運動リソースとリハビリ(その4)192週目

目安時間:約 6分

運動リソースとリハビリ(その4)192週目


 さて、医療的リハビリのセラピストはこの「身体リソースの改善」を治療の主な手段としているのだが、ともすれば「身体リソースの改善」だけが我々の手段だと考えているセラピストもいる。そしてこの「身体リソースを改善するのが、我々医療的リハビリテーションのセラピストの仕事である」という思い込みは我々セラピストの可能性をとても狭めてしまう。


 たとえば若手のセラピストからの以下のような話を聞いた。


「もう3週間も続けて筋トレしているのに、なかなか筋力が上がらない。歩行能力を改善することが目標なのにどうしたら良いんだろう?」などという悩みである。


 詳しく聞いてみると「以前はしっかり歩いていたおばあちゃんだが、転倒して圧迫骨折を起こした。痛みはなくなっているがそれ以来、歩行不安定で筋トレしても筋力が改善しない。病棟の看護師からも『家族が待ってるんだから早く筋力上げて、歩行をしっかり安定させてよ』と言われて悩んでる」と言う。


「でも筋力は改善しないし、どうしようもないです」という。「筋力が改善できないリハビリや自分は無力である」と悩んでしまうようだ。


 これはあまりにも身体リソースだけに焦点を当て過ぎている。リハビリの仕事は「身体リソースの改善である」と思い込み過ぎている。彼のいる若いスタッフばかりの職場では、皆が同じように悩んでいるという。「どうして筋力が改善しないと思うか?」と聞くと「転倒時に末梢神経麻痺が起きたのかも・・・」と答える。


 どうも詳しく聞いてみると、両手杖や伝い歩きなどでも何とか移動できそうなレベルである。


「そうだね、じゃあ環境リソース、たとえば屋外ではシルバーカーとか、屋内では両手杖と家具や壁の伝い歩きを検討したら?」


「でも病棟もスタッフも、家族は独歩を希望しているんだからその希望に応えるように努力しようよって感じで・・・・」と答える。


「ああ、なるほど」と思う。


 僕が思うに、医療的リハビリのセラピストは自らの仕事の限界について語るのが苦手な人が多い。たとえば「麻痺があると筋力の改善は難しいというかほぼできません。だから独歩で安定して歩くのは難しいです」とはっきり言うことを恐れる人達がいる。


・明るく、いつも前向きなセラピスト


・クライエントの希望を大事にするセラピスト


・熱く理想を語るセラピスト


・「諦めたらそこで終わりだ」が口癖のセラピスト


 上記のようなイメージが医療的リハビリのセラピストの目指すべき姿だと思っているのではないか。その若いスタッフも現実とその理想の狭間で苦しんでいるのだろう。


 だが考えてみるとどんな職業にも限界がある。それが当然だ。そして成熟したプロフェショナルは、自らの仕事の限界についてもよく知っているし、それを隠す必要もないと考えるものだ。事実なので。だからこそ、その限界の中でできる限りの代替案を考え出したり少しでもクライエントの意向に添えるように工夫したりするものだ。(もっともテレビで「ザ・プロフェショナル」のような一職業人を理想化して扱う番組もあって、「限界はないんだ!」みたいに高らかに讃えたりするのでやりにくい。まあ見るとやる気になるのも確かだしね(^^;)それに、簡単に諦めてすぐ楽をしてしまうセラピストが実際にいるのも問題だしね(^^;))


 でも自らの仕事の限界を認識して「自分のできること、できないこと」が明確でないと、ズルズルとゴールも決めないまま仕事をしてしまうことになる。独歩の見通しは立たないのに、それを患者さん本人や家族に黙ったままズルズルとその努力を繰り返すのはプロとしてどうなのか?


「独歩はできません。その代わり、シルバーカーで屋外歩行はできますし、室内は杖と壁、家具の伝い歩きで十分に独りで移動できるように努力することならできます。それでも良いですか?」と自信を持って提案できるようになるべきでは?それで了承してもらえるなら、それに向かって最大限努力すれば良いのである・・・・ ごめんなさい、ちょっと今回はテーマから逸脱してしまいました(^^;) 次回は環境リソースについてです。(その5に続く)


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


【あるある!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」


【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①


【CAMR入門シリーズの電子書籍】

西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①

西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②

西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③

西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④

西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤


p.s.ブログランキングに参加しています。クリックのご協力、ありがとうございます!

にほんブログ村 病気ブログ 理学療法士・作業療法士へ

この記事に関連する記事一覧

コメントフォーム

名前

メールアドレス

URL

コメント

トラックバックURL: 
CAMR基本テキスト

あるある!シリーズ

運動システムにダイブ!シリーズ

CAMR入門シリーズ

カテゴリー

ページの先頭へ