人の運動の特徴を問われたら・・・(その8最終回)

目安時間:約 5分

人の運動の特徴を問われたら・・・(その8最終回)


 今回は人の運動や運動システムの特徴について検討してみた。それによって患者さんの運動障害をより深く理解したり、アプローチをより効果的に実施したりすることができるということを示してきたつもりである。


 ただ、このシリーズの「その1」で挙げた学校で習う「構造と機能」から理解する視点は、今さらだが少し説明不足だったのでここで補っておく。


 人の体を機械とみなして構造と各器官の機能などを理解しておくことは、西洋医学の基本である。そしてこれによって医学は大きく価値を認められ、進歩したのは間違いない。リハビリの分野でも、特に整形疾患などの分野では目覚ましい効果を上げてきたことによって、世間にその存在価値を認められたのである。 つまりこの視点での捉え方自体は、整形疾患などの領域では非常に効果的である。


 しかし脳性運動障害などの領域では、これまでこの視点からのアプローチは「脳を構造的、あるいは機能的に治す」ことに集中したもののあまり効果を上げてこなかった。整形における義肢・装具のような効果的な環境リソースで脳の機能を補うこともできなかったからだ。


 ただ最近ではリハビリではなく、電子工学の分野で脳波を拾って、筋の収縮をコントロールするような新しい技術が生まれてきており、この視点からのアプローチの発展は非常に楽しみではある。


 一つ言えるのはどの見方にも長所があり、短所もあるということだ。つまり二つの見方を持つことで、お互いの短所を補える訳だ。


 さて、システム論の「運動システムの作動の視点」からは、主に3つの特徴を理解することによってセラピストのやるべき内容が明確になった。


①状況性という特徴を支えているのは、豊富な運動リソースと多彩な運動スキルの創出である。まず私たちセラピストがやるべきことは、運動リソースをできるだけ豊富にし、運動スキルの創出能力を高めて多彩にすることである。


②課題特定的という特徴から、運動リソースの豊富化と運動スキルの創出能力や多彩化は、患者にとって必要で具体的な課題を通して行われるということがわかった。それ故課題設定と修正はセラピストの重要な仕事である。


 アメリカの「課題主導型アプローチ」はこのアイデアが中心に展開されている。ただこれまでの学校で習う要素還元論の考え方を否定したりして、まるで過去に積み重ねてきた経験や知識を捨て去ってしまうような考え方にやや危うい感じを抱くのは僕だけだろうか?


③自律的問題解決という特徴から、システムの自律的問題解決とそれが偽解決という状態に移行しやすいことを理解することが重要である。常に自律的問題解決が偽解決に陥っていないかどうかを評価すること。そして陥っている場合は、偽解決の状態から救い出す方略を考えることが必要である。


 さてどうだろうか?実はまだまだ考えるべきことは沢山あるのでだが、また別の機会に検討したい(終わり)


【CAMRの最新刊】

西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(前編): 生活課題達成力の改善について」

西尾 幸敏 著「リハビリのシステム論(後編): 生活課題達成力の改善について」


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


【あるある!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」


【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①


【CAMR入門シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①

西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②

西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③

西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④

西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤


p.s.ブログランキングに参加しています。クリックのご協力、ありがとうございます!

にほんブログ村 病気ブログ 理学療法士・作業療法士へ

この記事に関連する記事一覧

コメントフォーム

名前

メールアドレス

URL

コメント

トラックバックURL: 
CAMRの最新刊

CAMR基本テキスト

あるある!シリーズ

運動システムにダイブ!シリーズ

CAMR入門シリーズ

カテゴリー

ページの先頭へ