり代償運動は悪い運動で修正するべきとなって、わかりやすいのかも知れない・・・・・いや、たまたまこれが良い例であるに過ぎない。


 臨床ではこのように説明に便利な場面が希にあるという理由だけで、この「代償運動」=「好ましくない運動」という図式が当たり前になっているのではないか。この単純な図式によって、実は様々な弊害が生まれているのではないか。どういうことか?


 次回からこの「代償運動」という言葉を色々な角度から検討してみたいと思うのだ。(その2に続く)


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